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「え、いや。あの……私、真理恵だけど」
「……夢でも見ているのかしら。真理恵ちゃんは……」
校長の視線の先。そこには歴代の校長写真の隣に家族写真があった。父と母と思われる、両手をつないだ、マリエッタの写真。とてもとても幸せそうな満面の笑みでこちらを見つめている。
「アメリカから帰ってくる飛行機で死んだの。大好きだったご両親と一緒にね。エンジントラブルで墜落だったらしいわ」
額縁の裏から、校長は色あせた当時の新聞を取り出している。
「……嘘だ」
「私も、何度もそう願ったわ。私は、二年前からずっと、時が止まっているの。どうして、私は一緒に真理恵ちゃんと写真に写らなかったのか。シャッターを切ったのは私なのに。……ずっとずっと後悔してたの」
当時の新聞記事を読み、マリエッタから血の気が引いている。
「あの子は内向的すぎて友達がいなかったの。だけど、今は幸せそうね。きっと、神様が幸せな時間を与えてくれたのね。……夢の中だというのは分かっているけれど、一つだけお願いがあるの。一緒に、写真に写ってくれない?」
校長の、時代遅れのガラパゴス携帯をグレンは二人に向ける。
「……笑えよ、マリエッタ。写真に写る時だけは、なにがあっても笑顔でいろ」
泣きそうになっている彼女が、校長の首に思いっきり抱きつき、満面の笑みを見せてみる。そして真実は写された。ゆっくり、校長の首から離れていく。
「もう行っちゃうの?」
「……うん。愛してくれて、ありがとう」
涙を溜め、今生の別れを告げる。早足で先に出て行ってしまった。
「校長先生、一ついいですか? マリエッタ……真理恵は、大学を卒業したんですか?」
「いいえ? 真理恵ちゃんは、ごく普通の女の子でしたよ? あら、ありがとう。……まぁ、本当によく撮れてるわ。最近の携帯電話って凄いのね」
校長が見た先に、もうグレンらの姿はなかった。
「……なんて素敵な夢なのかしら。もう一度真理恵ちゃんに会えるなんて」
グレンは急いでマリエッタを追いかけた。この世界ではぐれてしまうと、探すのに一苦労する。彼らは今、携帯電話もなにも持っていないのだ。ようやく追い付き、彼はマリエッタの肩を掴んだ。
「おい待てよ、どこ行くんだ」
今までずっと我慢していたのか、なにも言わずにグレンの胸に飛び込んでくる。




