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「なぜだろう。ものすごく顔がヒリヒリするのだが」
酒場。そこは腹を満たすだけでなく、冒険者同士が互いに酒を酌み交わし情報交換をする場所だったりする。互いに互いの功績をたたえて嬉しくなったり、酔った勢いで怒って喧嘩したり、それを楽しんで周りから見ていたり、今までお世話になったパーティと別れることになって悲しくなったり。喜怒哀楽のドラマが詰まっているその場所がここだ。唯一グレンのお気に入りの場所である。
巨大な骨付き肉にかぶりついて、もぐもぐしている男がシリアスな顔でつぶやいた。
「そりゃまぁ、引っ張ったからな」
年の頃は三十代前半くらいだろうか。顔から首にかけて紋様が刻まれている。この調子だと上半身まで刻まれていそうだ。アシンメトリーの銀髪をかき上げて、ごち、と一言。
「礼はいいから、さっさと行けよ。俺たちは――なに呆けてんだ? なっちゅ」
男の眼前、頬杖をついたなっちゅの口が、ほけーっと開いている。グレンが細長いポテトを口元に持っていくと、くるくる回すタイプのような鉛筆削りのように細かく刻んで食べている。そしてまた閉まらない。
「考え事かな」
食事を終え、従業員に皿を返しながら男が答えた。
「ところで、君たちの名はなんという。この曖昧な記憶が戻り次第、礼がしたい」
「いや、だから早く行けっての。別にいら」
「我が名は黒曜の魔術師、なっちゅだ! 貴様もプレイヤーなら一度は聞いた事があるはずだぞ!」
「……という、ごっこ遊びをしてるのだな」
「…………」
誰からも信じてもらえない。死んだ魚のような口をして、なっちゅは座った。いきなり威勢よく立ち上がって自己紹介したと思ったら、これだ。あぁ、もう。どうして相手にするんだ、メンドクセェ。そう言いたそうなグレンの顔。
「君、どうかしたのか? そんなに私を見つめて」
「……え? い、いえ。どこかで見た事あるような気が……」
一つ目目隠ししている状態でも視線を感じたようだ。人間ってすごい。
「な、なんだって? ぜひ教えてくれ!」
「あ、いえ。今のところ、まだ思い出せないのです。ごめんなさい」
(なっちゅのばかっ! もう知らない! そんな事言ったら……)
「是非とも、君が思い出すまで同行させてもらえないだろうか。ハイかイエスで答えてもらおう」
「は、あっ……イエあっ。……はい」




