四章 十一丁 天罰覿面
己の配下が取り殺される光景を、愕然と見上げていた当代の男は、狂乱した様で御鈴姫に激しく詰め寄る。
「貴様…!! 何をしたッ!!?」
御鈴姫は物を発する気力もなく、血の溢れる額を押さえ、全身は凍えたように激しく震え上がっていた。半顔は血に染まり、涙と混じって滴り落ちる血液が着物を汚し、床には角座から切り落された角が、無残な姿で転がっている。
がたがたと腕が震える度、掌から血が脈打って流れ、恐ろしい怪物を見る目で御鈴姫は当代の男を見上げていた。
「文近様 !!!」
応じぬ御鈴姫に掴み掛かろうとする当代の背後へ龍が迫り、髭面の男は主君を突き飛ばし、我が身が餌食となった。
呑まれた男の有様は外表から透かし見え、皮膚は劫火に熱せられた様に肉を曝け出し、身体が蝕まれようと頭を抱えて暴れる姿は凄惨を極めた。
そして瞬時に骨までも消滅する光景を、当代の男は腰を抜かしたまま声も発せず通し見ていた。
髭面の男を殺めた白龍は、決死に出口へ逃げる男達を見付けると、目近である御鈴姫らを襲わず其方へ首を伸ばす。
二人の男が出口に縋り付き、騒動を聞きつけ大扉を開いた門番ごと、龍は唐戸を破壊した。
「ほぉおぉおお !!! やはり鬼打ちは格別じゃて !! これが五輪王の―――ッ」
「来いッ!!」
老人は堂内を飛翔する八体の龍を 仰望 し、足腰が立たず怖気ながらも浮かれ騒ぎ。その側で竦み上がっていた男は、老人の腕を引っ掴んで立たせると、岩壁の戸口に飛び込んだ。
寸分の差もなく、龍は老人らが逃走した戸口を喰い千切った。
逃げ惑う者達を総じて仕留めた八体の白龍は、持て余した様子で建物を咬み砕き、龍の一体が石像の頭上となる天井を食い破った。
気体の移った瓦礫は、真下に位置するネイと黒装束ら二人に降り掛かり、それらを躱そうと動いた一人が、別の個体の関心を引いた。
ネイの左側に位置するその男は真っ先に逃亡し、階下へ飛び降りようと手摺りに乗り出したところを容赦なく丸呑みにされた。
落下した瓦礫屑が頭部に打ち当たり、ネイは遠のく意識を必死に保ち。辺りに散らばる木片を手元へ蹴り飛ばして拾い上げ、木片を昇華させる白色の気体で手鎖を溶かそうと試みる。しかし、炎を模したその気体からは熱を感じず、鎖を弱らせるには至らなかった。
木片を捨て去り、力業で拘束具を外そうと逸るネイの傍で、 獣眼 の男は色を失い立ち尽くしていた。
鬣と髭を優美に波打たせ、宙を旋回する四体の龍を、手摺りに指を添えてぼうと見下し、――死に抗う気配すらみせぬ男を、龍は側面から呑み込んだ。
男に喰らい付いた龍の胴体が身体を掠め、その風圧はネイを岩壁に叩き付けた。
「…うっ!!」
その衝撃で 鉄鎖 が一部外れ、胴体の鎖が弛んだ機を逃さず左手を自由にしようと力を込める。が、鉄製の腕輪は手首にしっかり嵌まり込み、胴と手首を繋ぐ鉄杭は力を加えようと深く岩壁に打ち込まれているため微動だにしなかった。
獣眼の男を襲った龍は、格好の的であるネイを取り逃す筈もなく、空を緩やかに曲がり、獲物を喰らおうと大口を開いた。
©️2025 嵬動新九
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