第六章 【公開ここまで】
駆けども駆けども、荒涼とした戦場が続き。流民や盗賊と、戦争と略奪に明け暮れる兵士どもに何度遭遇したことだろう。
それでもコヴァクスとニコレットは、イヴァンシムを捜し求めた。どうにか説き伏せ、集落の人々を保護してもらうために。
行く先々で、人にイヴァンシムの行方を尋ねれば、南方に向かっているという答えを得た。どうも南方に興ったソケドキアのフィロウリョウに呼ばれて、そこに向かっているらしい。
「ソケドキアか……」
コヴァクスはうなった。
コヴァクスらはオンガルリとの国境を接し、ヴーゴスネアから独立したスウボラ派の貴族ポレアスの治めるリジェカ公国から入り、バルバロネや集落の人々と出会った。そこからソケドキアとなれば、旧ヴーゴスネアをまさに北から南へと縦断するかたちになる。
となれば日数もかさむ、が止むを得ない。コヴァクスとニコレットは急ぎソケドキアに向かうイヴァンシムを追って南へ駆けた。
(でも……)
ニコレットは思案した。イヴァンシムは定まった主を持たず、自力で義勇軍を率いて戦っているのではなかったか。それが、王侯に呼ばれそれに応じるとは。
やはり、後ろ盾なしで戦い続けるのも限界があるということか。
ヴーゴスネアは七つの国に分かれている。
一番北から、ポレアスの治めるリジェカ公国。下って同じくスウボラ派の貴族コントレ治めるダメド、そこからエムアルーニ派の貴族エーダヴ治めるエスダ。
国土の中央に位置し王都ベラードを擁するヴーゴスネアは、自らを正当なる後継者と自認するトレイヴィンが国王として君臨し。その西にトレイヴィン派の貴族アーエイが、タールコを防ぎとめることを条件に自治権を認められて独立し、ユオという国を建てている。
それより南方にあっては、独立独歩でノナブガーオダという人物がアヅーツという国を建てている。が、一番南に位置するソケドキアのフィロウリョウに攻められて不利をこうむり、滅亡も間近であるという。
旅をしながら、各国の状況が少しずつでも耳に入ってくる。この中で、一番強そうなのは、ソケドキアのようだと、ふたりは思った。
他国はおろかにも鍔迫り合いに興じては、我が身を削る一方なのに対し。ソケドキアは完全独立独歩。国力を豊かにして兵は強く、国王フィロウリョウの野心は燃え盛って、野望の火は、北へ北へとのぼりとどまることを知らず。
いずれ、古臭い貴族や王侯は根こそぎ倒されるであろうという評判であった。
旅立って七日目の夜。コヴァクスとニコレットは、着の身着のまま山林にまぎれて野宿をして、身体を休めた。
月は出ず、山も木々もすべて冷たい闇が覆い尽くす。
すぐに起き上がれるように、横にはならず。木に背中をもたせ掛けてすわって、寝た。
翌朝、日の出ともに目覚めて出発。
どこをどう行ったか土地感覚もない。リジェカはとっくに出て、ダメドに入って、抜けるか抜けないか、だろうか。
一日旅をしたら、ヴーゴスネアに入るのか。
「思ったより遠くに来てしまったな」
「ええ。バルバロネさんたち、無事かしら」
旅の間、やはり集落の人々が気にかかる。ソシエタスやバルバロネがよく守ってくれていることは、疑いはしないが。
ともかくも、追いかけ続けるしかない。
しかし、この国はなんと荒れていることだろう。廃墟となった町を、不幸な流民の群れを、どれだけ見たことだろう。できることなら、皆を助けてやりたい。しかし、今の自分たちですぐに助けることはできなかった。
後ろめたい思いを抱きつつ、逃げるようにして離れてゆくことも一度や二度ではなかった。
で、王の都やそのとりまき貴族のいる街は、別世界のように豊かで平和だった。流民は助けを求めてそこにたどり着いても、相手にされず兵馬をもって追い払われる始末。
そのため、怨嗟の声もところどころにささやかれている。
もう二十年も戦争をしているのだ。人々は悲しみを通り越して、麻痺して殺し合いに慣れ、流民がそのまま盗賊になることも少なくなく。盗賊同士で獲物の奪い合いをすることもたびたび。それが勢いをつければ、ちょっとした貴族や豪族となって土地を支配する。
建前上は国七つといっても、実質は、それ以上に分裂していると見れた。
誰も、真剣にこの地の平和を考えていないのか、とコヴァクスとニコレットは怒りすら覚えた。誰しもが己のために剣を振るい欲求の命ずるままに、奪い合っている、と。
「このままだと、いずれタールコが攻め寄せてくる。タールコの兵馬に、軍靴に、踏みしだかれるぞ」
かつてヴーゴスネアもタールコと敵対し戦っていた。神美王ドラグぜルクセスとて、黙って見ているままではあるまい。
コヴァクスは、旅をしながらこのヴーゴスネアの現状に対して、イヴァンシムを探し求める以上の悩みをいつの間にかかかえているようだ。それはニコレットも同じだった。
「すこしでも早く、お父さまのご遺言を果たして。オンガルリのみならずヴーゴスネアの秩序を取り戻さなければいけませんわ」
薄い雲にさえぎられながら昇る太陽の、にぶい光を受けながら、ふたりは駒を進める。
丘を登る峠道にさしかかりこれをのぼっていると、屍骸と遭遇した。一体ではない、それから向こうにも、幾体も地に横たわっている。武装しているところを見ると、戦争があったようだ。
ふたりは剣を抜き身構えたが、喚声は聞こえない。戦争はすでに決着がついて終わったようだった。
「これは……、ブーゴスネアとダメドの兵か」
進むにつれ屍骸の数は多くなってゆく。軍装を見て、コヴァクスはつぶやいた。
(よく巻き込まれずにいけたものね……)
ニコレットは冷や冷やする思いだった。もしこの地に来るのが早ければ、戦争に巻き込まれていたろうし。そうでなくても、出陣あるいは引き上げの軍勢に遭って尋問でもされれば面倒だ。
いままで、そういうことが何度あって、逃げたことか。
幸いにも戦争は終わり、両軍とも引き上げたあとのようで。生きている人間と遭遇することはなかった。
しかし進むにつれて横たわる屍骸は増えてゆき。ふたりは身震いする思いに駆られ、引き返そうか、と思った。
と思いつつも、身も心も意に従わず前へ前へとすすんでゆく。この先に何があるのだろうという、得体の知れぬ恐怖を確かめたいという欲求が、早鐘のようになる心臓の鼓動を制しているようだ。
などと意識する間もない。やがてふたりは広い平原に出た。そこには、何百体もの屍骸が折り重なって地を埋め尽くし、ところどころで山をなしていた。
たおれる屍骸すべて異形の相をなし、憎悪とも恐怖ともつかぬ青白い顔で瞳を、口を閉じあるいは開けて、その身を地の赤に染めて。それは今にもまた起き上がって殺しあうんじゃないかと思わせるほど。
空気もまた屍骸から滲むものに染められてか、よどみ、ふたりにまとわりつくようだ。
言葉もない。
陽の光を受けて鈍く光る武具や裂けた鎧兜に、血。この世のものとも思えぬ光景は、いま実際に、しかとこの目に見ている光景なのだ。
コヴァクスは眉をしかめて、ニコレットに引き返そうと言おうとした。
その矢先であった。
向こうから、何か音がした。それは、くぐもって何かの生き物の声にも聞こえた。
素早く剣を抜き、愛馬を徐々に後ろに下がらせて。ニコレットはおのずと後ろに振り向き警戒する。
「……」
なにかの生き物の声がよく聞こえるようになり、こちらに迫りつつあるのがわかった。その様子からして人間ではないようだが、ではなんの生き物だろう。
空を震わせるようにくぐもった声がやんだ、と思うと、またなにか別の音がする。それは、がつがつと、何かを食べているような音だった。
背筋に悪寒が走る。
屍骸だらけの戦場で、何が何を食べているのだろう。そう思うと、いかに勇敢なこのふたりといえども戦慄を禁じえなかったが、なにかに導かれるようにして、目はそれを見た。
それは、屍骸にむさぼりつく大熊だった。
漆黒の闇のような分厚い体毛に覆われて、鋭い爪は、牙は屍骸を引き裂いて、噛み砕いて。口元を真っ赤にしながら、ひたすら本能のおもむくままに食欲を満たしていた。
ふたりは目を見合わせ互いに頷き、馬を返して駆け去ろうとした。
蹄の地を蹴る音が響くや、それに呼応してどたどたと、大木を地に打つような音がしたかと思えば。あの大熊が、追いかけてくるではないか。
漆黒の闇の塊と思わせる巨躯。地を、屍骸を蹴飛ばす太い四本の足で、ふたりを追いかけてくる。
季節が秋から冬にかわろうとする今ごろ、熊は冬眠の準備に入るのだが、それにしくじった熊は凶暴になり人を襲い食い殺す。
おそらくこの大熊も冬眠の準備にしくじったのであろうか。そのため、人の屍骸まで喰らうようになってしまったのだろうか。
それでも、屍骸よりも生きている人間の方が食欲はそそるようで、血走った目をらんらんに輝かせてふたりを追った。
コヴァクスもニコレットも、愛馬を懸命に走らせようとするが。
大熊は威嚇の雄叫びは二人の背中を引っ掻くように撫で、かつまた愛馬の尻と後ろ足までも引っ掻くようにして撫でたようで。二頭して恐怖に心臓縮み上がり足をすくめ、速度を鈍らせる始末。
「うわあッ!」
コヴァクスの叫び声。
あろうことか、コヴァクスの愛馬は恐慌をきたし前脚を高々と上げて主を振り落とし、自分だけ逃げようとするではないか。
背中から地に打ち付けられるようにして、コヴァクス落下。その間に、愛馬は姿を消した。
「お兄さまあーッ!」
かろうじて愛馬をしずめ振り落とされずにいたニコレットは、コヴァクスを拾おうとするが。大熊は邪魔するなとばかりに叫んで駆けて、ニコレットの愛馬の白馬に迫って。後ろ足でその前に大きく立ちはだかって、鋭い爪をみせつけ、太い前足を振りまわし威嚇する。
口は大きく開かれ、紅く染まった牙
それまでどのような強敵に遭おうとも臆することなかった白馬は、このときばかりは大熊に縮み上がり主の命令を聞かず手綱からはひたすら恐怖の振えばかりが伝わるばかり。てんで使い物にならなかった。
「白龍号、お願いだから言うことを聞いてちょうだい!」
ニコレットの愛馬、白龍号は主こそ振り落とさないものの、石のようにかたまっていた。
大熊はその隙にコヴァクスに迫った。やはり人間を乗せるほど大きな馬よりも、ひとりの人間をとらえる方が楽とふんだのだろうか。
どうにか背中のいたみを押さえて起き上がって、剣こそ構えていたものの、身長の二倍はあろうかという大熊相手にいかに戦えというのか。
その漆黒の剛毛は実は鍛えられた鋼であったかのように黒光りし、その下にある筋肉もまた鋼の強靭さをもっているようで、剣がどこまで通用するかあやしいものだった。
白龍号相手に悪戦苦闘するニコレットを横目に、コヴァクスは震える四肢を押さえ剣の柄を両手で握りしめて。
歯を食いしばったまま大きく息を吐き出すと、
「うおおー!」
と大熊目掛けて剣を突き出し駆け出した。
大熊もそれに応じるように、餌が向こうから飛び込んでくるという喜びをあらわに咆え叫んで四つの足を地にめり込ませるようにして駆ける。
「お兄さま駄目!」
ニコレットは狂気の沙汰とも思えるコヴァクスの突進に驚き、咄嗟に剣を投げつけた。
剣は大熊向かって勢いよく飛び、太い右前足に刺さった。
大熊は突然のいたみに驚き、大口を開けて血混じりの唾液を飛ばしながら咆哮した。その叫び声は憎しみに満ち、天空すらも叩き落しそうなほどに轟き。
向きを変えて、剣を飛ばしたニコレットに血走った目を向けて。剣が右前脚に刺さったままなのもお構いなく、突進してくる。
「あ、ああ、い、いや!」
四つの足が弾かれ地を蹴るたびに、剣の刺さった部分からは赤い血がとめどもなく流れ落ち。その血に流されるように、ニコレットの剣は乾いた音を立てて地に落ちた。
自分が叫んだことも意識できず、恐怖にかんじがらめになった白龍号の馬上で身も心も内から引き裂かれる恐怖に打たれ、縛られて、ニコレットは目を閉じた。
大熊の咆哮が轟き、心を強く打つ。と思ったら、その足音は反転して遠ざかってゆく。
どうして、と目を開ければ大熊はコヴァクスに迫っている。
大熊の尻には、コヴァクスの剣が突き刺さっている。どうやらさっきのニコレット同様剣を投げて注意を引いたようだった。
コヴァクスは大熊に背中を向けて、目一杯駆けている。しかしいかに俊足であろうとも、熊は人間よりもはるかに速く走れるのだ。
剣の刺さった尻から血をどくどく流しながら走る大熊の後姿は、滑稽ではあるが。今はそれに気づくゆとりなどなく。
ニコレットはコヴァクスの背中を見つめ、懐から短剣を取り出し鎧の胸当てを外し。いつでも短剣で心臓を突ける体勢をとった。
熊に食い殺されるくらいなら、自害したほうがましだと思ったからだ。
コヴァクスは駆ける。大熊はコヴァクスに迫る。ぐんぐん近づいている。
その血塗れた爪が、牙がコヴァクスを引き裂くのも時間の問題に思われた。
「お父さま。もうすぐお兄さまとともにおそばにまいります」
異国の地で、雄敵と戦うのではなく、たまたま出会った野生動物に襲われて命を捨てることになろうとは。
誇りもへったくれもなく、屈辱以外の何者でもない、無念な死に方だった。
逃げようとしてつまづいたコヴァクスに大熊が迫る。
もはやこれまでか。
しかし、つまづいたコヴァクスの目は見開かれて大熊に負けず劣らず光り輝いていた。
伸ばした右手は、片刃式のハルバード(斧槍)の柄を掴んでいた。
反射的にコヴァクスは身体をひねって回転させ、ハルバードを思い切り大熊にぶつけた。
鈍い感触がした。
ハルバードの斧部分は、大熊の左半面の横っ面を直撃し。頬をかち割った。
大熊は突然のことに驚いて後ろ足で起き上がって、張り裂けんがばかりに叫んだ。叫べば叫ぶほど、それに呼応し血が溢れて大熊の顔面を染めてゆく。
「喰らえ!」
必死の一撃。咄嗟に立ち上がったコヴァクスは力一杯ハルバードを振り上げ、立ち往生する大熊の脳天目掛けて振り下ろした。
しかし、戦場に討ち捨てられてもろくなっていたハルバードの斧は大熊の脳天を砕くどころか、逆にその石頭に砕かれて、粉々に破片を散らした。
多少の衝撃は与えて、大熊はよろけたものの、まだ生きている。
よろけながらも、大熊は本能を、食欲を満たそうと仁王立ちしてコヴァクスに迫る。
「くそおー!」
後ずさりし、ハルバードを構えなおし、穂先を大熊の胸目掛けて突き立てた。が、まだしとめられず。大熊はハルバードの穂先が刺さるのも構わず、コヴァクスに迫ろうとする。
太い前足を振るわれ爪がコヴァクスの鼻先をかすめる。柄が大熊を押しとどめて、距離をたもっている。
大熊が一歩踏み出すごとに、穂先は肉に食い込み血が溢れ出し。柄はきしんでたわむ。痛みや怪我よりも、食欲の本能が勝っているのか。これは下手をすれば折れてしまう。折れてしまえば、さえぎるものはなく一直線にコヴァクスを食い殺せる。
柄が折れてはたまらないと、コヴァクスも一歩一歩さがる。さがりながら、微妙に力を込めて穂先を大熊の分厚い胸板に食い込ませる。
だがコヴァクスも疲れと緊張で、ぷっつりと心の糸が切れそうだった。これでいつまで持つのか。柄を握る手とて、いつまで柄を握り続けられるのか。
鼻先を爪がかすめる。かっとして、
「とっととくだばれ!」
と叫んで。渾身の力を込めて、穂先を胸板に押し込んだ。
「あああー!」
大熊の背後から、ニコレットが叫びながら突っ込んでくる。下馬し落ちた自分の剣を拾い、大熊の背中に剣を突き立てる。
分厚い剛毛と筋肉に弾き返されそうなかたさを感じつつも、ニコレットは渾身の力で剣を背中に押し込めようとする。
剣が突き立ったのは丁度背中左側。心臓の背後。
大熊は前後から刺されてさすがに苦痛のうめきをもらした。
大きく開かれた口から黄色くも赤く血塗れた牙がのぞき。喉の置くから搾り出される叫び声は、冬眠をしそこねたために屍骸を食らわねばならず、挙句に人間に傷つけられてゆく大熊自身の無念さが、幾重にもこもっているようで。
コヴァクスとニコレットの心胆を寒からしめた。
いかに大熊といえど、うまく冬眠ができれば、不要な殺生はせぬというのに。
「なぜこんな死に方をしなければならないんだ」
とでも言っているのか。何度も何度も、大熊は天を仰いで叫んだ。
冬眠をしくじったのは、あるいは人間の愚かな争いに眠りを妨げられたのもあるかもしれず。屍骸を食うのも、眠りを妨げたことへの復讐であったのかもしれなかった。
傷口から血がほとばしって、コヴァクスとニコレットに降りそそがれた。血は、あたたかかった。
やがて、大熊の叫びがやんだと思うと。それまでの強靭さがうそのように、芯が抜けたように、前のめりにたおれゆく。
コヴァクスは慌ててよけて。
大熊はうつぶせにたおれて、ぴくりとも動かなかった。
大熊の血を浴びて、真っ赤な顔をさら真っ赤にして、コヴァクスとニコレットはしばらく呆然としていたが。大熊は息を引き取ったのがわかると、知らずに互いに寄り添い抱き合って。
互いの体温を確かめて、生きている、ということを分かち合った。
ニコレットは危機を脱した安堵で気が抜けて、コヴァクスの胸の中で泣きじゃくっていた。
戦うということは、結局はそういうことで。そこに、きれいもきたないもないし、体裁もへったくれもない。
敵は人間のみにあらず、時として自然とも血みどろに戦わねばならないことを、ふたりはこびりつく血を感じながら、脳天を斧で叩き割られるような衝撃とともに、身にも心にも打ち込まざるを得なかった。
ふたり、大熊の屍骸のそばで、それらを囲む累々たる屍骸の中で、しばし抱き合ったのち気持ちを落ち着けて、歩き出そうとする。
馬は、ニコレットの白龍号がそばで沈んだような面持ちでたたずんでいる。コヴァクスの愛馬は、戻ってこない。
さて、馬一頭に人間二人。どうしようか、と思案に顔を曇らせる。
やむをえない、戻ろう。とふたりは決めて、コヴァクスが手綱をにぎりニコレットがその後ろにのることとなった。その時、
「待て」
という声。
若者が一人現れた、かと思えば、百人ほどの人数が続けて現れてふたりを取り囲む。
まさか、まだ残っていた兵団があったのか、それとも戦場跡を荒らす屋盗のたぐいか。大熊との戦いで疲れ切った身も心に容赦なく疑惑と驚きが叩き付けられる。
見た感じ若者はコヴァクスと同じくらいの年齢のようであり。長身で黒髪の艶もよく黒い瞳も鋭く輝く。漆黒の鎧を身にまとい、その威風堂々たるさまからして、一見高貴な身分のようである。他の者たちも、隙なく剣を手にして、ふたりをじっと見据えている。
若者のそばでは、従者が若者の愛馬らしき黒鹿毛の馬の手綱を手にして控えている。
さらに見れば、若者は巨大な剣を背中に担いでいる。幅も厚さも通常の剣よりあり、長さも人の背丈くらいはゆうにある。
「お前たちの戦い、見せてもらった。たいしたものだ」
上から見下ろすような言い方だが、目はふたりと大熊とを交互に行き来させ。顔には、驚愕の表情が少なからずあらわれており。たいしたものだ、という言葉はまことと思ってもよいだろう。
返り血がこびりついたまま乾いてゆくのも意識の外に、コヴァクスとニコレットはもの言わず若者を見据えていた。
一体何者であろうか。
顔立ちや表情から、高貴な身分なのはうかがえるが。軍装も愛馬も黒一色で、背中の大剣もまた王侯貴族の趣味に合わぬものだ。しかし、ときとして御曹司たる若者は異形の装いを好んだりして、身分や財にものを言わせて、奔放な振る舞いをすることがある。
若者はそんなたぐいの王侯貴族の御曹司なのだろうか。
百人からの人数に囲まれても、コヴァクスとニコレットは慌てず落ち着いたものだった。そう若者には見えた。若者もまた、ふたりをただの流れ者の剣士ではないと見抜いているようだった。ことに、ニコレットが背中に背負う長箱に、目をやった。
「オレは、ソケドキア王太子、シァンドロス。お前たち、名は何という。その長箱には、何が入っている」
若者、シァンドロスは好奇の眼差しでふたりに問うた。問われたふたりは、驚きに身を硬くしていた。
(ソケドキアの王太子が、どうして、こんなところに)
ソケドキアは旧ヴーゴスネアのもっとも南に位置し、ここまでははるかに遠い。なのに、どうして王太子がこんなところまで。
黙っているふたりを見て、ふっと軽く笑うと。おもむろに背中の大剣の柄に手をかけた。
「オレを偽者と思っているのか。無理もあるまいな。ただ、只者ではないことだけは先に見せてやろう」
鎧を身にまとっているとはいえ、手や指、腕の太さから、身体全体が鋼のように鍛え上げられていることは容易に想像できた。その腕が、大剣を軽々と持ち上げ、大きくかかげる。
大剣をかかげるその姿から、大熊が人になって化けて出たのかと思わせるほど、異様な迫力があった。
なにをするつもりだ、と思う間もない。
シァンドロスは両手で柄を握りしめて、大熊の屍骸を鋭く見据えると。勢いよく大剣を振り下ろし。
大剣唸りを上げて風を切り、その頭から背中までを一気に真っ二つに割った。
おお、という唸り声が響く。
大剣を操り、筋骨逞しい大熊を、一刀のもとに真っ二つにするその力量。確かにただものではない。コヴァクスとニコレットは、大熊の筋肉の硬さに驚かされていたから、なおのことシァンドロスの凄さがわかった。
シァンドロスといえば、覚めた顔をして、大熊の無残な姿を見下ろしていた。
すぐさま、従者がやってきて、ふたりがかりで大剣を受け取ると、血のりを布で拭きはじめる。
「信じる気になれたか?」
自信満々、ふたりに詰め寄るシァンドロス。
呆気にとられて、言葉もないコヴァクスとニコレットだったが、
「わかった……」
とつぶやくと、
「オレは、オンガルリ王国ドラゴン騎士団小龍公、コヴァクス」
「私も、同じくドラゴン騎士団小龍公女、ニコレット」
とそれぞれ名乗った。
今度はシァンドロスらが驚く番だった。
どうして旧ヴーゴスネアの隣国の騎士の、それも名のあるドラゴン騎士団の二人の騎士が、こんなところで大熊と戦うことになったのか。
「オンガルリ王国、ドラゴン騎士団……。なぜここに」
と、予想通りの問いが返ってくる。
だがコヴァクスとて怖じてばかりではない。
「そっちこそ、なんでここいるのか」
と反問する。
コヴァクスとニコレットの目を見て、骨のあることを知るとシァンドロスは楽しそうな顔になって。
「知れたこと。我が王国の覇を唱えるためだ」
と応えた。
こいつ、正気か。
コヴァクスとニコレットは聞き違いではないかと、耳を疑った。
目の前にいるシァンドロスなる若者。遠く離れたソケドキアの王太子であると名乗り、また王国の覇を唱えるために祖国から離れたところにいるという。
だがシァンドロスの方も、コヴァクスとニコレットがここにいる理由を聞いても同じ反応だったろう。
どっちもよそ者同士だから。
「ふん、ますます信じられぬという目をしているな。よかろう、話してやる」
楽しそうに、ふたりに好奇の目を向け、シァンドロスは語った。
「我が父フィロウリョウは勇敢な王であり、ヴーゴスネア一帯を統一するのも、時間の問題であろう。だが、このままでは、オレの出番がなさそうなのでな。国を抜け、戦いの場を求めて北へと来たわけだ」
「……」
言葉が出ないコヴァクス、ニコレット。シァンドロスは楽しそうに話を続ける。
「そうでなくても、親の七光りなど、我に力なしであることを示すようで、面白くない。国を抜け北へ行き、すべてを己自身の手でもぎ取る戦場を求めるのも、勇者として当然の志であると思わぬか」
語るほどに、その顔は輝いてゆく。
それにしても、なんという大胆不敵であろうか。身分ある家柄にも関わらず、わざわざ危険と冒険を求めて国を出るなど。
まさに狂気の沙汰だ。
「オレは、親から譲り受けた国ではなく、オレ自身がもぎとった国を手に入れて、王になるのだ。王となり、この地上に覇を唱えるのだ」
聞いているうちに、真面目に付き合うのが馬鹿馬鹿しくなってくる。しかし、シァンドロスは本気のようだ。
手勢は引き連れているようだが。国を抜けて、いつまでもつのか。それに、総勢で何名なのだろう。ここにいる他にも、手勢はあるのだろうか。
「そこでだ」
とコヴァクスとニコレットを見据えて言う。
「お前たち、オレとともに戦わぬか。どういう事情で異郷の地にあるのか知らぬが。オレはお前たちが気に入った。仲間になれ」
「仲間?」
ニコレットが怪訝な顔をする。こっちの事情も聞きもせず、そんなことを言うということは、聞いてもお構いなしなのであろう。
「そうだ。オレがつくりあげた精鋭たちだ。神雕軍という」
神の雕の軍。なんとも大仰な名称ではある。
もし従わねば。
それなら、大剣がこたえる。
というところか。シァンドロスの目がそう語っている。コヴァクスは内心舌打ちする思いだ。
「ひとつ問う。彼らが、神雕軍なのか」
「左様。今でこそ百たらずだが、いずれも一騎当千のつわものたちだ」
皆精悍な顔立ちをし、相当な訓練を受け、勇敢そうで。彼らをもって国をもぎとるというのも、まんざらはったりではなさそうだった。
「さらに問う。国は北からつくりあげてゆくのか」
「そうだ」
父の向こうを張ろうとしているのだから、やはり北から攻めるというわけか。なるほど。
コヴァクスにひとつ、案が浮かんだ。
「いいだろう。お前に付き合う。ただし、下にはつかぬ。あくまでも対等の仲間としてだ。それでもいいのなら」
「お兄さま」
驚いたニコレットは不安そうにしている。が、以外にも
「よかろう」
と簡単に答えが返ってきた。神雕軍の者どもは、騒然とする。ドラゴン騎士団と名乗る正体不明の人間の、そんな要求を簡単に呑むなど、と。しかしそれはシァンドロスも考えていたようで。
「証拠を見せよ。その上でだ」
と言う。
コヴァクス、だまって頷いて、ニコレットの背負う長箱をとり蓋をあければ。紅の龍牙旗をもろ手にかかげてひるがえす。
その見事なつくりの旗に、歓声が上がる。真偽はともかく、見事なつくりの旗を、偽者がもてるわけがない。うばったにせよ、コヴァクスとニコレットの人品は卑しからずなのは、みててわかる。となれば、やはり本物、と思うのであった。
コヴァクスは旗をかかげ仁王立ちする。そのそばにニコレット。屍骸転がる戦場跡で、大熊の返り血もあびているので、まるでふたりがこの壮絶な光景をつくり上げたようにも錯覚し。
堂々とした様は、戦いの神と女神が地上に降臨したかのようでもあった。
シァンドロスは不覚にもふたり、ことにニコレットに見惚れ一瞬の間、我を忘れていた。
血塗れながらも流れるような長い金髪。ヘテロクロミアの、左右の色の違う瞳は珠のように輝きは、なにか神秘性を感じさせて。シァンドロスならずとも、ひとときその姿を見るだけでも恍惚とならずにはいられないであろう。
「これが、オレたちがドラゴン騎士団だというあかしだ。わかったか!」
コヴァクスは声高に咆えた。
シァンドロスの高飛車な態度に、内心腹を据えかねていたのもあすが、なによりも、ドラゴン騎士団としての誇りを逆撫でされるのは我慢ならなかった。
なんのやましいこともない。なら、堂々と名乗る。それだけのことだった。
「わかった。お前たちの言うことを信じ。要求をのもう」
大熊との戦いで疲れたはずのコヴァクスであったが、あらぬことで気力を回復しシァンドロスに一矢報いたかたちとなった。が、やはり身体は正直であった。
わかった、との言葉を聞いて安堵したのか、足から力が抜けて膝が地に着く。それをニコレットが支えようとする。
だが弱気なところは見せず、コヴァクスの瞳はシァンドロスをとらえている。
敵に回せばやっかいだが、味方にすれば頼もしい人物である。が、同時に戦い甲斐のある好敵手ともなりうる。
またヘテロクロミアのニコレットにも、シァンドロスは深い興味を覚えたようであった。
「誰かコヴァクスに馬を」
とのシァンドロスの指示に、ひとりの従者が馬を引き連れてコヴァクスに手綱を差し出す。
その馬は白地に独特の黒い斑点をもつ馬で、細くともよく引き締まった体型をしていて、駿馬の風格を漂わせていた。
「よい馬だな」
「わかるか」
「わかるとも。騎士でもあるし、馬とともに生きたマジャクマジール族の末裔だからな」
「ふふ、そうだな」
シァンドロスはおかしかった。
オンガルリの国民が、東方から来た騎馬民族の末裔であることは広く知れ渡っている。だがニコレットの瞳の色を見て、混血もかなり進んでいることもうかがい知れた。オンガルリおよびヴーゴスネアは大陸の交通要所で、東西からの民族移動も盛んな地域だ。その地に住んで、民族的な純血をたもつなど現実的に不可能な話であった。
では何をもって、その民族の末裔などと称するかといえば、戦争で勝った民族の血を基準にする。それが、人の世の民族観であった。
(だからこそ、我が民族を数多の民族の頂点となし、後世に残すのだ)
という野心を、シァンドロスは抱いていた。その混血の中に、ドラゴン騎士団、マジャクマジール族の血が入ることも、好ましいように思えた。
「この馬の名は、白豹号という。かわいがってやれ」
「ふん、白豹の兄に白龍の妹か」
疲れた身体に鞭打ち、新しい愛馬白豹号にまたがる。
「貴様、王太子よりも先に馬にのるか」
と誰かが言ったが、シァンドロスは右手を挙げて制す。
「よい。彼らと予は対等なのだからな」
と下がらせる。
従者はおとなしく引き下がったものの、コヴァクスとニコレットを見る目は冷たい。シァンドロスは平気そうにしているが、それもどこまで平気なのかわからない。王太子として、誇り高い彼が誰であろうと、対等の関係を持ち続けることを望むとは、とても思えなかった。むしろそれなら、バゾイィー王の方が信用が置けるくらいだった。
おそらく、関係は長続きしないだろう。
だが、それならそれでよい。
それまでの間、利用できるものは利用するまで。コヴァクスは、賭けに出ていた。
「ゆこう。細かいことは追々話す」
馬上からコヴァクスはシァンドロスにそう語りかけた。
頷いて、シァンドロスも愛馬の黒鹿毛にまたがる。愛馬の名は、グリフォンという。それは、鷲の上半身と獅子の下半身をもつ伝説上の獣の名で。
この獣は、天上の神々の車を曳く役目を負っている。
馬の名前を知り、コヴァクスとニコレットは、シァンドロスの豪胆さを掘り下げてしることができた。
思わぬ成り行きから大熊と死闘を繰り広げ、挙句の果てに沸いて出てきたように出現したシァンドロスとその配下、神雕軍と行動をともにするようになってしまった。
それは悪魔の業か神のいたずらか、ともあれその変転まことにめまぐるしい。
まさに、一歩先は夢にも思わぬことの連続であった。
道中、コヴァクスとニコレットは、シァンドロスに、今までのいきさつを語った。
シァンドロスは興味深そうに、よくふたりの話を聞いた。ことに、視線はニコレットをよく追った。
美しい金の髪に、神秘的な色違いの左右の瞳。ニコレットも自分にそそがれる視線を感じ取ったが、つとめて気付かぬ風をよそおい、受け流していた。
シァンドロスは赤月公、イヴァンシムのことをコヴァクスらに語った。イヴァンシムに会い、ソケドキアに行くことを進言したのは、他ならぬシァンドロスであった。
それを聞いたコヴァクスとニコレットは、たいそう驚いたものだった。まさか一国の王太子が国を抜け、さらに探し求める人物に接触して自国におもむくようにうながすなど、どうして想像できようか。それにしても、イヴァンシムはよくシァンドロスの進言に従ったものだ、と思った。
内に果てしない野心を抱く若者のどこに、魅力を感じたのだろうか。それともイヴァンシムなりの考えがあってのことだろうか。
が、それは今の自分たちも同じだった。
コヴァクスがシァンドロスと行動をともにする気になったのは、ひとえに戦力をもとめてのことだった。
あの難民たちを守れる戦力を、シァンドロスは提供してくれる。そのかわり、コヴァクスとニコレットも、いざというときに戦力を提供するのだ。
彼が直々に率いる精鋭、神雕軍。
いまこそわずか百たらずだが、それだけでも一国を奪い取る自信があると、シァンドロスはいう。
騎乗の者はこの中で十足らず。他は皆徒歩だ。
しかし、百人からの人数を従えて、よくぞ滅ぼされずに済んだものだ。これだけの人数を武装させて旅をさせるとなると、何かと目立って、あやしいと攻められそうなものだが。
それをシァンドロスに問えば、
「目立たせているのよ」
と自信満々にこたえるものだから、コヴァクスとニコレットは驚くを通り越してあきれたものだった。
この百人からの人数でもって、あちらこちらで戦いを巻き起こしては、旧ヴーゴスネアの王侯貴族どもを混乱させているのだという。
「暗殺者までよこして、オレを倒そうとやつらやっきになっておるわ」
と、高らかに笑うシァンドロス。暗殺者と聞いて、コヴァクスとニコレットは顔を見合わせた。
「それは、六人組の黒装束の者たちではなかったか」
「そうだ。知っているのか」
「グニスッレーとかいうのが頭目だが」
「ああ、そんな名前であったな。他にオナリハトクにアッリムラックとかいう女も……」
「オレたちも襲われたことがある。あやういところだった」
「なんだ、そういうことがあったのか。それで、どうやって生き延びた?」
まるで命からがら逃げ延びたかの言い草で、ちょっと、むっとしたがここは堪えて、フージーという名の、謎の女が突如現れて六魔を追い払いかつルクトーヤンをたおしたことを語る。
興味深く聞いていたシァンドロスは、うんうんと頷く。
「フージー、か。その女も知っているぞ。不可思議な体術を遣う、碧い目の女だろう」
「そうだ、彼女のことまで知っているのか」
「いや実のところ、オレもあやういところを、フージーに助けてもらった。是非とも味方に引き入れたいと思うのだが、風のように去っていってしまって消息がつかめぬまま、今にいたっている」
なんと、シァンドロスはフージーのことも知っていた。さらに、六人のうちの一人、ルクトーヤンをいとも簡単にたおしたことを聞き、さすがに驚きは禁じえない。
ならば、六人全員をたおすこともたやすいのではないか。だが何かの事情でたおさずにいるのか。
「おそらく、なるべくなら、人を殺したくはないのだろう」
と、コヴァクスは言う。脳裏には、あの碧い瞳が浮かんでいた。その様子はどこか、風に流されるように浮いた感じで寂しげだ。
(まあ、お兄さまったら)
コヴァクスの横顔を見て咄嗟に、ニコレットはあることが閃いた。
兄は、あのフージーという女に心惹かれているのではないか、と。
これが平時であれば、ひとつからかってやりたいが、今はそんな気も起こらない。色恋沙汰など、父の遺言を遂行する上で、障害になるのではないか。
コヴァクスの様子を察したのは、シァンドロスも同じで。こちらは、おかしみを感じているようで、やや口元をほころばせた。
それから、さりげにニコレットに視線をうつす。
見つめられ、色違いの瞳は一瞬とらえられてから、そっぽを向いた。これにもシァンドロスはおかしみを感じて、口元をほころばせた。
面白い兄妹だ、と。
しかし、あの六魔どもはシァンドロスも狙っていたのだ。あんな陰険な暗殺者を遣うとは、いったい主はどのような人物なのやら。
ひとつ言えることは、これから戦わねばならぬであろう王侯貴族どもの誰かなのは、間違いない。
となれば、難民たちのことがより心配になってくる。暗殺者たちは難民たちのことを主に告げて討伐を要請したのではあるまいか。と思うと、焦りはつのる。
(オレたちは、道に迷ってしまったのか)
なんだか、やることなすこと、空転ばかりか裏目裏目のような気がする。
シァンドロスと組んだことも、裏目に出るのだろうか。
ともあれ、いまのところ、イヴァンシムを探し求める目的は、シァンドロスが代役になることでその目的は達成されるようとしているようだ。
シァンドロスも、国を獲る上で新たな戦力を得て。お互いの利害は一致している。
異国の地で新たな国を造る。
もっとも、シァンドロスがどのような国を造ろうとしているのか、今はわからない。
良い国なのか、悪しき国なのか。
いまは、なにもわからず。
焦っている。ということを、いまになってやっと自覚してきたことをさとった。
【 公開ここまで 】