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『傷の深さを知らない』

作者: チャットGPT

登場人物


秋津あきつ 真澄ますみ/24歳

・薄い顔立ちの、黒髪に切れ長の目

・大学を中退し、現在はとある非合法のデリバリー業を請け負っている

・感情が極端に乏しく、他人に興味を持たない

・言葉遣いは丁寧だが、暴力的な思考を内に抱えている

・“愛”や“信頼”といった概念を信じていない


嶋谷しまたに 総士そうし/28歳

・整った顔立ちだが、いつも不機嫌そうな目をしている

・元半グレ。現在は半ば表向きの輸入雑貨会社の代表

・身体に刺青あり。強引な性格で他人の境界を踏み越えることを厭わない

・真澄を“便利な存在”としか見ていない

・だが、時折その無関心さに苛立ちを隠せない


【1】


嶋谷は真澄のことを、ただの便利屋くらいにしか思っていなかった。


薬を運ばせる。不要な証拠を処理させる。欲望が溜まれば体を使わせる。

真澄はすべてに無反応で、まるで壊れかけた機械のように命令をこなしていた。


「お前、何か楽しいことあんの?」


嶋谷が聞いても、真澄は何も答えない。ただ煙草の煙を見つめている。


「死ぬまでの暇つぶしをしてるだけですから」


その言葉に含まれる毒は、なぜか嶋谷を苛立たせる。

“どうせ俺もその暇つぶしの一部なんだろう?”

そう問い詰めたくなるが、そんなことに意味がないとわかっている自分も腹立たしい。


セックスの最中ですら真澄は声をあげない。

喘ぎも、媚びも、痛みも出さない。

まるで、体だけを貸しているかのような、冷めきった人形。


「こっちが感じてねえみたいじゃねえかよ……クソが」


ベッドの上で、嶋谷は噛みつき、爪を立て、暴れるように突く。

それでも、真澄は息一つ乱さない。


どんなふうに傷つけても、壊れない。いや、壊れてるのかもしれない。


壊れているから、もう何をされても動じないのだ。



【2】


ある日、嶋谷の元に“掃除”の依頼が入った。

小さなモーテルの一室で、死体と、残されたバッグ。


「真澄、行ってこい。あそこ、血がひどい。処理液と替えの服、持ってけ」


「了解しました」


真澄は淡々と準備し、嶋谷にひとことも疑問を投げかけず、指示通りに現場へ向かう。

異臭、乾いた血、吐き気を誘う腐敗臭。

それらの中にいても、真澄の呼吸は一定のままだ。


彼はかつて、姉の死体を三日間、誰にも言えずに部屋で過ごした。

その時から、“死”というものは彼の中で“恐怖”ではなく“既知”になった。


「死んでるってだけで、なんでみんな騒ぐんだろうね」


一人ごちる声に、何の感情もなかった。



【3】


嶋谷はふと、ある晩に真澄を呼び出して言った。


「なあ、お前、俺のこと好きとか思ったことある?」


真澄は少しだけ首を傾けてから、答えた。


「ないですね。あなたは俺を利用しているだけでしょう。俺も、そうしてますし」


「じゃあ……せめて、他のやつとは違うって思ってくれたりしねぇの?」


「ありません。期待しないでください。俺は誰にも“特別”を感じたことがない」


まっすぐ、まるで刃物のように真っ直ぐな声。

嶋谷の心のどこかが、わずかにざわつく。


「クソ……!」


嶋谷はその夜、真澄の身体をむちゃくちゃに扱った。

吐かせ、泣かせようとした。

だが、真澄はやはり、目を閉じたまま、何も言わなかった。


「お前、ほんとに人間か?」


「さあ。どうでしょう。俺もたまに思います。生きてるつもりなだけじゃないかって」



【4】


ある夜、嶋谷はかつての仲間に裏切られ、倉庫に呼び出される。

銃声、怒号、走る血。

彼は命からがら逃げたが、足を撃たれていた。


そして向かった先は、真澄のアパートだった。


「……手当てして」


「……あなたが“助けて”って言うとは思いませんでした」


真澄は黙って、消毒液と針を取りにいき、何も言わずに治療を始めた。

嶋谷は痛みに顔を歪めながら、ぽつりとつぶやいた。


「お前さ……もし俺が死んだら、悲しんでくれんの?」


「いいえ」


真澄の声は静かだった。


「きっと、次の日には他の依頼主を見つけてます。あなたの名前も、三日で忘れるでしょう」


「……最低だな」


「あなたも」


しばらくして、嶋谷は不意に笑った。


「はは……ほんと、最低だな、俺ら」


「ですね」


二人は、暗い部屋でただ背を向け合って座っていた。



【5】


その後、嶋谷の右足は完全には戻らず、夜の現場からは一歩引いた。

それでも彼は真澄を呼び出し、無意味なセックスを求め、

無意味な会話を繰り返した。


「なあ……お前、本当に何も感じねえの?」


「……たぶん、感じてるんでしょうけど。どうせすぐに薄まるんです。全部、俺の中で」


「じゃあさ……最後に一個だけ、試していい?」


「はい」


嶋谷はポケットから、昔使っていたナイフを取り出す。

真澄の喉元に押し当て、静かに囁く。


「今、殺すって言ったら、どうする?」


「どうもしませんよ。もともと、死ぬ準備しかしてませんでしたから」


しばらくの沈黙。

そして嶋谷は、そのナイフを真澄の足元に落とし、吐き捨てるように言った。


「……やっぱ、つまんねえな。お前みたいなやつ」


真澄は拾い上げたナイフをまじまじと見つめ、口元だけで微笑んだ。


「俺も、あなたみたいな人間が一番嫌いです」


その笑みには、感情がなかった。

どこまでも空っぽで、どこまでも不快な、美しさだった。



【終章】


真澄はある日、嶋谷のもとを離れた。何の言葉もなく、何の未練も残さず。

その後、嶋谷はどこかの港町で、小さな店を開いたという噂がある。


真澄は依然として“生きている”。

ただし、それが“人間”であるかどうかは、誰にもわからない。


彼の足跡はすぐに消える。

触れた人間の記憶も、すぐに消える。


まるで、もともと存在しなかったかのように。



―終―


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