タイトル未定2025/11/04 00:12
「ねえ、かじかは葉月君とよく一緒にいるけど彼氏なの?」
帰り道のカフェでお茶をしていたメイがカップを持ってかじかを覗き込む。その目は興味津々とある。
「友達だよ。仲の良い男の子の」
「ふうん」
嘘は言ってない。実際仲が良いし、恋人みたいな距離になったことなんてない。
「好きなの?」
唐突なメイの質問にかじかは噴出すと咳き込んだ。
「何でそんな慌てるのよ」
「ゴホッ、違う。ゴホッ……メイが変なこと聞くから」
「変?でも学校だと皆、葉月君とかじかは恋人だって思ってるみたいだよ」
そう言われてますます咳き込むとメイが水の入ったグラスを差し出した。
「ほら、落ち着いて。まあ、そんなに困っちゃうならそうじゃないんだろうね。かじか……元彼のこと、引きずってんの?」
グラスの水を一口飲んでかじかは顔を上げた。
「元彼?全然」
そういえば言われるまで思い出すこともなかった。送り狼君。
「フフ、そっか。ねえ、かじか」
「うん?」
「葉月君、優しい?」
メイはふわっと微笑んで見せる。
「……そうだね、優しいかな」
「じゃあ、大事にすべきだよ。……友達でもね」
「……そう、だね」
軽快な着信音がメイの鞄の中で鳴り、彼女の綺麗な指先が携帯電話を取り上げた。
「あ、彼氏だ。なんかお休みになったみたい」
メイの顔が少し嬉しそうに微笑んだのでかじかは頷いた。
「行っておいで。せっかく連絡してくれたんでしょ?」
「うん。行ってくる。かじかも頑張ってね」
メイは鞄を持つと足早にカフェを出て行った。今流行の可愛らしいスカートの裾がふわふわ揺れている。少し進んだところで振り返り大きく手を振るメイ。
かじかが女でもメイは可愛い。かじかは頬杖を付くと残りのお茶を飲み干した。
「聞いてる?」
上の空だったのか目の前に覗き込んでいた葉月の顔に一瞬驚いた。今日は海の撮影。暖かい砂浜に座り込んでいたせいで、気持ちよくなっていたようだ。
「ごめん……何?」
葉月は隣に腰かけると小さく溜息を付く。
「……もういい。で、何か悩み事でもあんの?」
「うん?そんなことはないけど」
「……お前、顔に出やすいからさ。俺でよければ聞くよ?」
「顔に出てた?」
かじかが片手で頬に触れると葉月はハハと笑う。
「うん。ま、言いたくないならいいけどさ」
「ごめん。あ、で、どんなの撮れたの?」視線を葉月の手元に移す。
「ああ、見る?かなり綺麗なの撮れた」
葉月はカメラを操作して撮ったものを見せてくれる。美しい色合いが小さな画面に納まっている。
「うわあ、凄い綺麗。才能あるなあ……」
「まあね。賞も取れちゃうほどだから」
「自分で言う?……でも凄いな……かっこいい」
素直に出た言葉だったけど、一瞬葉月が止まった気がして顔を上げた。視線が合うと彼の顔が赤くなった。
「うん?」
「あ……いや。なんか……珍しく照れた」
「言われ慣れてるでしょ?」
「慣れてるけど……なんかね」
「そっか」
目の前のいつも自信満々な葉月が照れてはにかんでいる。それが面白くてつい声に出して笑ってしまった。
「可愛いとこあんだね?」かじかの言葉に葉月の顔がもっと赤くなる。
「どうしたの?」
葉月は視線を逸らすと眉をひそめて片手で額を押さえた。
「まじかよ……」
「うん?」
「なんでもない。もう少し撮ってくる」
カメラを抱えて海のほうへ歩いていく葉月。なんだか悪いことを言った気になったけど、彼の赤い顔を見れたのでいいかと、かじかはほくそ笑んだ。
かじかが葉月と出会って一年が経つ。
丁度出会った頃と同じように飲み会があるらしく、メイから間に合わせの連絡があったが傍にいた葉月が大きく息を吐いた。
「あー、行かなくていいよ」
「そう?新歓も兼ねてるって聞いたけど」
「そうだけど、メイちゃんは彼氏いるんだろ?だったら大丈夫だけどさ」
「うん?」
葉月はかじかに眉をひそめる。
「もう、わかってないな。かじかは二回目だけど結構気にされてるわけだ。わかる?彼氏いないってわかってる連中は、何がなんでも接点持ちたくなるだろ」
「そういうもん?」
「そう」
「ふうん……でもさ、巷では私たち付き合ってるって聞いたけど……そういうことなら気にすることないんじゃ?」
かじかがサラっと言うと葉月はムッとした。
「違うじゃん。まあ……そりゃあそうだとしても、かじかが望めばそうもなるし」
「どういう意味?」
「あー、もう。いいから……とにかく行かなくていい。わかった?」
葉月の困り顔にかじかは笑いが止められず歯を見せた。
「アハハ、行っちゃおっかな」
「だから!もう……お前わざと言ってるだろ」
少し怒気を孕んだ声にかじかは苦笑する。
「ごめん……」
「……いいよ、もう。でも本当にさ、自分を大切にしなくちゃ駄目だよ」
「え?」
葉月は両手をポケットに突っ込むとかじかを見下ろした。
「かじかはどっか……背が高いとか色々気にしてるっぽいけどさ。そんなの男から見りゃあマイナスにはならないよ。女の子は皆、少しずつ素敵に変わっていくもんだし……前と比べたらお前は可愛くなった」
真面目な顔をして言う葉月にかじかの頬が熱くなる。
「フフ、そういう照れるとこも……可愛い。そういうの意識してなかったんだろ?」
「……うん」
「なら、これからは意識して……自分が魅力的だってこと覚えておくべき。かじかなら簡単に男落とせちゃうんだぜ?」
「そんなの……嘘だよ」
かじかが顔を上げると葉月は困った顔をして微笑んだ。




