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「らのべ? なんだ、それは」
「小説の一種だよ。知らないのかお前」
年上を『お前』呼ばわりしているグレン。プライスレス。
「むぅ。知らんな。ところで魔王というのは? さっきから聞いていれば私がその魔王という輩と同格のような話になっているが」
「無駄だぜ、お前ら」
他のパーティの奴が話に混じってきた。先ほどまでマリエッタと酒盛りをしていた男たちの一人だ。
「『国王様と王女様は、この俺が絶対に守る』と言って聞かなかった男だったが、王女様が行方不明になった途端、その男は姿をくらました。口癖のように言っていたが、所詮そいつは口だけの腰ぬけ野郎だったのさ。王国の紋章? そんなネックレス、偽物に決まってらぁ」
「……」
変なおじさん(なにげにイケメン)は寂しそうに瞳を落としている。
「俺も一応、アルファテスト時代からプレイしてるからな。そいつの噂はよく耳にしてたぜ。なっ、腰ぬけのエディ」
「消えろ」
突如、なっちゅから冷たい言葉が発せられる。
「……なんだと? もう一度言ってみろ」
「貴様、我らに刃向かうとはいい度胸をしているな。我は十神魔将が一人、なっちゅ。名を上げたくば、かかってくるがいい」
なっちゅがいつもとは違う凄まじいオーラで男を睨みつける。
「じゅ、十神魔将のなっちゅだと……? ……ヘッ。そんなデマに引っ掛かるかってんだ。どこからどう見てもお前、単なるチビだろ」
「……ふ、ふン。どうやら目が腐っているようだな貴様」
「やめろよ、なっちゅ。こんな所で喧嘩しても無意味だ」
「お前も、どうしたんだ。いや、すまなかった。ウチの者がとんだ無礼を。トイレに行っている間に、まさか喧嘩に発展するとは」
別パーティのリーダーらしき人物が男を止めに入っている。さっきまで楽しくマリエッタと飲んでいたのが台無しだ。マリエッタはグレンの背中に埋もれたまま、ツーンと視線を外し、黙っている。どうやら言葉を発したくないらしい。
「いや、本当にすまなかった。せめてもの償いだ。早急に立ち去るよ」
そう言って、勘定を支払い文句を言ってきた男の耳を引っ張り出ていく。
「エディ……でいいのでしょうか。気にしないで下さい。過去より、今を生きましょう! 私たちがついてます! ね!」




