実力不足とパーティーから追放されましたが、実は俺のユニークスキル【ティンポラリー・ビックマン】は最強の支援スキルでした!
「お前のスキル、使えねぇよな」
リーダーがそう言いだしたのは、唐突ではなかったのだろう。
予兆には……ふとした時にも感じ取れる、皆が俺に向ける視線には、気付いていた。
「一時的に腕力を強化? 一時的に脚を速く? いや、それよりもさ、魔法の重要性が圧倒的優位な世の中だぜ? 魔法の威力を増やせないの? お前のそれって、戦闘のサポートって側面から見て、根本的な解決にならねぇんだよな。いてもいなくても同じなんだわ。分かるだろ?」
心を擦り減らして折れるには、十分な言葉……。
そうして、俺はパーティーを追い出された。ユニークスキル【ティンポラリー・ビックマン】――一定時間、対象の一部位を強化する、俺の能力。戦闘中に仲間を支援してきたつもりだったが、「微妙に便利」では、この世界では生き残れないらしい。
だが、世の中には奇妙な需要の巡りというものがあるようであった。
行く当てもなくさまよった俺は、ひょんなことから“猛者の集い”と名高い、屈強な男たちのパーティーに拾われた。
魔法の価値が断然に優位である時代ではあるが、しかし魔法を極めてしまえば、今度は肉体の強化を追求し始めるわけで。そういう理由で、彼らは俺の、肉体を強化するユニークスキルに目を付けたというわけだ。
彼らは強かった。あらゆる意味で、とても。戦闘力もそうだが、なにより生き方が豪快で、俺みたいなヤツにも気さくに接してくれた。
「ほら、飯食え!」
お試しにパーティーへ加入した、たった一つのクエストを終えたのちだった――出会って間もないというのに、ガルドは俺の肩をバンと叩きながら、懐事情がひもじく碌なものが食えていなかった俺へ、自分の皿にあった肉を気前よく、分けてくれた。
「え、いいのか?」
「バカ言え! 食えねぇヤツが強くなれるかよ!」
幼年みたいに無垢な、温かい彼の笑顔。
俺はその温かさに涙を浮かせながら礼を述べたが、彼はそれに苦笑いを浮かべ、「新人が縮こまってたら、こっちまで気分悪い! 楽しくやろうぜ!」と、 他の仲間たちも豪快に笑いながら俺のグラスに酒を注いでくれた。
このパーティーに入って、初めて俺は「仲間の優しさ」を感じた。
俺のユニークスキルは彼らの戦闘における思想と相性が良かった。俺は彼らのパーティーに、正式に参入した。
そして。
俺のユニークスキル、【ティンポラリー・ビックマン】の思わぬ真価を、豪快な笑いの絶えない仲間たちと過ごす時間の中で発見するのは、それから間もなくのことだった――。
◇
酒場の奥。
上位ランカーである猛者の集いの面々は、豪快に酒を飲みながら盛り上がっていた。リーダー格の男が、一人の男の肩を、親愛を込めた様子でバンバンと叩く。
「まったく、お前がいなきゃ始まらねぇ!」
「お前のおかげで俺たちは自信満々だ!」
「まったくだ! お前のスキルが無くっちゃあ!」
賑やかな笑い声と共に、グラスが鳴り響く、そんな中。
「おい、あれ……リュウじゃねぇか?」
酒場の入り口付近にいた元仲間の一人が、――俺を見つけて、呟いた。
「マジで? 誰かのパーティーに入ったのか?」
しかし、よく見てみれば、俺がいるのは最上位ランカーのパーティーの輪の中。
彼らは恐る恐る近づいてきた。以前と変わらぬ俺の姿、だが今は以前よりもきっと、堂々としているはずだ。猛者たちの一員としての自信、なにより、仲間に囲まれる安心感。それらが俺を支えていた。
元仲間たちは、俺たちの存在感に圧倒されながら、声をかけてきた。
「リュウ、お前がどうして、こんな上位の連中と……」
「ん? おうっ、こっちは誰だい?」
「ああ、俺の……元仲間たちさ」
「――ああ、成程な」
ガルドは納得を漏らすと、俺の肩に腕を回しニッと笑顔を浮かべて、元仲間たちに応じた。
「リュウの元パーティーか、礼を言うぜ。お前たちがリュウをフリーにしてくれたから、コイツと組むことができた! リュウのユニークスキルはまさに奇跡だぜ!! クエスト以外のところでも無双の力を引き出してくれるっつーんだからな!」
「何の話だ?」
疑問の声が上がると、猛者の集いの面々が、まるで待っていましたとばかりに語り出した。
「こいつのおかげで、俺たちの“戦い”はすべて勝ち戦さ!」
「夜の激闘も負け知らず!」
「女と過ごす時間が最高のものになったっ!」
「まったく最高な野郎だぜ、クエストでも、俺たちゃ負け知らずだしな!」
何の話か分からずにいる元仲間たちへ、ガルドは【ティンポラリー・ビックマン】の思わぬ真価を語ったのだった。
「リュウのユニークスキルで、俺たちのティンポはいつでも世界最強になれるのさ! こんな素晴らしい支援能力は他に無いっ、断言するぜ……!」
それを聞いて……呆気を浮かべたのち、元仲間たちは気を白けさせて、「くだらない」という情を露わにした。
しかし――次いで俺たちが語り出したことに、元仲間の表情は一変した。
「聞いてくれよリュウ、この前、あの宮廷でしか歌わないっていう伝説の《蒼月の歌姫》とお付き合いできる機会が得られたんだよ!」
「え゛ッ!?」
元リーダーの、衝撃に打ちのめされたような声が上がった。
「舞台の外で誰かと親しく話すことすら滅多にないっていう歌姫とだよ! あのような気高いお人がだよ、最後には『こんなの……知らなかった……』なんて言葉をくれて、本当によぅ……男冥利に尽きるってもんだぜ……!」
「…………」
「実は俺もなんだよ、ルルヤ嬢――ほら、クエストの受付の嬢とさ、良い仲になれたんだよ」
「え゛ッ!?」
「いやー自分だけに特別な愛情を向けてくれるってのは、やっぱいいものだよなー! それも、男としてさァ」
「…………」
「この前なんてな、王都の高級娼館に行ったんだよ。あそこの女たち、ちょっとやそっとじゃ驚かねぇんだけどよ……お前のスキルのおかげで、俺たちの“武器”はまさに伝説級! 十数人、同時に相手して。最初は笑ってた女たちが、次第に顔を赤らめて……いや、あれはまさに衝撃だったな」
「…………」
「あまりの凄さに、“次は指名料はいらない”と言われて再会の約束を書かされた名刺貰うわ、“品よく遊んでよね?”なんて言ってた店のマダムまで途中で参加してくるわ、それでも無双するティンポ力を発揮できるわで……、最終的に“これは仕事ではなかったから”とマダムに料金の寿ぎを貰うわ……夢のようだったぜ……。全部、お前のスキルが可能にした夢だ……」
「…………」
――元仲間たちは、表面上は「くだらない」という姿勢を一貫して見せ通していた。
しかし内心は揺れに揺れて穏やかでないことは、誰が一目しても露見していることだった。
やがて、俺に追放を告げたリーダーが、鼻息を漏らしながら俺へ冷たい言葉を向けていきた。
「フ、フン。――へぇ、まあ、よかったじゃねえか、リュウ。戦闘面では役に立たないにせよ、それ以外で、――下僕の尽くしみたいな貢献が、今のパーティーで出来て。お前、そういうヨイショの才能は、一流だったんだなァ」
それを聞いて、俺のパーティーに訪れた、一瞬の静寂。
そして――――。
次の瞬間に訪れたのは、彼らの、大爆笑が店に響く、明るい喧騒であった。
戸惑う元仲間たちに、ガルドが目尻に涙を浮かせながら語る。
「リュウが、戦闘面では、役に立たない……!? おいおい! ――瞬間的に肉体を強化できるユニークスキル……! 単純に脚力を数倍に増強できるだけでも圧倒的な能力だ、魔法を行使する位置さえ完全なら、戦闘において圧倒を実現できるっつーのは、誰でも始めに叩き込まれる、基礎の基礎だからなァ。それに加えて強化部位は自由、なにより、希少な『ユニークスキル』だぜ!? 【魔法封じ】を試みてくる上位モンスターにも特攻の能力だ、万が一の最悪も回避できる、まさに最強の“支援者”たる能力者だろう。お前ら、こいつを追い出したのか? バカだなぁ!」
豪快に笑う猛者たちを前に、彼らは力を無くし、言葉をも無くして、ただ突っ立っていることしかできなくなってしまった。
今更、未練はない。
今はこんな素敵な奴らと仲間をやれてる、暗く心に絡み付く卑屈な劣等感など、とっくに克服できていた。
とはいえ、人間、人生の影をまったく忘れるというほど、過去の執着を無かったことにできるということはない。
だから俺は、彼らを横目に、酒を小さく煽りながら。
「……後悔してるか?」
誰にも聞こえないほどの小さな声で、一言だけ、呟いた。
ここまで読んでくれてありがとう!
普段はこういった小説を書いてます。
令嬢リプカと六人の百合王子様。 ~妹との関係を巡る政略結婚のはずが……待っていたのは夜明けみたいに鮮やかな、夢に見た景色でした~
https://kakuyomu.jp/works/16816452220094031820
小説家になろうでもお読みいただけますが(https://ncode.syosetu.com/n5524gy/)現在はカクヨムで最新話を連載しております。