第1話 The start is an event.
「ここが、今日から通うことになる【クラリア魔法学院】か」
とても大きく、立派な校門の前に立ちながら呟く俺……柊 隼人。
家庭で色んな事情があって、入学式に間に合わなかった一人の学生だ。
なので、転入生扱いになっているらしい。
その証拠に基本的に黒く、ところどころに赤のラインが入っている
学院指定の制服を着ている。
「それにしても、大きな門だな」
(こんなに門を大きくする意味ってあるのか?)
今、俺の目の前にはとてつもなく大きな門があった。
あまり詳しくはわからないが、5メートルぐらいだろうか?
もしくは5メートル以上あるかもしれない。
「で、それは置いておいても良いとして……」
遅れてきた場合って、どうやって入ればいいんだろうか?と、不意に思う。
このクラリア魔法学院は、学生寮があって基本的には外出できない。
つまりは、外出することなんてあまりないので、この校門の通り方がわからないということだ。
それに俺も場合、家の都合で遅れると報告を入れていたんだけど、
学校側から何の連絡もきてないんだよね。
「これって、どうしたら良いんだろうか?」
ツンだ?と思いながら視界を動かすと、その横に少し小さい門を見つけた。
「……こっから入れそうだな」
小さい門を軽く押してみると、それだけで軽く開いたので学院内に入る。
◇
「それにしても、本当にこの学院は大きいな」
さっきから職員室を探して学院内を歩き回っているんだが、全然、見つからない。
それどころか、ここに通っているはずの生徒の姿さえ見つからない。
(さすがに誰一人として生徒を見てない、っていうのはおかしいな)
この時間だと、普通に授業をしてるはずだが……。
『……おい、学院内にはもう誰もいないか?』
『ああ、こいつ以外誰もいねぇぞ』
「っ!?」
不意に聞こえた男の声ーー声だけだったら驚くようなことでもない。
仮にも学院なのだから、男の教師や女の教師など色んな人がいるだろうからな。
だが、俺が驚いたのは声じゃなく、男達が話した内容のほうだ。
(学院内にもう誰もいない、ってどういうことだ?)
顔には出していないが俺はかなり動揺していた。
そこで俺は男達の話を聞いておこうと思い、会話が聞けるように物陰に隠れながら近づく。
『それにしても、この学院は不幸だな。
有名すぎるから、こんな被害を受けたんだからな』
『まぁ、そうだな。で、ボスはなんて?』
ボスっていうことは、人数は多いのか。と物陰に隠れながら思う。
『……いや、まだ何も。人質の前で交渉をしようと思って、
体育館の舞台でしようと思ってるんだが中々、学園長が交渉に応じなくてな』
なるほど……。ってことは、確実に教師は体育館にいるな。
「で、こいつはどうする?」
「ーーーっ!!」
かなり近くまで来た時、やっと気づいたのだが、
男達の足元に四枝をかなり頑丈に縛られた女の子がいた。
あまりの恐怖にか、宝石のように綺麗な瞳から涙がポロポロと溢れていた。
(こんなの見てしまったからには、絶対に助けねぇとな)
物陰に隠れながら、もしもの為に持って行けと母親に言われ、
半場、強制的に持たされた拳銃を構える。
(こんなところで使うことになるとは思わなかった。
強制的だったけど渡してくれて、ありがとう、母さん)
心の中で、子供のことを一番に考えてくれていた母親に感謝する。
そして次の瞬間、真剣な表情で少女を見つめる。
「……こんなことが起こったら、両親は心配するよな」
男達に聞こえないよう、音量を落として呟く。
それと同時に拳銃も男達に向ける。
「そりゃあお前、殺すに決まって……」
男が物騒なことを言い終える前に……
(だから、君は絶対に護ってやるよ。俺が)
心の中で呟き終えた後、狙いを男達の右胸に定め一発ずつ撃つ。
「ぐあっ」
「うぐっ」
俺が放った銃弾は男達の左胸にあたり、男二人は倒れそうになる。
「……お前も道連れにしてやる!!」
が、男二人のうち一人が、最後の反撃のつもりか、少女に狙いを定める。
(しまった!!間にあえーーー!!)
もう死んだだろ、と思って油断してた俺は、急いで少女の下へ走っていく。
何故、こんなに必死に彼女を護ろうとしてるのかも、俺にはわからない。
「ぐっ……」
少女を護るために体を使って、
少女に銃弾が当たることは阻止したが、その代わり、右胸に銃弾を受ける。
そのせいで、銃弾を受けた場所から制服が赤く染まっていく。
「ごめん、大丈夫だった?」
出来るだけ傷を見せないように少女の縄を解いていく。
「……は、はい。だ、大丈夫です」
少女は俺に気を使わせたくないからか、気丈に振る舞うが
体がぶるぶると震えてるので、説得力はない。けど、これは仕方のないことだよな。
魔法の素質があったって怖いものは怖いんだから。
「そう、良かった……っ!?」
安心した瞬間、右胸に激痛が走る。
くそっ、これじゃあ体育館に行けないじゃねぇか。
「私は無事でも、あなたは……」
激痛で悶える俺を見て、少女は更に泣きだしそうになっていた。
「だ、大丈夫。俺が勝手にしたことだから気にしないで」
これは君を護りたいと勝手に思って、勝手に助けて勝手に怪我を負っただけだし。
「ですが……」
この少女は諦めが悪いだろうな。と、思ってこっちが先に折れる。
「なら、頼みたいことがあるんだ」
「なんですか?」
俺が頼むのは、たった一つの願い事。
「ーー今から、体育館にいる全員を助けたいんだ。手伝ってくれないか?」