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特になにも感じないのだろうか、グレンは己の手のひらを見つめている。ただ、少しずつ、本当に少しずつ薄れていっている。
「どうです、レベル1は。懐かしいでしょう?」
「なっ、なんだとっ!?」
にこやかに――最近の言葉を使うとゲス顔で――振り向いた松下の顔が、固まった。
「なっ、なっちゅ! 探しましたよ!」
グレンの隣には、大切そうにリコーダーを抱えている、あの一つ目目隠し少女がいた。同じく身体が薄れていっている。
「やはり貴様が持っていたのか、グレン。お前の周りをちょろちょろしてて正解だった。普通に言っても全然返してくれないし、かといって我は掏りのスキルも持ってないしな」
どうでもいいが、『貴様』と言っているようだが『きしゃま』にしか聞こえない。
「え、なっちゅ? コイツが?」
グレンが中二漂う一つ目目隠しをびよーんと引っ張り、上から顔を覗こうとしている。
「あっ、や、やめて、やめて。貴様、我にこのような事をして……あぅ!」
顔を見て満足したのか、ぱちーん、と痛そうな音が周りに響いた。
「もう許さん! 我が名はなっちゅ! 万夫不当の黒曜の魔術師なるぞ! 今こそ究極大魔法で貴様を……」
「や、やめてください、なっちゅ! ここで究極大魔法を放っては、この街が地図から消え去りますよ!」
構わず詠唱を続けていたが、なっちゅの頭から、ぷぴゅう、となにかが飛んでいき、パタリと倒れてしまった。
血だ。
「あ、あれ……? 『MPが足りません』……? ど、どういう事なんですか? あれ?」
なっちゅが完全に素に戻っている。大根台詞じゃなくなっている。
「この私とした事が、なっちゅにまで……! 戻ってきて下さい、なっちゅ!」
松下が彼女の腕を取ろうとしたが、すり抜けてしまった。
「ここは上級者の街メルフィス。低レベルの者は存在すら出来ない。お前との勝負は、どうやらお預けらしいな。なっちゅ、せいぜい頑張って俺たちの元へ帰ってくるがいい。十神魔将の座を他の者に取られたくなかったらな」
「なんで説明口調なんだよ」
「うっ、うるさい!」
最後にグレンが目にしたのは、恥ずかしそうに視線を逸らして俯いている、ゆっきーにょの姿だった。




