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第32話:今回のオチ

崩落した鉱山から脱出した頃には、日は高く昇っていた。

救出された作業員たちは家族と抱き合い、ドワーフたちからは安堵の歓声が上がっている。


そんな喧騒の中。


私は、キラキラした目で迫ってくる少女に詰め寄られていた。


「ねえねえソフィアちゃん! さっきの剣の設計図ブループリント、見せてくれない!? あの魔力回路の焼き付け、どうやったの? 普通の触媒じゃ熱で飛んじゃうでしょ? もしかして、冷却液が特別だとか!?」


「あ、当たりよティナさん。よく分かったわね」


「やっぱり! 冷却液の粘度を利用して魔力を定着させたんだ! 天才すぎ! あー、もう! じいちゃんのハンマーより100倍面白いわ!」


ティナは私の手をブンブンと振る。

助けられたばかりだというのに、彼女の興味は完全に「技術」に向いていた。


ガントさんが遠い目をして「ワシのハンマーが……」と呟いているが、まあ、元気そうで何よりだ。一通り騒ぎが落ち着いたところで、ガントさんが咳払いをして前に出た。


「……さて。嬢ちゃん、いや、ソフィア殿」


その呼び方に、周囲のドワーフたちが静まり返る。

ガントさんは、煤けた手で葉巻を取り出し、しかし火はつけずに口元で転がした。


「約束だ。俺の負けだ。土下座でもなんでもしてやる。煮るなり焼くなり好きにしろ」


彼は潔く膝を折ろうとした。

私は慌ててその肩を掴んで止める。


「やめてください! 土下座なんていりません!」


「だが、勝負は勝負だ。それに……」


ガントさんは、私の作った「3本の剣」に視線を落とした。


「悔しいが、認めざるを得ねぇ。あのゴーレムを紙切れみたいに斬り裂いた切れ味。そして、ワシの魔力を吸い込むように通した伝導率。……あんな芸当は、ワシらドワーフの手打ちじゃ逆立ちしても無理だ」


「ガントさん……」


「だがな、一つだけ言わせてくれ」


ガントさんの目が、鋭く私を射抜いた。

ここからは、職人としての最後の意地だ。


「俺たちはな、別に新しいモンが嫌いなわけじゃねぇ。現に蒸気機関だって使ってる。だがな、あれはあくまで『便利な筋肉』だ。重い荷物を運ぶ、硬い岩を砕く……そういった『力仕事』を任せるための道具だ」


彼は、自分のゴツゴツした拳を握りしめた。


「だが、あんたの使う機械は違う。温度管理、叩くタイミング、焼き入れの時間……それらは全部、俺たち職人が長年の勘と経験で培ってきた『技術スキル』だ。それを機械にやらせるってことは……俺たちの『脳みそ』まで機械に明け渡せってことじゃねぇか!」


ドワーフたちが頷く。


「そうだ!」


「俺たちの誇りまで奪われる!」


それが、彼らが私の提案を拒絶した本当の理由。

機械化によって、自分たちの存在意義アイデンティティが失われることへの恐怖だ。恐らくそれは、今後私が新しいものを作るたびに、あらゆる場面で起こりうる摩擦だ。


しかし──


私は真っ直ぐにガントさんを見つめ返した。

そして、静かに口を開く。


「奪うのではありません、ガントさん。私が機械に任せたいのは、あくまで『誰がやっても同じ結果になる『単純ベース作業』だけです」


「……あ?」


「正確に形を作り、正確に温度を保ち、不純物をなくす。これは確かに大事な工程ですが、ここに『職人の個性』はいりません。むしろ邪魔になるんです。だから機械がやります」


「な」


何かを言おうとしたガントさんを遮り、私は続けた。


「でもそれは、もちろん『職人』が長い時間をかけて見いだした技術の結晶でもあります。当然私は、そこに対して敬意を持っています」


私は、あの3本の剣を指差した。


「でも、あんなに凄い剣でも、最後は『誰が振るうか』でした。ガントさんが手にした瞬間、あの剣は命を得たように輝きましたよね?」


「……」


「私が作りたいのは、最高品質の『キャンバス』です。凸凹のない、真っ白で丈夫なキャンバスを機械が高速で作ります。――そこに『魂』という名の絵を描くのは、貴方たち職人の仕事でしょう? 私は、先に進めたいんです。技術の継承には、それは長い年月が必要です。それこそ生涯を賭す程に」


私はティナさんを一瞥し、続けた。


「彼女が、ガントさんの域に達するまでに、これから何十年とかけて修行していくでしょう。もしかしたら到達できないかもしれません。ですが、その技術を機械に継承させることで、我々の能力は、更に先へと進むと思いませんか?」


ガントさんが目を見開く。


単純作業から解放され、その分、もっと高度な「仕上げ」や「魔力付与エンチャント」に全精力を注ぐ。


「これから先に、まだまだ知らない世界があるんですよ? ワクワクしませんか? もしかしたら高速で世界を走り回る乗り物だってできるかもしれない。今でこそ一部の人にだけ許された、『魔法』の力を、誰でも気軽に使えるようになるかもしれない。いいえ、想像もできないような世界に繋がるかもしれない。私は、それが見たいんです」


それこそが、私の提案する「分業コラボレーション」の先にある未来だ。


「……は、ハハッ」


ガントさんが、乾いた笑いを漏らした。

そして、ニカっと笑い、大きな手を差し出してきた。


「キャンバス、か。よく言ったもんだ。考えたこともねぇよ。自分の技術のこの先なんてな。俺は、俺の技が最高だと思ってた。いや今も思っているが……いいだろう、乗った!」


「ガントさん!」


「ただし! そうだな! 仕上げの研磨と、最終的な魔力調整は俺たちがやる! 俺にはそこに先が見える! 機械なんぞに、一番おいしいところは渡さねぇからな!」


「もちろんです! それこそ私が望んでいたことです!」


私が手を握り返すと、ガントさんは万力のような力で握手をしてくれた。

痛いけれど、温かい手だ。


「じいちゃん、私も!  私もソフィアちゃんと一緒に行きたい!」


「お、おいティナ! お前はワシの跡継ぎに……」


「やだよ! 毎日ハンマー振るより、ソフィアちゃんと新しいことに挑戦したいもん!」


ティナが私の腕にしがみつく。ガントさんは「ぐぬぬ……」と唸ったが、最後には諦めたように息を吐いた。


「……仕方ねぇな! その代わり、一人前に育ててくれよ!」


「はい、約束します!」


雨降って地固まる。

私たちは、最強の鍛冶職人集団と、技術提携を結ぶことに成功した。


「……また一つ、歴史を変えたんじゃないか」


帰り道。

クロード様が、やれやれといった様子で空を見上げる。


「そうですか? 私はただ、効率的なラインを作りたかっただけですよ」


「ふっ。……君が関わると、世界はいつも少しだけ騒がしく、そして便利になる」


クロード様は優しく微笑むと、私の肩を抱き寄せた。


「よくやった、ソフィア。……君の夢に、また一歩近づいたかな」


「はい!」


私は胸を張った。後ろでは、リリィとティナが何やら専門用語で盛り上がっている。


機械と魔法、そして職人の魂。


全てが噛み合ったこの国は、きっとこれからもっと面白くなる。

ふと、私は大事なことを思い出した。


アドミンによるゴーレムの解析ログを思い返して、クロード様を見上げる。


「あ、そうそう。多分あのゴーレムが暴走したの、多分クロード様のせいですよ?」


「……なんだと?」


クロード様の眉がピクリと跳ねる。

私は悪戯っぽく笑って、種明かしをした。


「エメラルダのこと覚えてます? 帰り際にあのゴーレムのソースコード調べたら、書き方のクセが完全に一緒でした。多分、書いた人は同一人物ですよ。つまり、クロード様の規格外な魔力に反応して、セキュリティが強制起動したみたいです」


「なるほど……。しかし私に魔法を使わせたのは君だから、正確には私と君の連帯責任になるはずだが……いや、しかし私は現場指揮官である君に命令されて動いただけ。となると、発令した者が責任を負うのが組織のことわりでは……」


私はパンパン、と彼の手を叩いてその思考を遮った。


「さぁさぁクロード様! 終わったことをとやかく言っても仕方ありませんよ?」


「おい……」


「それに、今回は『一般人のふり』をして入国したわけですし。身分を偽っていたのだから、そのことをガントさんたちに謝罪して、正式に国交を結ぶ必要もありますね! 技術提携の契約書に、学校への機材搬入ルートの確保……あーあ、忙しくなりますよ!」


私はわざとらしく大袈裟に肩をすくめ、話をきり上げた。



最後までお読みいただきありがとうございます!

第32話にて、鉄血の国編が完結しました。


孫娘のティナちゃんも仲間に加わり、ソフィアの仲間集めも順調に進んでいます!


次章からは、舞台を北の「算術の国」へと移します!

そこには、また別のベクトルで尖った「変人」が待っています!


正直書きたいことはたくさんあるのですが、中々書ききれないという状況です!

もしも読んでみたいお話があれば感想欄等に記載していただければ書いていきます!


また、よろしければぜひ【★★★★★】で応援いただけますと幸いです!

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