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第31話:救出

剣を受け取ると、ガントさんはニヤリと笑い、剣の柄を握りしめた。


その瞬間。



─────────



彼の表情が変わった。


「……なんだ、こりゃあ」


彼のドワーフとしての本能が、震えた。

軽い。

いや、重量はあるはずなのに、魔力を通した瞬間、まるで体の一部になったかのように馴染む。


職人の手作り特有の「クセ」や「偏り」が一切ない。

限りなく無色透明な器。


だからこそ、使い手の膨大な魔力を、一滴もこぼさずに刃先へと伝達する。


仮にこの剣を装備したとして、勝敗を決するのは使い手の技量次第となるだろう。


(これが……『規格化』された剣ってか……!)


しかし、剣の効能はそれだけではない。

原子レベルで魔力と融合した刀身には、握るだけで使用者の魔力が伝達し、その魔力量に応じて切れ味が増す。


「クロード様、足を止めて!」


「承知した。……凍てつけ!」


クロード様が放った絶対零度の冷気が、ゴーレムの鋼鉄の足首を瞬時に掌握し、その巨体を大地へと縫い留める。


訪れた、またとない機会チャンス

ガントが地を蹴る。


その踏み込みは、岩盤すら砕くほどの熱量を孕んでいたが、彼の手にある剣は、氷のように静謐な輝きを放っていた。


鍛え上げられたドワーフの剛腕が、銀閃を描く。

青白い燐光を纏った刃は、もはや物質としての剣ではなく、高純度の魔力の奔流となって虚空を駆けた。


ゴーレムが迎撃の剛腕を振り下ろそうとした、その刹那。


それよりも速く、そしてあまりにも軽やかに、横薙ぎの一閃が通り過ぎていた。


手応えも、衝撃すらない。


古代技術の粋を集めて作り上げられたであろうゴーレムの装甲が、世界最強と目されるクロードの氷結魔法を意図も容易く弾く鉄壁の装甲が、まるで水面を撫でるかのように、抵抗なく両断されていた。


訪れる静寂。


一拍遅れて、空間に鋭い斬撃の軌跡が焼き付く。

そして、切り離された巨大な上半身が、断面から赤熱した光を放ちながら、ゆっくりと重力に従って滑り落ちていった。


「……すげぇ」


ガントは、手の中の剣を見つめて呆然としていた。

刃こぼれ一つしていない。


それどころか、斬った後もなお、青白い魔力のを美しく放ち続けている。



─────────



「……魂がない、なんて言って悪かった」


ガントさんは、動かなくなったゴーレムの前で、剣にそっとキスをした。


「こいつは空っぽなんじゃねぇ。ワシらの魂を、邪魔することなく、そのまま力に変えてくれる……まさに使い手の『最高の相棒』だ」


「じ、じいちゃん!!」


瓦礫の陰から、ティナが飛び出してきた。

ガントさんは涙ぐみながら両手を広げ、愛しい孫娘を受け止めようとする。


「おお、ティナ! 怖かったろう、もう大丈夫だ――」


しかし。


ティナはガントさんの腕を華麗にスルー(回避)し、彼が持っている「剣」に顔を近づけた。


「すごい! なにこれ! さっきの切れ味、物理法則無視してるよ!? 断面が熱変性するほどのエネルギー伝導率……ねえじいちゃん、この剣、誰が作ったの!?」


「……へ?」


ガントさんが虚空を抱きしめたまま固まる。

感動の再会のはずが、孫娘は祖父の安否そっちのけで、まだ熱を帯びている剣身を覗き込んでいた。


「ありえない……打痕がひとつもないわ。ミクロ単位で表面が均一化されてる。これはドワーフの手打ち技術じゃない……」


彼女はブツブツと呟きながら、恍惚とした表情を浮かべている。その目は、美しい宝石を見る乙女の目ではなく、新しいおもちゃを与えられたエンジニアの目だった。


「ティ、ティナよ……。ケガはないのか……?」


「あ、じいちゃん。うん無事だったの? そんなことより見てよこの剣! 触った感じ内部構造めちゃくちゃ均質化されていて淀みがない! ねぇ誰が作ったの!?」


ガントさんがガックリと肩を落とす。


私はそれを見て、思わず吹き出してしまった。


彼女も、祖父に劣らずなかなかの変人らしい。



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