第三話 我と契約せしもの、その力をもって武器として具現せよ
7月13日夜11時
勇は、自宅の屋根の上に立っていた。
昼間の制服でもなく私服でもない。
真っ黒な袴を着ていた。
「それじゃあ仕事を始めようか。準備はいい?」
『はい、大丈夫です』
今ここには優以外誰もいない。
しかし確かに声はした。
この声の主は勇の持つペンダント・・・正確にはそのペンダントに封されている神獣。青龍である。名前は龍原葵。
葵は仕事のパートナーである。
ところで、勇の仕事についてはもうお話しただろうか。
勇は・・・本当はもう一人いるのだが、この地域・・・愛知県東部を霊・邪・妖怪・邪神などから守る仕事をしている。
勇は本当はこの仕事より祝詞の警護を優先したいのだが、陰陽師はこのような仕事をしなければ力を剥奪されてしまうのだから仕方が無いのだ。そういうことで、俺はこの市を担当している。
これが、前はなした、勉強の範囲の把握につながる。
成長なども考え陰陽師がこの仕事を始めるのは大体高校生からである。
なので、仕事の支障となる勉強を小学から中学の間に終わらせるのである。
それでは、仕事を始めよう。
手に龍の形のペンダントを乗せ、目を閉じる。
「我と契約せしもの、その力をもって武器として具現せよ」
勇は聞こえないような小さな声で呪を唱え、札に霊力を込める。
そして、淡い光を放ったと次の瞬間にはもう手にはペンダントは無く、代わりに長刀が握られていた。
「じゃあ行くぞ」
『はいです』
屋根を蹴る。常人には見えないスピードで屋根の上を飛び越えていく。
「今日は少ししか感じられないな。いないんだったら早く帰って寝たいんだけどな」
『そういわずにチャッチャと回っちゃおうです。取り残しがあるといけないのです』
「わかってるよ」
そういってさらにスピードを上げ屋根から大きくジャンプする。
すると、少し大きめな邪気を感じた。
「葵、方向わかるか?」
『東の方角です』
進路を東に向け、飛行する。
もう少しすると、同じ場所から人の霊力が感じられた。
「あ~、あいつか。敵の方が先に気づけたってことはまたあいつ自分より強い敵と戦ってんだな」
『あの子も懲りないですね。自分と同等の力のものとやりあって経験をつむ事が一番大事だと勇様から何度も言われているですのに』
「まあ、そこがあいつらしいと言えばそうなんだけどな。早く助けに行くか」
『そうですね。』
勇はそこに向かって全力で飛ぶ。
1キロはあったはずの道のりも10秒で着いてしまうほどのスピードで。
そして、空中でとまって邪気のする場所を見ると。
そこにいたのは上級の邪と特大の鎌を持った赤いショートカット髪をしたの一人のボーイッシュな少女・・・麻名瀬薫であった。