彼女との出会い-2
彼女を目で追うようになって、わかったことがある。
弥生ちゃんはいつも寝ている。……ってまあ、それは当たり前のことなんだけど。
そして、あんまり笑わない。
単独行動が好きっぽいけど、友達は結構多い。それでも、極めてクールな彼女はあまり笑わないのだ。
笑いのハードルが高すぎるのだろうか。それとも全世界を冷めた目で見すぎているのだろうか。
どっちにしろオレにとってはめちゃくちゃ格好良く思えたけど。
完全にハートを射抜かれたのは、いつかの国語の授業中のこと。
『わ、今日は宮田さんが起きてるよ……』
『珍しいこともあるんだねぇ』
そんな囁きがあちこちで飛び交うほど、教室中は驚きに包まれていた。
寝坊してきたからか、珍しく授業中に弥生ちゃんが起きていたのだ。
――弥生ちゃんが起きている。
新鮮で勝手に嬉しい気持ちに浸っていると、あろうことか、こんな日に限ってオレは眠くなってしまった。というか寝てしまった。
いつもはしっかり起きて授業を聞いてるフリをして、弥生ちゃんの寝顔を遠くから見ているこのオレが。
『土屋!! 授業中よ、起きなさい!!』
『は、はいっ!!』
杉野先生に怒鳴られ、オレはハッとして慌てて返事をした。
なぜか――勢い余ってか、席まで立って。
『何やってんだよ、碧!』
教室中が爆笑の渦に包まれる。
『すみません……』
オレは苦笑しながら着席した。
あー、しくった。今の、弥生ちゃんはどう思ったんだろ。
居眠りのプロ・弥生ちゃんだったら『すみません』と静かに返すだろうに……。
悶々と考えていると、前の席の弥生ちゃんが――卒然とこちらを振り返った。
眠たそうな目の弥生ちゃんと、目が合う。
――彼女はなんと、笑っていた。
『!!!』
杉野先生に怒鳴られ、しかも恥ずかしいコトに席をたって反応したオレの行動がツボにはまったのだろうか。それとも「ざまあw」と嘲笑しているのだろうか。
喜ぶべきか否か少し迷ったものの、彼女のお気に召したということは事実なので、俺は一度に幸せな気持ちになる。
何よりも――初めて、笑顔が見れたのた。
めったに笑わない。というかめったに起きていない彼女が笑った。しかもこのオレを見て、このオレに対して笑ってくれた。
しかもその笑顔は凄くかわいくて、もう抱きしめたくなるレベル。
やばい。やばい。好きだ。めちゃくちゃ好きだ。
胸が高鳴るってこういうコトなんだろうなあと思った。
――オレはもう、ごまかしも効かないくらい完璧に彼女に恋をしていたのだった。