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 身体がない。だけど意識はある。絶対零度のように凍える空間で、グレンは静かに神経を研ぎ澄ましていた。



(嫌ー! いやぁぁ! やっぱり私、おうち帰るー! なにこれ怖いんですけど! 寒いんですけど! 身体を感じないんですけどぉぉぉ!)


(うるさい黙れ。置いていくぞ)



 未だに個人チャットが使えるらしい。ここがどこなのかも分からないのに涙目で叫んでいる声だけは聞こえてくる。



「ひどい! 最低! なんなのその放置プレイ!」


「だから黙……あれ?」



 普通に耳で言葉を感じている事に気がついたグレンは、閉じていた目を開く。見覚えのある景色だった。眼前には、片側一車線の道路。木々が連なった深い山。


 間違いない。ここは東京都桧原村だ。古風な兜造りの家のが道路の向かい側に立っている。



(帰ってきた。俺たちは……帰ってきた!)



 思わず綻ぶ顔を見合わせ、そしてふと疑問に思う。なぜこんな民家の前に立っているのだろう。近付いて表札を見てみると、『桃瀬』と書いてある。



「あれ? 赤城さん……ですか? こんにちわ。どうかしたのですか?」



 妙に他人行儀な声の主を見ると、なっちゅが高校の制服姿で自転車を押していた。



「桃瀬さん! まぁ、家庭訪問ってところかな。いきなり消えるんだもん。びっくりしいだぁっ!?」



 なにすんの突然! とでも言いたそうに涙目でキッと睨む。グレンのゲンコツがマリエッタの脳天に直撃している。



「ふふふ。仲がいいですね。妹さんですか?」



 クスリと自然な笑顔を見て、グレンは確信する。



「――あぁ、そうなんだ。俺の妹の真理恵。よろしくな」


「……えっ?」


「文化祭は終わりましたよ? 兄妹揃って仮装してるんですか?」


「そうだ。コスプレに最近目覚めてな。この近くに俺の女友達も来てるんだ。目隠しのような物をつけてるんだけど……見てないか?」


「そういえば、たった今見かけましたね。目立ってたのですぐに分かりました。あっちに行ってましたよ」


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