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第41話:即席魔導砲(上向き)

レインは瓦礫がパラパラと落ちてくる中で、部屋の隅にあった埃をかぶったロール紙を広げ、机の上にバン!と叩きつけた。


「これは……?」


「この時計塔の『改装設計図』だ。……いつか来るこの日のために、暇つぶしに引いておいた」


そこには、複雑怪奇な配管図と、時計塔全体を巨大な筒状の装置に見立てた構造図が描かれていた。


インクは乾ききっている。ついさっき書いたものではない。彼はずっと前から、この街の崩壊と、その対処法(解法)を準備していたのだ。


「作戦を共有する。現在、地下の魔力溜まりは圧力鍋の状態だ。カジノが蓋をしているせいで、行き場を失ったエネルギーが空間を歪めている」


レインは指で、地図上の二点を指し示した。


「ガス抜きが必要だ。震源地である『カジノ』から、この『時計塔』まで、地下には古いパイプラインが通っている。本来は魔力を循環させるためのものだが……これを逆流させる」


「逆流?」


「ああ。カジノの地下にある『中央制御弁メインバルブ』を開放し、魔力をこの時計塔へ誘導する。そして――この時計塔を『巨大な煙突マナ・カノン』として使い、空へ向かって一気に放出する」


「なっ……!?」


つまり、この都市の魔力溜まりを、この塔に誘引し、煙突として上空に飛散させるということだ。

いや、そんなことより──いやいやいや、今は目の前の課題に集中しよう。

事が終わった後に問い詰めればいい。


ティナが図面を覗き込み、悲鳴を上げた。


「無茶苦茶だよ! この塔はただの石造りだよ?そんな高出力の魔を通したら、内圧で塔ごと吹き飛んじゃう!」


「その通りだ。今のままならな」


レインはニヤリと笑い、ティナの鼻先に指を突きつけた。


「だから『改装』するんだ。内部の歯車を強制冷却ファンに転用しろ。シャフトを伝導体にしろ。配管のジョイントBをバイパスして、強度が足りない部分は廃材で補強しろ。……そのための計算式は、全てここに書いてある」


ティナは食い入るように図面を見つめた。

最初は「不可能だ」と言いたげだった彼女の目が、徐々に輝き出し、職人の熱を帯びていく。


「……すごい。デタラメに見えて、力のベクトルが完璧に相殺されてる。これなら、理論上は……いける!」


「できるな? 悪いがお前の技術頼りだ。突貫でも計算上は一度だけ使える。頼んだぞ」


「愚問だね! 後で『構造が複雑すぎて分からん』って泣いても知らないよ! やってやろうじゃん、最高の『魔改造』をさ!」


ティナが工具箱を抱え直し、頼もしく笑うと、すぐに作業に取りかかった。

レインは満足げに頷くと、次に私の方を向いた。


「そしてソフィア。お前の役割はシンプルだが、最も重要だ」


彼は懐から小型の通信機(魔導インカム)を取り出し、私に放り投げた。


「お前は『震源地』へ向かえ。カジノホテルの地下最深部に、魔力を堰き止めている元凶――メインバルブがある。それを物理的にこじ開けろ」


「バルブを開けるだけですか?」


「いや、ただ開けるだけじゃダメだ。俺たちが砲台を完成させるタイミングと、お前がバルブを開けるタイミング。これが0.1秒でもズレれば、逆流した魔力で街ごと吹き飛ぶ」


レインは懐から小型の通信機(魔導インカム)を取り出し、私に放り投げた。


「俺が合図するまで待機しろ。現地の魔力濃度は致死レベルだ。普通の人間なら近づいただけで廃人になるが……お前なら問題ないだろ?」


「ええ。ご存じのようですね」


彼にしたら、すでに既定なのだろう。

私はインカムを耳に装着し、ドレスの裾を翻した。


「では、行ってきます。……素晴らしい指揮コンダクトを期待していますよ、マエストロ」


私がそう言うと、レインは鼻で笑い、黒板に向き直った。


「安心しろ。変数は全て掌握している」


私は再び、崩壊の始まった街へと飛び出した。




「キャァァァァ!」


「逃げろ! 建物が崩れるぞ!」


外は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

空間の歪みが限界に達し、石畳が波のようにうねり、建物が飴細工のように捻じ曲がっている。

逃げ惑う人々。

だが、逃げ場などどこにもない。


「アドミン、最短ルートを!」


『オッケー! 正面突破が推奨されます。――邪魔な瓦礫は、全て粉砕してください』


「野蛮ですね。……余裕ですけど!」


私は身体強化の魔力を最大出力まで引き上げ、カジノホテルへ向かって一直線に駆け抜けた。

崩れ落ちてくる看板を拳で砕き、裂けた地面を風魔法で飛び越える。


ほどなくして、カジノホテルの巨大なエントランスが見えてきた。


かつては煌びやかだった黄金の回転ドアも、今はひしゃげて見る影もない。


「ど、どいてくれぇぇ! 私の金が! カジノがぁぁ!」


エントランスから、金貨の詰まった袋を引きずりながら這い出てくる男がいた。

先日、私と勝負をしたカジノの支配人だ。

彼は歪んだ空間に足を捕らわれ、無様に転がり回っている。


「邪魔です」


「ひぃっ!? き、貴様は……!」


私は彼を無視し、風魔法で瓦礫ごと吹き飛ばして道を作った。


今は小悪党に構っている暇はない。

私は地下へと続く階段を滑り降りた。

地下へ潜るにつれて、空気は重く、濃密になっていく。


肌にピリピリとした痛みを感じる。これが「純粋な魔力」の圧力だ。


『警告。周辺魔素濃度、危険域を突破。常人であれば即死レベルです。そろそろ結界魔法張ってね!』


「分かりました。では、強行します」


私は最深部の扉を蹴破った。


そこは、巨大なボイラー室のような空間だった。

部屋の中央に、脈打つように光る巨大なパイプと、それに繋がれた赤錆びたハンドル――メインバルブが鎮座している。


「これですね」


私はバルブに手をかけた。


じゅっ、と手袋が焼ける音がする。


「……っ、硬い!」


びくともしない。

物理的な錆びつきだけではない。パイプの中を流れる高圧の魔力が、内側からバルブを押し付け、ロックしているのだ。


「レイン、現場に到着しました。ですが、バルブが圧力で固定されています。人力では回りません」


私はインカムに向かって叫んだ。


ノイズ交じりの返答が、すぐに返ってくる。


『想定内だ。そっちはまだ待機でいい。こっちの準備が終わるまで、その『重り』を支えてろ』


インカムの向こうから、ティナの怒鳴り声と、金属を叩く激しい音が聞こえてくる。



─────────


一方、大時計塔。


「あーもう! この配管の規格、全然違うじゃない!」


ティナは時計塔の中腹、巨大な歯車の隙間に身を乗り出し、スパナを振るっていた。


レインの設計図は完璧だ。

完璧すぎて、既存の部品では追いつかない。


「文句を言うな! ジョイントBをバイパスしろ! 強度が足りないなら、その辺の鉄骨を溶接して補強だ!」


レインは下のフロアで、複数の圧力計を同時に監視しながら指示を飛ばす。


「3番パイプ、圧力上昇! 10秒後に破裂するぞ! ティナ、冷却弁を開放しろ!」


「手が足りないよぉぉ!」


ティナは泣き叫びながら、足でレバーを蹴り上げ、手でボルトを締め、口に咥えた予備のナットで固定する。


まさに阿修羅のような働きぶりだ。


「おい数学者! あとどれくらい!?」


「計算上、あと120秒で臨界点だ! それまでにこのガラクタを『芸術品』に変えろ!」


レインは叫びながら、手元の計算用紙に新たな数式を走らせていた。

その顔には、焦りはない。


むしろ、この極限状態を楽しんでいるかのような、獰猛な笑みが張り付いている。


(……良いデータだ。ドワーフの技術精度、ソフィアの魔力出力、そして地脈の流動係数。

 全ての変数が、俺の『予測値』に収束していく)


彼は最初から分かっていたのだ。

この街が限界を迎えることも。

そこへ規格外の「帝国皇后」が現れることも。


そして、彼女たちがこの無理難題ミッションを遂行できるだけの能力スペックを持っていることも。


「0%」と言ったのは嘘ではない。

だが、それは「凡人が足掻いた場合」の確率だ。


変数が「彼女たち」に入れ替わった瞬間、勝率は劇的に跳ね上がっていた。


「……見せてみろよ、『イレギュラー』。お前たちが、この『死の運命』をどう書き換えるのかをな!」


レインは計器の針がレッドゾーンに突入するのを見届け、インカムのスイッチを押した。


『――時間だ。ソフィア、ティナ! フィナーレを始めるぞ!』


役者は揃った。

あとは、空を穿つだけだ。


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