第30話:共闘
非常鐘が鳴り響く中、私たちはガントさんの先導で「第3鉱山」へと駆けつけた。
現場は既に、パニック状態だった。
「おい! まだ中の空気は持つか!?」
「ダメだ、崩落で換気坑が潰れてる! 酸欠になるぞ!」
入り口には巨大な岩が積み重なり、道を完全に塞いでいる。
そして、足元からはズズズ……という地鳴りのような振動が断続的に伝わってきていた。
「くそっ……! 最深部の『第2採掘場』だ!」
ガントさんが岩壁を拳で叩く。
「あのエリアにあった古代の採掘機が目覚めやがったんだ! あいつが奥で暴れまわってるせいで、振動が止まねぇ! この状態で下手に入れば、振動で二次崩落が起きちまう!」
ドワーフたちが蒸気掘削機を持ち出しているが、振動を恐れて作業を進められずにいた。
「くそっ……! ティナ……!」
ガントさんが岩壁を拳で叩く。
あの頑固で強気だった彼が、今はただの無力な老人のように唇を噛み締めている。
一刻を争う状況だ。
私は深呼吸をして、脳内のスイッチを切り替えた。
「――ガントさん。泣いている暇はありません、坑道の地図はありますか?」
私の鋭い声に、ガントさんがハッと顔を上げた。
「じょ、嬢ちゃん……?」
「クロード様は崩落箇所の固定をお願いします。私は全体の指揮を執ります。ガントさんは部下に指示を出して、掘削の準備を」
「だ、だが、中がどうなってるか分からねぇ! どこに生存者がいるかも分からねぇのに、闇雲に掘ったら生き埋めになっちまう!」
ガントさんの言う通りだ。
まずは生存者の位置を特定しなければならない。だが、この厚い岩盤越しでは声も届かない。
坑道の中を照らす光りがあれば。
その時だった。
空から一筋の光が、彗星のように飛来してきた。
「ソフィアお姉様ぁーー! 助けに来ましたよー!!」
キラーン!
という効果音が鳴りそうな勢いで、光の玉――いや、帝国の「一級魔導師(光魔法)」、リリィが、私の目の前に降り立った。
「リリィ!? どうしてここに?」
「ギルバート様にいっぱい機械送ってもらってましたよね? 聞いたら人手が必要ということでしたので、飛んできました!」
リリィが敬礼をしてみせる。
なんというタイミングの良さ。
彼女こそ本当の聖女と呼びたくなる。
真の救世主だ。
なにせ彼女は今、帝国の鉱山で引っ張りだこの「現場のプロ」なのだから。
(……光、光だ! 彼女の魔法なら、坑道全てを照らすことができる!)
「リリィ! 本当にいいところに来たわ! 理由は後から説明するから、早速だけどその光で坑道の中を照らして!」
「え? なんかみんな慌ててます? あ、まさか崩落事故ですか?」
周囲の慌てた様子を見て、状況を察知するリリィ。
流石現在現役で鉱山含む光の必要な現場で働く魔導師だ。
物分かりがめちゃくちゃ早くて助かる。
「ええ! そのとおりよ! 貴方の光魔法なら、振動を起こさずに岩の隙間をすり抜けられるわ! 中を明るくして!」
私の指示に、リリィは自信満々にウインクした。
「オッケー! 暗いところは大得意です! 帝国の鉱山で鍛えた『高輝度サーチライト』、見せてあげます!
!」
リリィが岩の隙間に張り付くと、強烈な閃光が内部へと送り込まれた。
ただ明るいだけではない。影を飛ばし、奥まで見通せる「現場用」の光だ。
「よし……アドミン、『子機』射出!」
私は懐から、掌サイズの金属球を取り出し、宙に放った。
それはブゥン……と低い駆動音を立てて浮遊すると、赤いセンサーアイを光らせた。
『リンク確立。自律型索敵ユニット、起動』
金属球は生き物のように動き回り、リリィが照らしたわずかな隙間へと滑り込んでいく。
「ウォ、なんだそりゃ!?」
ガントさんが目を丸くして叫ぶ。
流石にものづくりを天職とする種族。
こうしたガジェットには目がないらしい。
鉄の玉が勝手に空を飛び、命令を聞くなど、この世界にはない技術だ。
「これは……エメラルダの古代遺跡で見つけた『遺物です!」
私は手元のホログラムモニタを展開しながら簡潔に説明した。
「現代の技術では再現不可能な、古代の自律偵察機です。……こういう狭い場所の偵察には、これ以上のものはありません」
「こ、古代の遺物か」
ドワーフたちがゴクリと喉を鳴らす。
正真正銘のロストテクノロジー。
技術屋である彼らにとって、それは宝の山に見えたことだろう。
「しかしよく起動できたな。地下のゴーレムも、動かせないし動かないから放置していたんだが……」
「それは後ほど説明します!」
モニタで子機を操作しながら、坑道に潜入させる。
作業しながらエメラルダでのことを思い出した。
そう言えばあの時古代遺跡が起動したのはクロード様の魔力のせい……?
ひとまず可能性の話はあとにして、現状に集中することにした。
数秒後。
私の空中に展開したホログラムウィンドウに、子機からの映像が映し出された。
リリィの完璧な照明のおかげで、内部が鮮明に見える。
「……いました! 最深部の第2採掘場!」
映像には、瓦礫の陰に身を寄せ合う作業員たちと、その中心で手帳を握りしめる少女――ティナの姿があった。
そして、そのすぐ近くで暴れまわる巨大な影も。
「生存者5名、全員無事! ただし、古代ゴーレムが暴走していて危険な状態です!」
「ティナ……! 生きてたか……!」
ガントさんが映像を見て安堵の声を漏らすが、すぐに表情を引き締めた。
「よし、場所は分かった! ここから最短距離で掘り進めるぞ!」
「待ってください。ただ掘るだけでは崩れます。クロード様!」
「ああ、分かっている」
クロード様が前に出る。
「私が坑道の天井と壁を、氷の柱で補強しながら進む。崩れようとする力を、氷の強度で無理やり抑え込む」
「氷で……支えるだと? だが魔法で作ったものは崩れやすい……」
「侮るな。私の氷は特別だ、鉄鋼よりも硬い」
クロード様が手をかざすと、入り口の瓦礫の隙間に冷気が走り、脆くなった地盤が一瞬で凍結して固定された。
「今です! ドワーフの皆さん、全力で掘ってください! 崩落の心配はありません!」
私の号令に、ガントさんが吠えた。
「聞いたか野郎ども!! 聖女様たちが道を作ってくれる! 俺たちの蒸気ドリルで、一気に風穴開けるぞぉぉぉっ!!」
「「「オオオオオオッ!!」」」
ドワーフたちの目の色が変わった。
そう言えば、ドワーフと言えば鍛冶職人のイメージが脳裏にこびりついているが、かつては坑道を掘り進み地下資源を採掘するのが彼らの天職だ。
蒸気機関が一斉に唸りを上げ、巨大なドリルが回転を始める。
手際の良さに、またたく間に穴が広がっていく。
「右舷、角度30度修正! クロード様、10メートル先に追加の支柱を!」
「任せろ!」
「オラオラァ! 掘れ掘れぇぇぇ!」
三者の力がかみ合って、信じられないスピードで、私たちは地下深くへと突き進んでいく。
─────────
一方、崩落現場の最深部。
「キャァァッ!」
「逃げろ! こっちだ!」
暴走した古代採掘機が、錆びついた巨大なアームを振り回している。
岩盤を砕き、鉱石を掘り出すためのその腕は、人間など容易くひき潰す凶器だ。作業員たちが逃げ惑う中、瓦礫の陰に隠れる一人の少女――ガントの孫娘、ティナがいた。
彼女は恐怖で震えながらも、その瞳だけは異様な輝きを放っていた。
「……すごい。あれが古代の自動制御……。蒸気機関じゃない…… 魔力を動力にしてるのに、なんであんなに滑らかに動くの? あの関節の機構……今の私たちの技術じゃ再現できない……」
彼女はポケットから出したメモ帳に、暴れるゴーレムのスケッチを描き殴っていた。
この状況で「構造解析」を始めてしまうあたり、彼女もまた生粋の技術者の気質を秘めていた。
ズドォォォォォン!!
その時、轟音と共に壁が突き破られた。
舞い上がる砂煙。
その奥から、青白い冷気と共に現れたのは――。
──────────
「――おい! 生きているか!!」
巨大なドリルを構えたガントさんたちと、それに続く私とクロード様、リリィ。
「じ、じいちゃん!?」
「ティナ! 無事か!!」
ガントさんが叫ぶ。
しかし、再会の喜びも束の間。
侵入者に気づいた古代ゴーレムが、ギギギ……と首を回し、標的を私たちに変更した。
「グオオオオオオオッ!!」
「ひっ……!」
ゴーレムの赤い瞳が明滅し、巨大なドリルアームが振り上げられる。
「みなさん! 下がってください! クロード様! お願いします!」
「ああ!」
クロード様が氷の壁を展開するが、ゴーレムの一撃は重い。
ガギィィィン!!
氷壁にヒビが入る。
「なんて馬鹿力だ……! それに、この装甲……魔法をはじきやがるっ!!」
ガントさんが焦りの声を上げる。
魔法耐性を持つ装甲と、岩盤すら砕くパワー。
生半可な攻撃では傷一つつけられない。
「……ガントさん!」
私は背中の木箱――さっき工房から持ってきた箱を開けた。
「これを使ってください!」
私が差し出したのは、私たちが作った「3本の魔導剣」の一振り。
「嬢ちゃん、これは……」
「この剣なら、斬れます。私たちが作った、科学と魔法のら……あの装甲ごと両断できます!」
ガントさんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニヤリと笑い、その剣をひったくるように受け取った。
「……へっ、上等だ! ワシの孫に手を出したポンコツに、最新技術の切れ味を教えてやるか!!」
ドワーフ族最強の職人が、私たちの『魂』を込めた剣を握りしめ、咆哮を上げて飛び出した。




