タイトル未定2025/11/04 00:11
わいわい賑わう居酒屋の店内。各々が手にグラスを持ち楽しんでいる。
間に合わせで参加していた睦原かじかは隣に座っている友人メイを睨んだ。
「もう……こんなのごめんだからね」小さな声で叱咤するとメイが片手で拝む。
「わかってる。ごめんって」
テーブルの上には所狭しと食事が並べられている。かじかの前に座っている宮崎という男はこの中ではリーダーらしく皿に取り分けている。
「睦原さんもなにか取る?」ふと声をかけられて、かじかは首を横に振る。
「いいえ、ありがとうございます」
数時間前に少しだけ食事をしたせいで飲み物だけで精一杯だ。終電前には帰りたいところだけど、結構盛り上がっている彼らに水を差したくなくてタイミングを計っている。それにしても大学生というのはこうして酒が入るとこうも楽しそうなのか……。
かじかは断って席を立つとお手洗いに向かう。用を済ませて席に戻ろうとした時、店の入り口が開いて見たことのある男が入ってきた。
「遅いじゃん。葉月」そう言われて葉月優雨は整った顔で笑ってみせる。
大学でも有名な生徒。カメラで賞を取っていて、雑誌で見るような容姿のせいか女生徒から熱い視線を寄せられている。
かじかは紛れるように席に戻ると目の前に座った葉月に軽く会釈した。
「あー。こちら睦原さん。メイちゃんが連れてきてくれてね?」
「ども」葉月は軽く会釈してから隣に座った女と話し始める。
見た感じチャラい葉月は好意を持っているであろう隣の女に愛想笑いで話している、どうやら苦手のようだ。
かじかは目の前に置かれたビールのグラスを見つめて、とりあえずこれが空になったらお暇しよう、と一人頷いて手を伸ばした。
グラスは空になったものの、くだをまいた連中のせいで帰るチャンスを逃してしまい、やっとのことで会計が済むとフラフラした連中をタクシーに乗せて腕時計を見る。終電には間に合いそうだけど微妙だ。仕方なしに財布と相談してタクシーに乗ることに決めると隣に誰かが立った。
「睦原さんもタクシー?」葉月はかじかの顔を覗きこむ。
「あ、うん。終電は難しそうだし……」
「ああ……確かに。良かったら送ろうか?」
「え?」
「確か家って……」葉月はかじかの住所を知っていたらしく口にした。
「え?何で?」かじかが戸惑って一歩後ずさりすると葉月は両手を前で振った。
「あ。ごめん。引くよな……俺、配送のバイト少ししてて、睦原さんのとこに一度届けたことがあって。だから変な意味じゃないよ?」
「そうなんだ。ごめん……知らないのに引いちゃって」
「アハハ。俺、飲んでないからさ。車だから送るよ」
「いいのかな?」
「いいよ」
葉月の厚意に甘えて彼の車に乗り込むと家まで送ってもらうことにした。
「それにしても……結構気を使ってなかった?」
「うん?」
「ほら、帰るタイミング探してそうだったから」
「ああ……そうなんだけど、だめだった。殆どの人が初対面で何話していいかわかんないし……メイは即効で酔っちゃって楽しそうに彼氏とイチャイチャしてて」
「まあ仕方ない。うちのグループあんな感じだから。次誘われても断っていいから」
「うん……考えとく。無下にもしたくないんだ、せっかくの縁だし」
「へえ、古風な感じか。あ、そろそろ着く」
車がゆっくりと止まり、かじかは鞄を持つとドアを開いた。
「送ってもらってありがとう。初対面なのに……ごめんね」
「うん、別に。じゃあこれで」
葉月は車に乗り込むとすぐに行ってしまった。かじかは車を見送りながら玄関の鍵を開けると小さく息を吐く。
送り狼にならない人・・・初めてだ。前の彼氏は毎回家に入りたがって、それが原因で喧嘩して別れた。まあ、でもあのルックスなら女には困ってないんだろうし。
かじかはベットに突っ伏すとそのまま寝てしまった。




