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声なき声で、ただただひたすら彼女は感情のままに泣き続けた。
「帰ろう。俺たちの世界に」
ボロボロと大粒の涙を流し、小さく頷いている。過去の事すべてを否定されたような気分なのか、それとも自分が死んでいた事が悲しかったのか。
「……グレン、おんぶ」
「あー、はいはい。ったく、ワガママなオヒメサマだなお前は。今回だけだぞ」
泣き疲れて歩けなくなったマリエッタを背負って、ふと振り返る。
「いつまでコソコソくっついてきてんだよ? もう心配いらないぞ。周りに誰もいない」
「ふ、ふン! 我が隠れているだと? 貴様、我が隠れるとでも思っているのか? 我は黒曜の魔術師、なっ」
「見て見て、なにあれ、ダッサー」
女子高生の気配を感じたのだろうか。グレンがその女共を舌打ちと共に睨みつけると、そそくさと行ってしまった。振り返ると、なっちゅの姿はない。周囲の木の陰から見つめる一つ目目隠し。
「隠れてないか……?」
「こ、こんな所に伝説の勇者の気配がしただけだ。隠れてはいない。逃げただけだ!」
「もっと酷くなってるぞ」
恥ずかしそうに俯き、先行していく。
久しぶりに歩く道は元いた世界に酷似している。毎日毎日、自転車を漕ぐ道。歩いているからこそ、普段見えない物が見えてきたりもする。しばらく歩いた後、グレンは口を開いた。
「そういえば、なっちゅ」
「はい? なんですか?」
「どうやってお前は、こっちの世界の、この場所に来れたんだ?」
んんー、と小さな口元に指を持っていき考えている。
「どうしてでしょう? まったく分かりません。ただ、私は『もう家に帰りたい』。そう強く願っただけです」
「はいはいはーい。私も! 『なっちゅを助けたい!』って思ったら、なんか知らないけどなっちゅの家の前にいた」
という事はつまり、願った場所に行けるという事なのだろうか。なにも考えずに飛んでいたら上空五千メートルの高さから落下していたのかもしれない。深海に飛ばされていたのかもしれない。そう考えると、ゾッとする。
「助けに来てくれたんですね。……ありがとう。私、本当はもうダメかと思っていました」
「まぁ、本当は私もグレンに強引に連れてこられただけなんだけどね」
なっちゅは俯いた顔をふとマリエッタに向け、そして『えっ』という声を漏らしそうな口元をグレンに向けた。
「俺の予想が正しければ、この辺りに空間の歪みがあるはずだ」
そこはなっちゅの家の前。グレンたちが最初に出てきた場所だ。ネックレスを力強く持ち、徘徊。ここだけみると怪しい人だ。せめてコスプレをやめてほしい。




