第21話 Team formation
俺の怪我が半分ぐらい治った日……トーナメント戦の1週間後ぐらいたった土曜の朝。
休日にも関わらず、俺達1年A組のメンバーは教室に集められていた。
「あーあ、今日集まってもらったのは他ではない。
先日、行われた【全学年混合チーム対抗戦】の優勝商品の話だが」
【優勝賞品】ーー確か生徒会執行部の話だと、
どこかの宿泊施設を借りることのできるチケットだったかな?
つまり、修学旅行みたいなモノが出来るってわけだな。
まぁ、俺達が勝ててればって話だけど……。
そう、結果からすると、俺達は負けてしまったのだ。
修史の話の通りだと勝ったのは生徒会長様のペアだとさ。
だからあのクラス全員が旅行に行けるという、ね。
「……なんと、優勝者のクラスから旅行券が回ってきたぜ!!」
紅先生がハイテンションのまま懐から取り出したのは、宿泊施設のチケットだった。
みんな、これには思わず呆然。
普通は喜んだりしたらいいのだろうけど、
なんて反応したら良いのかわからない。そんな感じだった。
「おい、お前ら。もっと喜んだりしろよ。宿泊施設のチケットだぜ?
その間の授業が全部、潰れるんだぞ……」
なんとも教師らしくない言葉を言いまくる紅先生。
ーーアンタ、本当に教師か?
心の中でそんなことを考えてしまった俺は、悪くないだろう。
まぁ、そんなことを考えながら俺は、先生に声をかけることにした。
「……先生」
「おう、柊か。お前のおかげでチケットを手に入れることができたぞ」
「俺のおかげ……?」
俺のおかげってどういうことだ?何にもしてないんだけど。
「ああ、会長がな。
お前のおかげで学院を守ることも出来たし、
生徒を護ることも出来たから……ってな」
「ああ、なるほどです」
……それ、俺なんかのおかげじゃねぇじゃん。
先生に簡単に返事をしながら、俺はふとそう思う。
(だって俺は、悠里を護りたかっただけなんだからさ)
たまたま視界に入った悠里の後ろ姿を見ながら思う。
(……それに、あいつらの言った言葉が気になったしな)
ーー襲撃者とその後ろにいる仲間の狙いは俺だった。
つまり俺に関係してる事件が起こってるというわけだ。
(どこかの組織の怨みを買っているのか、それとも……)
包帯が巻かれている自分の手を見る。
(この力が狙われているのか)
この力……その言葉が指すのは欠陥魔導士の力。
この世界にはもう、俺しかいないとされている俺だけの力。
(この力が狙われている……そう仮定したとして、
何であいつらはこの力をこの世界から無くしたいんだ?)
1週間前、襲撃者が言っていた言葉を心の中で思い出しながら思う。
確かにあいつは『この力はボスの妨げになる』的な事を言っていたはずだ。
(……だけど、なぜこの力があいつらのボスの妨げになるんだ?)
「ーー柊っ!!」
「は、はいっ!?」
いきなり大声で名前を呼ばれたので、肩をビクンと震わせながら返事する。
ーーああ、ビックリしたぁ。
でも、なんか怒鳴られるような事、俺はしたかな?
「……大丈夫か?」
「はいっ?」
なんか怒られるのかな?
そう思っていたのだが、怒られるなんてことはなく。
あったのは心配の言葉だけだった。
「いや、何……かなり怖い顔をしていたからな」
かなり怖い顔、そんな顔してたのか。俺。
「いえ、特に何もないです。心配かけてすみません」
そう言い切って俺は、さっきまで考えていたことを全て忘れることにした。
(今、色々と考えるのをやめにしよう)
ずっと考えていたら、俺の頭がどうにかなりそうだしな。
「そうか……、あ、そうだった。
あと一つ、言っておかないといけないことがある」
一気に紅先生の表情が固く、そして真剣な表情になった。
「今年から、1年生も依頼を受けることになった」
ざわざわ、とみんなして騒がしくなる。
ーー確かに、騒ぎたくなる気持ちはわかるよ。
だって今まではずっと、2~3年しか行けなかったんだから。
「だが、基本は一人では行かさないつもりだ。なので今からチームを作ってもらう。
……ウチの人数は40人だったはずだから、1チーム5人だ。
明後日の月曜日までに話あって決めておけ。……以上、解散!!」
5人チームか……。
出来ればチームワークとかを考えて、仲の良いやつと組んだほうがいいんだよな。
まぁ、俺にしてはどうでも良いけど。
「…………」
教室を出ていこうとした先生は、何故かドアの前で動きを止めた。
「柊」
そして俺の名前を静かに呼ぶ。
「はい、何ですか?」
「……俺的には渡したくないんだが、
学院長からの命令でね。こいつを渡しておく」
先生が手に持っていたのは、蒼い宝石がついている指輪だった。
「……なんですか、コレ?」
「この前、お前が使った欠陥魔導士用の試験魔導器の改良版だ」
あの魔導器の改良版……。
試しに指輪に力を入れてみる。
この前、なんとなくイメージが掴めた魔力のようなモノを、だ。
「なんだよこれ、すげぇ」
そのまま思った感想を言う。
俺の体を纏うかのように魔力のオーラが渦巻いている。しかも大量の魔力が。
『うわっ、やっぱすげぇ!?』
『この魔力、ウチのクラスの誰よりも強いんじゃない!?』
『こんなに魔力が強いのに、なんで欠陥魔導士なの!?』
みんなして口々にそう言っていく。
なんで欠陥魔導士なのって言われてもな。
ーー魔導器との契約が出来なかった。としか言いようがないんだけど。
「……まぁ、このようにかなり強い魔力を纏うことが出来る。だがーーー」
パキンっ
言葉の続きを聞こうとしたとき、手元から何かが折れた音が聞こえた。
音の正体を確かめようと、手元を見る。
「……剣が折れた」
手元にあったのは柄から先がない剣もどきで、足元に転がっていたのは剣先だ。
「このように剣が耐え切れなくなって折れてしまう」
おいおい、前も思ったけどこの魔導器もどき、耐久力がなさすぎじゃね?
まぁ、人類初ともいえるような実験だから仕方ないっちゃあ仕方ないけど。
「だから、学院長からコンパクトで
何個も持ち運べるように専用の入れ物を受け取ってきた」
紅先生が化粧品を入れておく入れ物か?と思うような入れ物を渡してくる。
その入れ物の中を見てみると、さっきの指輪が何個も入っていた。
「はぁ……」
「だが、俺はこいつを武器としてあまりつかって欲しくない。
理由としては色々あるが、お前の力は制御出来ていないからな」
ーーまぁ、確かに制御は出来てないだろうな。
その結果がこの有り様だろうし。
「じゃあ、どうしろっていうんですか?」
「……出来る限りこっちを使え」
手を銃の形にして撃つモーションをする。
つまり銃ばっかりを使ってろ、ってことですね。
「うぃっす」
俺のことを考えて言ってくれてるのであろう。と、思う。
まぁ、銃が使えるんだから俺的には良いんだけど。
強い武器を使いたいって気持ちもあるんだよね~。
ーー人を護れる力が目の前にあるのに、手が届かない。ってこんな感じなのかな。
(……強くなんないとな。
前の襲撃者みたいにいつ、俺を狙ってくるかわからないんだ。
もしかしたら彩葉達と一緒にいるときを狙ってくるかもしれない。
……だとしたら、俺は彩葉達を護れるのか?)
自分の手のひらを見る。
(答えはNoだ。
前の悠里みたいに大怪我をするかもしれない)
今は前の方の席でぼうっとしている悠里の後ろ姿を見る。
(あれだって、一歩間違えたら死んでたんだ。
というか生きているのが奇跡なんだ。
……アレは死んでもおかしくはない状況だった。
そしてそんな状況に持ち込んでしまったのは、俺のせいだ)
唇を噛み締め、手を強く握りしめる。
(ーーそしてその状況を助けてくれたのが、藤原と永瀬だ。
正直言って、あいつらがいなかったら俺と悠里はこの世にいなかったかもしれない)
お世辞無しに、本心からそう思っている。
ーーでも、もし俺がこの世にいなかったら、
こいつらが巻き添えをくらうことはなかったんだよな。
「隼人君っ!!」
そう思ってしまった瞬間、彩葉の俺を呼ぶ声が聞こえた。
「んっ、どうしたんだ?」
「自分が消えたら全て解決する。何て考えたらダメだからね」
「……彩葉」
「姉さんの言うとおりだぜ。
お前は俺がいたせいでオレにケガをさせたと思っているだろうが、
オレはそうは思わねぇよ。だから気にすんな」
「悠里」
まったくこの姉弟は……、自分の言いたいことを全て言い切りやがって。
「ま、それには同感ね。まだまだ短い付き合いだけど、
あなたは抱え込みすぎてるっていうのはわかるわ」
「アイリス……」
「もっと仲間を信じなさい」
かなり上から目線だったが、俺が失っていた『仲間を信じる』。
その心をアイリスは教えてくれた。いや、これは全員思ってることなのかな?
「はぁ……、そうですよ。
あなたはもっと、周りを巻き込んで良いんですよ。“友達”なんですから」
「……修史」
「先生、すみません。
チームの話ですが、僕達は隼人と一緒ってことでいいですか?」
教室を出ようとしていたのか、ドアの前にいた先生に話をふる。
「ああ、別にいいぞ。
というか、俺は元々そのつもりだったしな」
「ありがとうございます」
こうして外堀を埋められ、勝手にチームを作られた。
ーーはぁ、入学して早々だけど疲れた。