タイトル未定2025/11/04 00:13
二人の距離が少し縮んだ気がして、かじかは少し戸惑っていた。別に手を繋いだりするわけじゃない。ただ一緒にいて話をしているだけ。二人で楽しい時間を過ごしているだけ。
これからランチを一緒にするわけだが、以前と比べてかじかにとっても特別になっている。
席についてから携帯電話に目を落としていると傍に誰か立っている気配がした。
ふと視線を上げると綺麗な女の子が立っている。
「ええと?」かじかが驚いて声をかけると綺麗な顔のその子は眉をひそめた。
「ねえ、優雨と付き合ってんの?」
「え?」
かじかの言葉に彼女の目がつり上がる。そばの椅子に座るとかじかの顔を覗きこんだ。
「付き合ってないなら、こうやって会うの止めてくんない?優雨、最近デートも断ってくる。私のほうが先に好きになったんだから」
「……あ、友達だから」
「友達だったら、なおさら止めて」
「あの」
かじかの手を掴んだ彼女の手は綺麗なネイルだ。華奢で細い指輪が似合っている。
「本当に……お願い。好きじゃないなら止めて」
綺麗な顔に大きな瞳が揺れている。かじかは困ってうつむくしか出来なかった。
「ごめんなさい……」
彼女の手を外して鞄を持つと頭を下げた。
「……約束はできないけど……迷惑はかけないから」
席を立ってカフェを出る。足早に駆け出すとその場から逃げ出した。
綺麗な女の子。葉月の隣に並べば絵になるだろう。たまらなくなって逃げ出してきたけど、鞄の底のほうで携帯電話が鳴っている。多分葉月だろう。
さっきの彼女の泣きそうな瞳が忘れられずに、鞄を開けられなかった。
それから二ヶ月ほど、かじかは葉月を避けていた。その間も携帯電話にはメッセージが届いている。返事はしているものの、なにかと理由をつけて会うことだけは避けていた。学校でもなんとか顔を合わさないようにしていたものの、とうとう捕まってしまった。
「かじか!」
呼び止められて手を捕まれる。久しぶりの葉月は少し疲れているのか顔が青かった。
「ごめん……」
振りほどこうと手を動かしたが葉月がぐっと握り締める。
「ちゃんと話しよう。喧嘩してるわけじゃないんだからさ」
「……そう、だけど……」
ぐっと振りほどこうとした手を上げると葉月は首を横に振る。
「かじか……頼むから」
「……わ、わかった」そう言い終える前に葉月の後ろからあの子がやってくる。
綺麗でまぶしい女の子。彼女はかじかを捉えると目を吊り上げてやってきた。
「優雨!!今日一緒にカフェ行こうよ」
葉月の視界に入ると彼女の顔が柔らかく優しく微笑む。それを見て葉月が眉をひそめた。
「悪いけど、俺、今かじかと話してる」
「うん、じゃあ終わるまで待ってる。いいでしょ?」
「……よくねえよ。まじでさ……」
葉月の声が少し強くなったので、かじかは掴まれたままの葉月の手を動かした。
「行っておいでよ。また後で電話して。話ならそれでもできるよ」
「な、かじか!」
かじかは彼女の顔を見て頭を下げると葉月の手を優しく外した。
「ごめん。本当に……邪魔しないから。ごめんね」
葉月の顔すら見れずに踵を返す。情けなくて泣き出しそうなのをぐっと堪えて足早に逃げ出した。
真夜中、携帯電話にメッセージ。
葉月からだ。
「ごめん」から始まった言葉は、かじかと彼女のやり取りを全て知っているようだった。
「あいつから全部聞いた。ごめんな……俺、何も知らなくて」
かじかはそっとメッセージを打つ。指先が震えていた。
「大丈夫、ごめんね。彼女がいたのに邪魔してたのは私だった」
「違うよ。彼女じゃない……あいつ何言ったのか知らないけど、まじで付き合ってないから」
「うん、でも友達なら邪魔できないよ」
「邪魔って?」
「あの子、君のこと好きだって。だから友達としては応援しなくちゃ」
メッセージを打ち終えて数分、パタリと反応が来なくなった。
かじかが携帯電話を置くと呼び出し音が鳴り響いた。おそるおそる出ると葉月の不機嫌そうな声が聞こえた。
「友達?」
「……うん」
「なあ、まじで言ってる?俺、そんな風に思われてた?」
「え?」
「こんなこと電話で言うことじゃない。でもメッセよりちゃんと言わなくちゃいけない。なあ、かじか……俺のこと嫌いか?」
葉月の声が少し震えている。
「き、嫌いじゃない……」
「なら……さ、明日、朝ちゃんと会おう。ちゃんと話そう」
どこか泣き出しそうな声にかじかの心臓がぎゅっと潰された。
「わ、わかった。ねえ……」
「何?」
「ご、ごめんね?」
「……うん、いい。大丈夫……でもさ、本当に」
「うん?」
「頼むから……避けないで」
電話が切れて光の消えたそれをぎゅっと胸に抱きしめた。今更こんな風に思い知るなんて……。私、葉月が好きだ。それでも、あの日見た彼女の揺れる瞳が忘れられなくてただ目を閉じた。




