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「今日は、自習ね?」
「またかよ! お前やる気ねーだろ絶対!」
だん、と机に足を踏み鳴らして少年は教師を指差すが、周囲では歓声が沸き起こっている。一限目からこれであり、マリエッタの行動を予想してあらかじめ遅刻している生徒もいる。要するに彼女は、ナメられてたり、生徒にとっては有難い存在だったりするのだ。心の距離がもっとも生徒に近い先生だったりする。
「はーい、グレン! 廊下に立ってなさい!」
「キャラ名で呼ぶなし!」
ホストか俺は。源氏名じゃねーんだぞ。
どうやらマリエッタはグレンと呼ばれた少年の事が好きではないらしい。笑顔のままビキビキと青筋を浮かべ、グレンの腕を掴んで廊下に運んでいく。
「……で、どうなのよ? 宿題はちゃんとやってきたの?」
廊下に出た途端、マリエッタは人が変わったかのように、冷酷な眼差しでグレンを見上げた。口調も悪役のように刺々しい。これを見たら、マリエッタの事を甘く見ていた生徒も教師として敬遠するだろう。
「やってねーよ」
「はっ、そんな事だろうとおもっはわ。ほんはほほひゃ、ひひひんはへの」
「おい。なんで俺が、お前の趣味の勉強をしなきゃいけないんだ? そんなにゲームがしたけりゃ、他にゲームオタクとかいるだろ。なんで俺だけなんだよ?」
シリアスな顔でマリエッタは両方をつねられ、途中から涙目になっている。このまんまずーっとつねっていたい衝動に駆られるのは、少年がドSだからだろうか。
「そっ、そんな事じゃ、一人前の冒険者になれないからね!?」
「なるつもりもないし、なりたいとも思わない。だいたい、俺はお前に言われるがままずっとプレイしてソードマスターまで上り詰めたんだぞ? なんで今さら俺が初心者の宿題なんかやらなきゃいけねぇんだよ? あぁ、もう、ゲームの中で敬語使ってた俺がバカみてぇだ。もうお前なんかに敬語使わねー」
途端、マリエッタの顔が桃のように赤くなっていく。なにを勘違いしているのだろうか、熱くなった自分の頬を包み込んでクネクネと……
「そ、そんな。ま、まぁ? うん、グレンならわりと男らしい所もあるしリードしてくれそうだから……敬語じゃなくってもいいけど……き、基本的に私とあなたは教師と生徒であって決して結ばれるような――」
「は? なに言ってんだお前」