助けた代償で、倒れました
誰も、動けなかった。
騎士たちは、ただその光景を見つめていた。崩れた大地。吹き飛ばされた岩。そして、その中心に立つ――一人の少女。
「……なんだ……あれは……」
誰かが、呟く。それは理解ではなかった。畏れだった。
「……ありえない」
誰一人として、剣に手をかけることすらできない。ただ、見ていることしかできない。
そのとき。
「ノエルーーー!!」
ルークが、駆け出した。
止める者はいない。いや――止められなかった。
そのまま、勢いのままに飛び込む。ノエルの体に、強く抱きついた。
「……っ」
小さな衝撃。だが、ノエルはよろけることなく――その体を受け止めた。
ゆっくりと。まるで当然のように。
腕が、ルークの背に回る。
「……ルーク」
声は、静かだった。あまりにも静かで、さっきまでの少女とはどこか違っていた。
ルークは顔を上げる。涙でぐしゃぐしゃになった顔。
「……よかった……」
声が、震える。
「よかったぁ……」
ノエルは、何も言わなかった。ただ、そっと、その背を軽く叩いた。
そして、ゆっくりと顔を上げる。視線が――騎士たちへ向く。
その目に、一瞬、誰もが息を呑んだ。
そこには、迷いがなかった。
「……すみません」
静かに、口を開く。
「怪我をしている人たちがいます。手当を、お願いします」
淡々と。感情を抑えた声で。
命令ではない。だが、拒否することなど、できなかった。
その一言で、空気が変わる。
「――はっ!」
騎士の一人が、はっと息を飲む。
次の瞬間。「救護班、前へ! 生存者の確認を急げ!」
声が飛ぶ。
ようやく、騎士団が動き出した。
トアも、我に返ったように走り出す。「父ちゃん!!」瓦礫を乗り越え、必死に駆け寄る。
その先。すべてが吹き飛ばされた場所に――一人の男が、晒されていた。
「父ちゃん!!」
揺さぶる。返事はない。だが――微かに、胸が上下している。
「……生きてる……!」
声が震える。
だが、その視線はすぐに下へ落ちた。
「……っ」
右足が――なかった。
血が、止まっていない。
「父ちゃん! 父ちゃん!!」
取り乱すトア。
だが、騎士たちは、まだ一瞬だけ遅れていた。
「――早くしてください」
その声が、落ちる。静かに。だが、確実に。
ノエルだった。
その一言で、騎士たちが弾かれたように動き出す。
「止血急げ!」「担架を!」
一斉に、現場が動く。
それを見て、ノエルの体から、ふっと力が抜けた。視界が揺れる。音が遠ざかる。
「……あ……」
そのまま。
――崩れ落ちた。
「ノエル?」
ルークが、目を見開く。
「ノエル!!」
慌てて抱き止める。呼びかける。返事はない。
騎士の一人が駆け寄り、脈を取る。
「……大丈夫だ」
静かに言う。
「気を失っているだけだ」
ルークの肩から、力が抜ける。
騎士は、もう一度ノエルを見る。その目には、先ほどとは違う感情が宿っていた。
「……それにしても」
小さく、呟く。
「こんな子供が……あれほどの魔法を」
誰も、答えられなかった。
ただ一つ、確かなのは――もう、この少女を“ただの子供”として扱うことはできない。




