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第19話:博覧会(エキスポ)

結婚式まであと3日。


帝都の式場となる広大な庭園は、お祝いムード……というより、「巨大な魔導実験場」のような熱気に包まれてい


「いいかい! 『バージンロード』に敷き詰めた『発行精霊板ルミナス・パネル』! リフレッシュレートをもっと上げて! 新婦の歩く速度に合わせて光が追従するように!」


「そこのゴーレム班! 『音響拡張水晶サウンド・クリスタル』の共鳴率が低いよ! 心臓に響くレベルまで出力アップ!」


現場監督として指示を飛ばしているのは、派手なシャツに片眼鏡の男。


アルケム連合の第3王子、ギルバートだ。

彼は今回、クロード直々の指名により、結婚式の『魔導演出・技術総監督』として招かれていた。


「悔しいが、派手な仕掛けを作らせれば右に出る者はいない」というクロードの判断と、「最新技術を試すが欲しい」というギルバートの利害が一致した結果である。


「……おい、ギルバート」


クロードがこめかみをピクピクさせながら声をかける。


「私の結婚式を、貴様の国の『技術見本市』にするつもりか?」


「人聞きが悪いなぁ、陛下! これは『演出』だよ!」


ギルバートは悪びれもせず、私にウインクを飛ばした。


「やあソフィアちゃん! 見てくれ、この最新の『システムを!」


彼が指差した先には、無数の「半透明なスクリーン」が浮いていた。


「遠方の親戚や、他国の要人が来られない場合でも大丈夫! この魔導鏡を通じて、あたかもその場にいるかのように式に参加できるんだ。しかも『空間転移ポート』付きだから、ご祝儀(金貨)もワンタッチで転送可能!」


「す、すごい……! 遅延レイテンシがほとんどないわ! これなら会場のキャパシティを気にせず、全世界に配信できる!」


私が目を輝かせると、ギルバートはさらに畳み掛ける。


「だろう? そして極めつけはこれさ!」


ウィィィィン……!


ステージの中央にせり出してきたのは、高さ5メートルはある巨大なウェディングケーキ……の横に設置された、凶悪な機械アーム。


「な、なんだそれは」


「『高収束・熱線魔導カッター』さ!」


「は?」


「ナイフで切るなんてアナログすぎる。この熱線レーザーなら、断面を一瞬で焼き切るから、スポンジの水分を逃さず、鮮度を保てるんだ! さあソフィアちゃん、動作テスト(デバック)を!」


「わぁっ! やってみたい!」


「待てソフィア! 結婚式で『焼き切る』とか言うな! 縁起でもない!」


クロードが必死に私を止める。


技術オタクの暴走は、皇帝権限でもなかなか止められないのだ。


その時だった。


『警告! 高エネルギー体接近! 直視厳禁デス!』


上空のアドミン(ドローン)が叫ぶ。東の空から、太陽よりも眩しい「光の玉」が、ゆったりと降りてきた。


「て、敵襲か!?」


「いや……あの光の波長は……!」


私がサングラス(作業用)をかけた瞬間、その光の玉はふわりと庭園に着地した。


光が収束すると、そこには懐かしい人物が立っていた。


「ソフィア様ぁぁぁ〜〜っ!!」


全身からビッカビッカと神々しい光を放ちながら、その少女は私に抱きついてきた。


「リ、リリィ!?」


そう、元・ルミナス王国の聖女であり、現在は帝国の公務員として働くリリィだ。


久しぶりに会った彼女は、以前よりも表情が引き締まり、自信に満ち溢れていた。


「久しぶりねリリィ! 元気にしてた?」


「はいっ! もう毎日が充実してますぅ!」


リリィは感極まったように、私の手を握りしめて語り始めた。


「最初は、私なんかが『魔石鉱山』で役に立つのか不安だったんですけど……。広大な地下坑道を、私の光魔法ひとつで隅々まで照らせるんです!」


「ええ、ええ」


「作業員の方々からも『リリィ様のおかげで安全に作業ができる』『魔物の影も見逃さない』って頼りにされて……。私、生まれて初めて『自分だけの役割』を見つけた気がします!」


リリィは、胸元に輝く「一級魔導技師(照明特化)」のバッジを誇らしげに見せた。


かつての彼女は、王宮という狭い世界で「聖女」という飾られた役割を与えられ、何をすればいいのかも分からず、ただフワフワとしていた。


けれど今は違う。


自分の能力を活かし、現場を後方から支える「スペシャリスト」として、確かな自信を手に入れたのだ。


「うぅっ……リリィ……立派になって……」


私は感動した。


彼女もまた、自分の才能を正しく評価してくれる場所で、輝くことができたのだ。


「す、すごい光量だ……!」


ギルバートがサングラスを押さえながら唸る。


「ソフィアちゃん、彼女の協力を仰げないか? この純度100%の聖なる光があれば、夜のパレードの演出が劇的に変わる! 『主電源メインイルミネーター』して是非スカウトしたい!」


「あ、いいですよぉ! 私、結婚式のために新技『祝福の七色プリズム』を練習してきたんです! 当日は会場全体を幻想的に包み込みますね!」


「よし採用だ!」


「……はぁ」


クロードが深々と溜息をついた。


「レーザーのケーキ入刀に、人間離れした発光魔導師……。……ソフィア。本当にこれでいいのか? 普通の結婚式でなくて」


クロードが心配そうに聞いてくる。

私は彼の腕を取り、満面の笑みで答えた。


「はい! 最高です! 大好きな技術と、大切な友人たちに囲まれた結婚式……これ以上、幸せな舞台(環境)はありません!」


「……そうか。君が笑っているなら、それでいい」


クロードもようやく観念したのか、ふっと優しく微笑んだ。

会場は準備万端。

役者は揃った。


あとは、本番を迎えるだけ――のはずだった。


その日の夕方。


門番から、一通の報告が入った。


「報告します! ルミナス王国からの『使節団』が到着しました! 代表者はエリック王子。……何やら、厳重に封印された『贈り物』を持参しているようです」


その報告を聞いた瞬間、私とクロード、そしてギルバートの表情が一変した。


「……エリックが? あのプライドの塊が、のこのこ祝いに来るだと? おいソフィア。まさか招待状を送ったのか?」


「はい。『周辺諸国の王族リスト』を抽出して、一括送信(バッチ処理)しましたから」


私が平然と答えると、二人は呆れた顔をした。


「君なぁ……。元婚約者だぞ? 普通は『除外リスト』に入れるだろう」


「え? だって、彼を除外するコードを書くほうが手間じゃないですか。どうせ来ないと思ってましたし」


「……合理的すぎて涙が出るよ」


ギルバートが苦笑する横で、クロードは鋭い眼光を放った。


「……確かに、普通なら来ない。招待状を見た瞬間に破り捨てるのが関の山だ。だが、奴は来た。……その高いプライドを飲み込んでまで、な」


「怪しいですね。……アドミン、スキャン結果は?」


『解析不能! あの箱、めちゃくちゃ強力なプロテクトがかかってるよ!……でも、中からすごく嫌なノイズが漏れてる』


私はクロードと顔を見合わせた。


「……どうやら、ただのお祝いではないようですね」


「ああ。害虫が、最後の悪あがきに来たようだ」


クロードの瞳が、氷のように冷たく光る。


「丁度いい。結婚式の余興に、過去の因縁を『処分』してやろう」


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