四章 十二丁 天罰覿面
その口内では、 獣眼 の男が頭部を押さえて身悶え。助けを求めるよう伸ばした腕はすでに筋組織が剥き出し、目玉や内臓が爛れ落ちる様は、見るに堪えぬほど無残である。
白銀の炎光に包まれた全身は灰の如く崩れ去り、命尽きる間際に口外から藻掻き出た男の指先は、ネイの額を僅かに掻いて霧消した。
灰も残さず絶命する光景を、打ち震えながら見詰めるネイの歯は小刻みに音を立て、脱出の意欲を喪失し呆然と座り込むネイを、龍は口内に招き入れた。
「だめッ!!!」
龍が口を閉ざす前に、御鈴姫は炎光を放つ五輪王御劔へ覆い被さった。
小さな身体で刀を包み込むよう抱き締めた事で、白龍は一斉に雄叫びを上げて身を怯ませ、内壁を食い破る二体の龍は空を降下しながら消滅した。
二体の龍が消え、炎光は弱まるが、五輪王御劔は尚も金属音を発しては激しく振動すると、再び暴威を振るい―――燃え立つ光は御鈴姫の身体を押し返した。
しかし、御鈴姫は宙に浮いた刀を胸に抱き寄せて抗い。白炎が触れた顔面や腕は肉を曝け出したが、すぐに新たな皮膚が生成され、破壊と再生を繰り返しながらも、どうにか命は永らえている。
だが徐々に炎光は御鈴姫の回復力を上回り、手首の骨を露出させた。
痛みに涙を流しながらも刀を手放さぬ御鈴姫を目にしたネイは、理性を失った様に暴れ、鎖を断ち切ろうと岩壁を何度も蹴り、接続部に力を加えた。
それでは埒があかず業を煮やし、後壁に足を掛け、体重と総力を注ぎ鎖を引いた。
腹部に一重に巻かれた鎖は傷口を圧迫し激痛を伴ったが、構わず全力を込めれば、あれほど 強靱 であった鉄杭は少し動きをみせ、僅かに伸びた鎖は高音を発して裂断した。
音に勘付いた龍はすぐさま強襲したが、ネイは手摺りから身を投げ出し、喰らい損ねた龍の頭部は岩壁に衝突して飛散する。
そのまま消え入るかに思えた龍は、瞬時に頭部を形成すると、階下へ飛び降りたネイを追った。
着地の際に鞴を破壊し、身体の至る所を打ち付け、鍛冶場道具を散乱させながらネイは何とか階下に降り立ったが、突如押し寄せた強烈な目眩と吐き気に倒れた。
身体が起こせず、地に伏せるネイの頭上から龍は襲い来たり、咄嗟に身を転がして回避すると総身の力を振り絞り、御鈴姫の元へ走った。
「…――来…ないで…ッ!!! 逃げてッ!!」
御鈴姫の叫びを聞き入れず、ネイは背後から喰い付く龍の牙を躱し、血の滲む傷口を押さえ、縺れる足元を立て直し尚も駆けた。
前方から、二体の龍が迫り来ようが足を止めず、長細い大口を開け胴を交差させて接近する龍の真下に身を滑らせて凌ぎ。板張りが大破した舞台を踏み締め、刀へ覆い被さる御鈴姫を引き離した。
五輪王御劔が御鈴姫の腕から放たれた瞬間、炎光は爆発的に四散して二人を包み込み――。
身体に纏わる白炎から奇怪にも熱は生じないが、忽ち皮膚は肉を晒し、龍に呑まれた者達が死に際にあれほど荒れ狂った理由を、ネイは痛切に思い知った。
雷が身を引き裂くような激痛が全身を駆け巡り、同時に流れ込む耳を劈く高音は聴覚を奪い。その苦痛は黒炎とはまるで異なる、浄化ともいえる抗い難いものであり、内部から着実に身体を遊離させてゆく。
頭を掻き毟りたい衝動を抑え込み、御鈴姫を炎光の外へ突き飛ばすと、ネイは白炎の中へ更に一歩を踏み出し――、五輪王御劔へ腕を伸ばした。
背後に御鈴姫が控え、間もなく果てる事を思えば、逃げるという選択はなく。
炎を放出させながら折損した断面を激しく打ち付け合う刀剣の柄を握った。
その瞬間、龍は揃って動きを止め、五輪王御劔に首を向けた。
御鈴姫が制止するよりも早く、六体の白龍は牙を露わに襲い掛かり、己に迫る危機を垣間見る余裕もなく。
ネイはただ痛みを受け入れ、祈るよう―――瞳を閉じた。
©️2025 嵬動新九
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