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捨てられた私たちに、家族ができました

使用人のひとりが、ゆっくりと一歩、近づいた。


その瞬間。


ノエルは反射的にルークを抱き寄せた。


小さな体で、必死に庇うように。


そして、睨む。


怯えと、怒りと、守ろうとする意思が混ざった目で。


「……来ないで」


声は震えていた。


それでも、はっきりと拒絶する。


「私たちに、手出しをしないで」


その場の空気が、少しだけ張り詰めた。


けれど。


近づいてきた男――ガランは、足を止めただけだった。


それ以上、踏み込まない。


ただ、一定の距離を保ったまま、静かに口を開く。


「……旦那様は、ああ言っていたが」


低く、落ち着いた声。


威圧も、怒りもない。


ただ事実を置くように。


「ここには、あなたたちに手を出す者はいません」


ノエルの目が、わずかに見開かれる。


理解が、追いつかない。


「……え?」


思わず、声が漏れた。


ガランの後ろにいた使用人たちが、そっと顔を上げる。


誰も笑ってはいない。


けれど。


その目は、どこか柔らかかった。


「お嬢様」


ひとりの女性が、優しく呼びかける。


「あなたの“家族”の中に……私たちも、入れてはいただけませんか」


ノエルの呼吸が、止まる。


家族。


その言葉が、胸の奥に落ちる。


じわりと、痛みが広がる。


ついさっきまで。


その言葉は、別の意味を持っていたのに。


「……え……でも……」


戸惑いが、そのまま声になる。


「それって……お父様の、命令に……」


ガランが、わずかに肩をすくめた。


ほんの少しだけ、口元が緩む。


「ここは、辺境の地だ」


空を一度だけ見上げてから、続ける。


「目など、届かん」


その言い方は、どこか軽かった。


ほんの少しだけ、悪戯のように。


ノエルの中で、何かが揺れる。


信じていいのか、分からない。


疑わなければいけない気もする。


でも。


その場にいる誰ひとりとして、


彼女を“物”のようには見ていなかった。


ノエルの腕の中で、ノエルの服を、ほんのわずかに掴み返した。



まだ何も言わない。


けれど、その存在が確かにここにある。


ノエルは、そっと息を吸った。


ゆっくりと、吐く。


そして――


「……ルーク」


小さく呼ぶ。


自分でつけた名前を、初めて口にする。


「私たち……」


言葉が、少しだけ詰まる。


それでも。


涙で滲む視界の中で、前を見た。


「今日で……たくさんの家族が、できたみたい」


ぎこちない笑顔だった。


それでも、確かに。


さっきまでの“空っぽ”とは違うものがあった。


その言葉に、使用人たちの表情が柔らかくほどける。


ガランは、ひとつだけ頷いた。


そして。


少しだけ、低く言う。


「……ただし」


空気が、ほんの少し引き締まる。


ノエルの肩が、びくりと揺れた。


けれど。


次の言葉は、思っていたものとは違った。


「家族なら、甘やかさん」


まっすぐな目で、ノエルを見る。


「教育は、少々厳しいぞ」


一瞬。


間が空いた。


それから。


誰かが、小さく笑った。


その笑いは、馬鹿にするものではなくて。


あたたかくて。


どこか、懐かしい響きだった。


ノエルの胸の奥で、何かがほどける。


張りつめていたものが、少しずつ崩れていく。


こわかった。


ずっと、こわかった。


でも。


(……ここは)


ぎゅっと、ルークの服を握る。


今度は、離さないように。


(……大丈夫、かもしれない)


そう思ってしまった自分に、少しだけ驚きながら。


ノエルは、小さく――


本当に小さく、頷いた。


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