第19話 The hand of help, and a conclusion
「……誰が好き好んでお前に教えるか!!」
敵に向かって突っ込む。
もちろん、走りながらずっと銃は撃つ。
……ホントに時間がねぇ。早くしないと悠里がーーー。
グサッ
「ぐはっ……」
いきなり血反吐を吐く俺。
はっ?なんで俺は急に血を吐いてんだ。
そう思ったとき、ふと腹に異変があるのがわかった。
「……………」
ゆっくりと頭を動かして、その場所を見ると、
髪の毛のようなものが俺の腹を突き刺しているのがわかった。
髪の毛のその先には、ニヤリと笑いながら
俺をじっと見つめてるあの女の姿があった。
「……この、クソやろうが」
そう呟いた直後、女は俺から髪の毛を抜く。
それと同時に傷口から、大量の血が吹き出す。
「…………」
血を吹き出した後、俺の体は地面にドサッと倒れる。
「教えてあげましょうか?
あなたが必死になって護ろうとしていた子を殺した理由」
そんな地面に倒れてる俺に向かって、女が言う。
「本当の目標はあなただったわ。
だけど、物事を冷静に対処できる能力が邪魔だった。
……なら、あなたの仲間を殺せばっと思ったわけよ」
つまり、最初からこいつらの狙いは俺ってことか。
なんで、標的が俺なんだよ。
なんで、そんなくだらない理由で悠里が殺されなくちゃいけないんだよ。
なんで、俺に仲間を守れる力がねぇんだよ。
「これで、終わりね」
そういって髪の毛を俺の体全身に飛ばしてくる。
……悠里、絶対に生きててくれよ。
そんな思いを持ちながら、俺はゆっくりと目を瞑る。
「さようなら…………」
◇
……アレ、痛みがない?どういうことだ?
ふと目を開けてみる。
するとーーー目の前に細長い剣を持った男と、拳銃を持った女がいた。
「助けにきたぞ」
「……ごめんね。遅れて」
それは、一回戦のときに戦った藤原智也と永瀬千穂だった。
「……お前ら、なんで」
「何でって、それがあのクソ忌々しい会長の頼みだったからだ」
「私達は会長からあなたが狙われてることを知った。
だから用心はしてたんだけど、遅くなっちゃった。ごめん」
あの会長が……?
つまり、さっき俺を狙ってきたのは俺の力を試すため?
それで頼りなかったから、こいつらを呼んだのか。
「そんなことは今はどうだって良い。
お前らが入ってきたってことは、結界はもうないんだろ?
悠里を、俺よりさきに悠里を医者に………」
続きを言おうとした俺の口に永瀬が指を当てる。
「大丈夫、悠里ちゃんなら既に医者に連れていったよ。
だから、この場所にいるのは私達とあなただけ」
良かった。ふっと肩をなでおろす俺。
「ったく、ちっとも状況は良くねぇよ。
手が足りないんだよ。千穂、そいつにアレを渡せ」
なんだ?俺に渡すものでもあるのか。
「でも、あれを使うにしても、今の柊君じゃ倒れちゃうよ」
「いいから渡せ」
「あーあ、もう。わかったわよ。渡せばいいんでしょ!!」
半場、叫びながら俺に渡してきたのはひと振りの剣だった。
「……剣?」
「ええ、これは開発中の欠陥魔導士用の魔導器です。
あ、ちなみに学院長が率先して開発してるみたいです。
つまり学院長があなた専用に……と」
これを学院長が俺に……。
「ただ実験も何もしてないので、副作用があるかも知れません」
……なるほどな。
だから永瀬は俺にこれを使わせたくなかったわけか。
でも、俺にはやらないといけないことがあるんだ。
「サンキュー、ありがたく使わせてもらう」
剣を強く握り締める。
すると、体の奥深くからナニカが湧き出してくるのがわかった。
俺は悠里を、修史を、アイリスを、彩葉を……仲間を護りたい。
護りたいんだ!!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!」
俺の体全体を纏うかのように、白銀のナニカが渦巻いている。
「……何この魔力!?私達とケタが違いすぎる」
これが魔力なのか?
そうか、魔導士の魔力を使う気分ってこんな感じなんだな。
呑気にそんなことを考える。
さてと、そろそろ決着をつけますか。
「……藤原、こいつは俺の獲物だ。手を出すなよ」
「ああ、わかってるが。
せめて“さん”をつけろ。“さん”を」
藤原が何かを言っているが、全て無視する。
「……行くぞ」
剣を持って全力で敵に突っ込んでいく。
「はぁぁぁぁーーーっ!!」
「……まさか、あの方はこの魔力を恐れて。
なら、お前はここで殺さなければ」
女は髪の毛を何回も、何回も伸ばして俺に向かわせてくる。
それをよけたり、時には切ったりする。
のだが髪の毛の量が多いし、
それに疲れも溜まっていたため、喰らいそうになってしまう。
「しまった!?」
喰らう、そう思ったときーーー
「……今回だけは、お前を助けてやる」
藤原が俺が喰らいそうな髪の毛だけを攻撃して切る。
「……やつの弱点はおそらく腹の辺りにある宝石だ」
「ああ、なんとなくはわかってた。
つーーか、それしか怪しいのがねぇよ」
「そうか……、なら、決めてこい」
「おう。それじゃ行ってくる」
藤原が近くまで迫ってきていた髪の毛を全部、
切り裂いたと同時に一気に敵まで突っ走る。
「これで最後だっ!!」
敵を一閃。
さっきまで苦戦していた敵は呆気なく苦しむ声を出すことなく終わった。
あまりの呆気なさに呆然としていると、パキッという音が聞こえた。
音の在処を見ると、武器にヒビが入っているのが分かった。
「……ほぼ一撃の衝撃ぐらいで折れるのか。
これは学院長に報告しておかないとな」
「そうだな。それじゃよろしくたの……」
よろしく頼む。そういって剣を返そうとしたのだが、
俺の意識がドンドンとなくなっていくのがわかる。
……あ、やべぇ。そろそろ限界かも。
◇
「柊君!?ねぇ、大丈夫!?」
いきなり倒れた隼人に詰め寄って、抱きかかえる永瀬千穂。
そのとき見た彼の顔は、
目的を成し遂げ喜んでいる少年のような顔だった。
「……千穂、大丈夫。疲れて眠ってるだけだ」
「はぁ……、良かった。
まったくもう、驚かせないでよ」
ツンッ、と隼人の額を人差し指をつく。
だが、彼は何も反応することなく、寝息をするだけだった。
「ま、こいつにしては良く頑張ってたからな。
少しぐらいそのままにしてやれ。……もうすぐ教師達も来るだろう」
試合のときと違って、兄のような優しい表情で隼人のことを見る藤原。
「あれ、どうしたの?
何か試合のときと違って、優しそうな表情をしてるね」
「優しそうな表情……?俺が?」
「うん、なんか弟を心配する兄のような表情だったよ」
「弟を心配する兄ね」
そう呟きながら藤原は隼人を見る。
「……なら、こいつは色んな人を心配させる大バカ弟ってところだな」
永瀬の腕に抱かれて寝る隼人に向かって言う。
その言葉を聞いていたのか、
聞いていなかったのかは隼人にしかわからない。
「それにしても、やっと戦いが終わったね」
「ああ。だが、これからもやつらはこいつを狙うだろうな」
あの方がこの力を恐るわけだ。
やつが言い残した言葉を思い出し、藤原は言い放つ。
「……そのために私達はずっと、この子を護るんでしょ?」
「ああ、無論そのつもりだ。あの会長に指図されずともな」
試合の前と今とでは、かなり違う藤原の思考に驚く永瀬。
「へぇ、試合の前は『こんなやつの護衛はイヤだ』って言ってたわりに、
今は結構、やる気じゃない。どうしたの?……この子に惚れた?」
「ああ、そうだな。こいつの生き方には惚れたかな」
だからこそ、護らないとな。
隼人をこいつにあだなす全てのやつから。
この小説を読んでいる方の中で
Twitterをやってる方がいましたら、
フォローしてくださると嬉しく思います。