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間に合いませんでした

ただ――言ったところで、子どもの力ではどうにもならなかった。


岩はびくともしない。指をかけても爪が割れるだけ。押しても、持ち上げようとしても、動かない。それでも三人は、やめなかった。


朝日が地平の向こうから顔を出し始める頃。「……う……」とかすかな音が、岩の奥から漏れた。


トアの顔が弾けるように上がる。「父ちゃん!?」叫ぶと同時に走り出す。足を取られ、転び、また立ち上がる。血だらけの手で岩にしがみつき、必死に叫ぶ。「ここだろ!? ここからだろ!?」


ノエルとルークも、その場所へ駆け寄る。「……ここから、声が聞こえたの?」トアは息を切らしながら頷く。「間違いねぇ……! ここだ!」震える声。「父ちゃん、まだ生きてる……!」


その一言で、三人は再び岩に手をかけた。押す。引く。掘る。崩れた石の隙間に指を差し込み、必死に広げようとする。けれど、動かない。びくともしない。それでも、やめられない。


――ぱら、ぱら。


頭上から、小さな石が落ちてきた。「……っ」ルークが顔を上げる。「ここ……危ないんじゃないですか」その声は冷静だった。けれど、その指先はわずかに震えている。


ノエルは、一瞬だけ目を閉じた。それでも。「でも」顔を上げる。「ここで逃げたら……この人、死んじゃう」


それは事実だった。逃げれば助かる。でも――置いていくことになる。


(……なんで)


胸の奥が、焼けるように痛む。(なんで私は――)握りしめた手が震える。岩は動かない。声も届かない。手も届かない。(こんなにも……何もできないの)


視界が滲む。涙がこぼれる。悔しい。どうしようもなく、悔しい。(助けたい)ただ、それだけなのに。(私だって……誰かの役に立ちたいのに)


――ゴゴッ……!


大地が低く唸った。空気が揺れる。「……っ!」トアが顔を上げる。ルークも、同時に空を見た。


崩れる。分かってしまう。このままじゃ――三人とも、死ぬ。


ノエルは二人を見た。トア。ルーク。怖いに決まっている。だって――自分も、怖い。


それでも。(……それでも)


一歩、踏み出す。


「……ごめん」


小さく呟く。


次の瞬間、ノエルは二人の胸を思いきり押した。


「逃げなさい!!」


トアとルークの体が、弾かれるように後ろへ倒れる。


同時に。


――ドォォンッ!!


轟音と共に、岩が崩れ落ちた。土煙が舞い上がり、視界が白く染まる。


「ノエル!!」


ルークの叫びが、かき消される。


そのときだった。


――ドドドドドッ!!


地を叩く激しい音。複数の馬の蹄が、大地を震わせながら迫ってくる。


土煙の向こう。影が、次々と現れる。鎧。旗。剣。


騎士団だった。


だが。


遅い。


あまりにも、遅かった。


彼らが馬を止めたその瞬間、崩落はすでに終わっていた。


舞い上がった土煙の中、そこにあったのは――静まり返った、瓦礫の山だけだった。


夜が終わり、朝が始まる。


けれど、その光はあまりにも遅く、あまりにも無情だった。

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