第43話:エピローグ
レインとの契約も無事に済み、私たちは帝都へ戻る準備を整えていた。
空は快晴。昨夜の騒動が嘘のように穏やかな朝だ。
「あ」
私は馬車に乗り込もうとしたところで、ふと思い出した。
「どうしたの、ソフィアちゃん? 忘れ物?」
「いえ……そういえば、ここに来てから一度もクロードに連絡していませんでした」
カジノでの勝負、レインとの知恵比べ、そして都市崩壊の危機。
あまりにイベントが濃密すぎて、帝都で留守番をしている皇帝陛下のことをすっかり失念していた。
「まあ、終わってから報告すればいいと思っていましたが……昨夜、あれだけ派手な『花火』を打ち上げましたからね。流石に心配しているかもしれません」
「心配どころじゃないと思うけど……」
ティナが引きつった笑みを浮かべる。
私は「アドミン、回線を開いて」と命じ、念話を繋いだ。
『――ッ!!』
コール音が鳴る間もなく、0.1秒で通話が繋がった。
相手がずっと通信機を握りしめて待っていた証拠だ。
『ソフィア……ッ! ソフィアか!? 無事なのか!?』
耳をつんざくような悲痛な叫び。
普段の威厳ある皇帝の声ではない。迷子が親を見つけた時のような、涙声混じりの絶叫だった。
「はい、無事ですよクロード。おはようございます」
『おはようございます、じゃない! 無事なわけがあるか! 昨夜、北の方角で「天を貫く極大の光の柱」が観測されたんだぞ!? 宮廷魔導師たちが「北方で戦略級魔法が炸裂したんじゃないか」とか「古代兵器が起動した」とか「世界の終わりだ」とかなんとかって大パニックになってるんだ!』
ああ、やっぱり見えていましたか。
あれだけの出力だ。帝都からでもオーロラのように見えたことだろう。
『俺は……俺は、君が巻き込まれていないか、心配で……! 今すぐ近衛騎士団を率いて北上しようとしていたところだ! あと5分連絡が遅かったら、軍を出していたぞ!』
「大袈裟ですね。ちょっとしたガスの元栓を閉め忘れただけですよ」
『アレのどこがガスなんだ!? 観測魔法で見たら、地図上の地形が変わってたぞ!?』
クロードの悲鳴が止まらない。
どうやら、この数日間、彼は一睡もできずに胃を痛めていたらしい。
「大丈夫です。問題は全て解決しましたし、お土産もできました」
私は横にいるレインを見た。
彼は興味深そうに、私のインカムから漏れるクロードの声を分析している。
「……ほう。これが皇帝か。音声波形から分析するに、極度のストレスと、依存に近い愛情が検出されるな。帝国のトップがこれほど非合理な精神状態とは……興味深い」
『ん? 今、男の声がしなかったか? ソフィア? まさか、新しい男を拾ったんじゃないだろうな!? 「お土産」ってなんだ!? まさかその男のことか!?』
「はい、新しい『先生』です。ご紹介しますね」
『嫌だ! 俺は認めないぞ! ソフィアの隣にいていい男は俺だけだぁぁぁ!』
クロードの情けない叫びが響き渡る。
やれやれ、帰ったらまずはこの甘えん坊の皇帝陛下を慰める仕事から始めないといけないようだ。
私は小さくため息をつきつつ、少しだけ嬉しくなって、受話器に向かって微笑んだ。
「ふふ。……ただいま、クロード」
『…………うぅ、おかえり。無事でよかった……』
通信の向こうで、安堵のため息と共に、ドサリと誰かが崩れ落ちる音がした。
こうして。
「北方・算術の国」にて、新たな仲間の加入と、皇帝陛下の胃薬の消費量増加という結果を残して、幕を閉じたのであった。
算術の国編、いかがでしたでしょうか。
理数系の話を書いてみたくてこうなりました!
レインのキャラが立ってねぇ! もう少し活躍させてほしい!と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価】で応援をお願いします!




