表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/20

19.

「あ、あのー」

「はい」

「梨央奈ですけど」

「ああ、梨央奈ちゃんか、久しぶりだね」

「あの、その、すみませんでした」

「何が?」


 電話の向こう側の聡さんは本当に不思議そうにそう聞き返してきた。


「なんか利用したみたいで」

「あー、ああ。いや。僕も利用させてもらったからね」

「え?」

「おばがうるさくってね。梨央奈ちゃんがいてくれたおかげで見合い話持ってこられずに済んだよ」

「は、はあ」


 なんだ聡さんも同じだったのか。


「で、どうなったの? 片思いの彼とは?」

「あ、あの……その、け、結婚します」

「! それはまた急な展開だね」

「あ、はい。その、すみません」


 電話の向こう側の聡さんがクククと笑った。


「そんなに恐縮しなくていいよ。よかったね。上手くいって」

「はい。ありがとうございます」

「わざわざ直接伝えてくれてありがとう」


 母に聡さんとの関係を告白して聡さんの連絡先を教えてもらったのだ。もちろん結婚することを話してからだけど。


「い、いえ。聡さんもその頑張ってください」


 何をとは言えなかった。おばさんから逃れることか結婚することか。


「ああ、ありがとう。じゃあね、梨央奈ちゃん」

「はい。じゃあ。ありがとうございました」


 電話を切るとフーッと息を吐く。慣れないな男の人と話をするのって。智也とはあんなに話をするのに。


「どうした? なんか言われたのか?」


 智也が心配そうに聞いてきた。


「ううん。大丈夫。なんにも。逆にお礼を言われちゃった」

「そっか」

「うん」



 ***


 それからしばらくして年末がやってきた。智也は後から私の実家に来ることになった。智也のことは先に父に告げておいたほうがいいということで私が先に実家に帰って話すことになっている。

 母にはこの前話をしたし紗子には話はもう伝わっているのだろう。実家で会った紗子は妙にニヤニヤしていた。

 父に話すタイミングが取れず、ズルズルと夜になってしまった。こうなったらお酒を飲ませるしかない。記憶をなくしてしまう前に話をしてしまおう。


「梨央奈、聡さんのことは残念だったなあ」

「へ?」


 残念? 一体どんな風に話が伝わったんだろうか。それにしても元気がないと思ったらそういうことか。見合い話が壊れてしまったとガックリしてたんだ。


「次は大丈夫だぞ。な、まあお前も飲め。今日はヤケに大人しいな」

「あ、あのねお父さん。その……」


 ピンポーンとこのタイミングで誰か来たみたいだ。誰よ! こんな遅くに!


「梨央奈!」


 母がこちらを見て手招きをしている。え? 私の知り合い?

 思い浮かぶ人は誰もいない。


 母の方へ行って見ると

「吉野君が来てるのよ」

「え? ええ?」


「どうした梨央奈?」

「な、なんでもない」


 なんでもないことはない。どうしよう。まだ話をしてないのに。でも、いつまでも玄関先に智也をまたしておくわけにもいかない。こんな季節だし風邪でも引いたら可哀想だし。


「梨央奈話をしてないんでしょ?」

「でも、仕方ないよ。入ってもらって」


 母は頷くと玄関に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ