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Valche《ヴァルチェ》  作者: 神城 奏翔
序章 学院転入編
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第8話 The past of sadness




「ここか……」

鍵についていた番号……283番と書かれた紙を見ながら呟く。

ちなみに部屋の目の前にいるのは俺、一人だ。

なんでもみんなは一旦、自分の部屋に戻ってきてから手伝いにくるらしい。

「……っと、ずっとこうしてても意味ないな。さっさと入ろう」

自分の部屋となる場所の鍵を開け、中に入る。




「へぇ、屋上のときも言ったけど、

さすが、国立学校だな。部屋の内装が豪華すぎる」

一面、白を基準とした落ち着いた色合いで、床にはカーペットも敷いていた。

そして家具にもお金をかけていた、収納出来る引き出しつきのベッド(モダンライト付き)や、

3人ぐらい一緒に座れる長い革張りソファーなど、色々なものが置いていた。

「……これは、さすがとしか言いようがないんだけど」

思わず顔が引き攣る。

なんで、こんなところに金をかけてるんだよ。クラリア学院!!



「まっ、でも、あまり手をつけなくていいってのはありがたいな」

さっそくソファーに深く腰掛けながら、持ってきた荷物を解く。

「……いや、これは今しなくてもいいよな。今はそれよりもこっちだ」

あいつらが来てからでいいや。

そう思い、先に先生が言っていた鍵の方を調べることにする。

(気になったままでは作業もはかどらないしな)

自分にそう言い聞かせる。そうでもしないといい訳にならないと思ったからだ。

……って、なんで言い訳をしないといけないんだよ。意味、わかんねぇ。




この家に二つあるうちの勉強机の方に向かう。

そして上から二つ目の鍵付き引き出しを開ける。






すると、そこに入っていたモノはーーーー

「……ネックレス?」

蒼い宝石がついているネックレスだった。

宝石の形は、ゲームとかで良くあるクリスタルのような形だ。

「なんで学園長は、コレを俺に……」

俺には学園長の意図や、思想がわからなかった。

だが、俺に渡してきたことに意味があると思い、もらっておくことにした。



ふと引き出しの奥を覗いてみると、その奥底に手紙らしき紙も入っていたのだが。




コンコン……



「あっ、はい。どうぞ」

いきなり響きわたるノックの音にビックリする。

が、修史達が来ると言っていたことを思い出し、慌てることなく対処する。

(……この手紙は後で見るか)

引き出しを締め、今は何も見なかったことにする。



「隼人、来ましたよ。って、おわっ!?」

「おう、良く来たな。

……なんで、そんなに驚いているんだ?」

玄関に向かうと、直ぐに驚愕の表情で固まる修史が目に入る。

「……いえ、ただ僕のところより豪華だな。と思いまして」

「はぁ?どこも一緒じゃねぇのか?」

「いいえ、違いますよ。

というか、自身の部屋代は親が出してくれることになってるんですよ。

だから、親が学院に出してくれた分のお金を使って家具とかを揃えるんです」

つーことはアレか?

この部屋の家具は全てあの人が出した。と、そういうことだよな?






(はぁ、あの人は何でこんなに優しくしてくるんだよ。

“あいつら”みたいに、他人のフリをしてればいいものを)

過去の出来事を思い出しながら思う。

ーーいつも俺を支えてくれたのは母さんだった。

“あいつら”に無視されていたとき、相手にされなかったとき、

嫌がらせを受けたとき、どんなときでも俺を支えてくれたのは母さんだった。









ーー“死にたい”







そう思って自殺しようとした俺を、止めてくれたのも母さんだった。

だけど俺にはそれが一番、辛かった。




俺のことを最優先にしてくれる。

それが一番、母さんにとって辛いことなんじゃないか?

俺のことをずっと助けてくれている。

それが原因で、あいつらから嫌がらせを受けてるんじゃないか?




そう思ったから、母さんのことを考え魔法学院(ここ)に来たのに、

ここでも、俺のことを最優先に考えてくれるのかよ。




……ずっととは言わない。

だけど、ほんの少しーー俺が魔法学院にいる間ぐらいは、

自分のことを最優先に考えてくれよ。……母さん。




       ◆




「隼人……?大丈夫ですか?」

「ん、ああ、大丈夫だ。気にすんな。……で、他のやつらはどうした?」

心の中ではこの話を直ぐに終わらしたい。そう思ったからか俺はすぐに話を変える。

「……そうですねぇ、もうすぐ来ると思いますよ。

よく言うじゃないですか。女の子は準備に手間がかかるって……」

修史はそんな俺の心境が伝わったのか、それに乗ってきてくれた。

(サンキュー)

恥ずかしくて口には出せないので、心の中でお礼を言う。

このお礼が、伝わってくれるといいな。と思いながら。




「ああ、確かにそういうな。だけど、なんでこんな大した用事じゃないのに、

こんなに時間がかかってるんだ?それに悠里は女じゃないだろ」

「いえいえ、大した用事じゃなくても用意してくるのが女の子なんですよ。

……悠里に関してはお姉さんの手伝いでしょうかね?」

ま、確かにあいつはお姉さん、至上主義っぽいもんな。アリそう。

「そうか……。なら、とっとと片付けちまうか?

ここまで用意されてると、することあんまりねぇし」

「……そうですね。そうしましょう」

「それじゃあ、お前はそっちのダンボールの中身を頼む。

あそこの部屋に置いてくれればいいから。まぁ、ほとんど本だけだけどな」

「はい。了解しました」

ダンボールを持って、俺が指さした方の部屋に向かう修史。




さてと、俺はコレでも解きますか。

(正直、これを使う気はないんだけどな)

あるダンボールの荷解きをすると、中には大量の武器が入っていた。

そんな大量にある武器の中、ある物を見つける。



ウチのオヤジが使っていたかつて魔導器(ヴェルジュ)だったモノ。

そして現在では、使えなくなってしまった剣型のヴェルジュ。

(確か、こいつはもう使いものにならねぇ。

といって捨てようとしたのを俺がパクったんだったな)

ま、どっちにしろ。使えないんだけどね。

さっきのヴェルジュを自分の隣に置き、他の武器の整理をし始める。








コンコン……



「あー、はいはい。

修史、出てくれないかーー?今、手が離せないんだ」

『了解です』

快い返事が聞こえたと、同時に廊下の方へ向かっていく足音が聞こえる。

……よし、これで集中して銃の整備が出来る。


そう、現在、俺はいつも使っている拳銃の整備をしているのだ。

あのときに地面に落としてしまった銃の整備だ。

おかしいところがないかどうか入念にチェックしていく。






「隼人君!!この部屋の大きさはどういうこと!?」

興奮した様子で俺に聞いてくる彩葉。

「……なに、興奮してんだ?彩葉」

「この部屋の大きさが異常だからよ!!」

あーー、やっぱりこれは大きすぎるよな。

さっき片付けてる最中にも新しい部屋を見つけたし。

「ああ、なんかスマン。ウチの母親のせいっぽい」

これまた片付けてる最中に見つけた物なのだが、

あの人が書いた手紙っぽいのを見つけたからな。




「隼人君のお母さんって……」

呆れるかのように言い放つ彩葉。まぁ、呆れるのも無理はないか。

こんなに息子にお金を使うとは思わないしな。

「……ホント、バカな母親だよ。欠陥魔導士(ディヴァルチェ)の俺よりも、

エリートの“あいつ”にお金を使ったほうが良いに決まってるのに」

「隼人君……」

悲しそうな顔で彩葉は俺の名前を呟く。



「ま、もう、使ってしまったものはしかたない。遠慮無く使わせてもらうけどな」

ははは、と笑いながら言う。

使ってしまったものを取り戻すことは出来ないからな。

「そうだよ……。それがいいよ。

余計なことは何にも考えずに、ね」

「……だな」

二人して笑い合う。

……そうだな。

“あの家”にいるわけじゃないんだから。

もう、何も考えなくて良いんだ。




「こらーーー!!柊ーーーーっ!!

姉さんに変なことしてないだろうな!!」

玄関の方から悠里が大声を出しながら走ってきた。

「誰がするか、バカ!!」

彩葉の言葉でだいぶ救われ、こいつの行動に感動していたのに。

邪魔をされたので、苛立ちを悠里にあてる。

……まぁ、こいつのせいだから八つ当たりにはならないだろう。

冷静にそんなことを考えながら。




『ねぇ、なんでこんなことになってるの?』

『ああ、アイリスさん。

あのですね、彩葉が一人で先に来たんですよ。

それで隼人と仲良く笑っていたから、悠里が………』

『……もういいわ。なんとなく事情はわかったから』





「大体、こんな短い時間で出来るか、バーーカ!!」

「……ってことは、する気だったんじゃないか!!」

「それは例え話で、する気はなかったっての!!」

大声で言い合う俺と悠里。

チラッと他の皆の方を見ると、俺達を見て笑いあっていた。



これを見てふと俺は思った。






それはーーーー


この光景がいつまでも続けばいいな。と俺は思う。









        ◆






「学院長!!これはどういうことですか!!」

クラリア魔法学院、学院長室。

そこで学院長の机を強く叩き、大声で叫ぶ紅先生の姿があった。

紅先生の目の先には一人の女性……クラリア学院の学院長がいた。

「…………」

「なんで……何故、今年は一年生から

魔物退治に行かせないと駄目なんですか!!」

紅は机に文字が書かれている紙を強く叩きつける。

そこには、『今年は一年生から魔物退治に行かせるように』と書かれていた。




「……紅先生。

これは決定事項です。異論は認められません」

学院長らしき女性は、表情を変えることなく無表情のまま言い放つ。

「しかし………」

「紅先生」

「……わかりました。失礼します」

残念そうに部屋を出てこうとする紅。

「……………」

その様子を学院長無言で見届ける。




バタンッ



「……これで良いのよ。そう、これで」

扉が閉まると同時に無表情を貫いていた学院長の表情が一変し、

悲しそうな表情に変わっていく。




……この学院長の悲しそうな表情がどういう意味なのか。

知る者はただ一人、学院長自身しか知らない。



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