四章 七丁 別つ身の再逢
鞘から解放された刃は、中心辺りから真っ二つに折損し、その半身である両刃の切先は、台座の上に丁寧に祀られている。
刀を事細かに調べようなど考えも付かなかった御鈴姫は、五輪王御劔が欠損している事実を知る由もなく。武器としての役割を失った無用の 長物 に、男達が何故そこまで価値を見出すのか、まるで理解が及ばなかった。
「我等の代で乙外娃から五輪王御剣の半身を奪い取ることが叶おうとは…!! 我等こそ、この刀を保つ定めなのだろう! お前を生かしていた甲斐があった…!」
この城の当代であろう男は、損壊した五輪王御劔を台座へ置き、悦に浸った様子で 摘巻 の柄を摩る。柄部分を台座へ戻した事で、分かたれた刀身は台の上で重なり、男の手によって再会を果たした。
そして男は、再び御鈴姫へ向き直ると、己の目的を漸く口にする。
「我等が預かりし半身と、乙外娃が抱へたるこの半身。 これを在るべき姿へ戻し、五輪王御剣を我等に服わせよ」
何の前触れもなく五輪王御劔を修復するよう強いられるが、男の要求にどう応えればよいのか見当も付かない少女はただ狼狽えた。
「え……。そんな…こと……、……私…出来ません…」
御鈴姫の弱々しく発した一言に、男は突如歯を見せて笑い出した。
「はは…はははっ!!! ――お前達! この小鬼に何も教えておらんのか!」
己の配下達へ当代の男は笑い散らして呼び掛けるが、黒装束達は感情を持たぬ人形の様に、その場に立て通した。
「貴様は乙外娃と祖の同じ、無道の血を継ぐ鬼であろうが! だから生かされ封じられてきた。 その鬼が出来ぬとほざくとは…」
男は笑い疲れると、鬼にあるまじき御鈴姫の言動に飽きが来たのか、深い溜め息を漏らした。
「え…、無道って…」
悪鬼無道の伝説を思い出し、その血に連なると明かされた御鈴姫は衝撃を受ける。が、男は動揺を隠しきれぬ少女に構わず、再び台座に視線を戻し、つらつらと語りを続けた。
「伝承では…鬼打ちの刀は主と認めた者の御前のみ、その姿を蘇らせ平伏する。 五輪王御剣が依然成り返らぬならば、今世に至りてさへも未だ…使い手が現れてはいないという事」
不快だと言わんがばかりの様子で、五輪王御劔を見下ろしていた男は祭壇から降り、御鈴姫の元へ歩んだ。
「無道の刀であるこの五輪王御剣を奪い、乙外娃は否でも従わせこれを振るうていた。 その乙外娃に出来たのだ、お前に叶わぬ道理はない」
言いながら男は御鈴姫の腕を掴むと、立ち上がり損ねた少女の身体を引き摺り、台座の前に押しやった。
反射的に手を付き、少女は台座に身を打ち付ける事はなかったが、台の上には分断した五輪王御劔が哀れな姿で横たわり、目前に鋭利な刃物が飛び込んだ恐怖で御鈴姫は台座から離れた。
「さぁやれ!五輪王御剣を蘇らせよ」
まごつく少女相手に男は威圧を掛け、怖じ恐れる御鈴姫は刀と男を交互に見詰める。
相手が納得する手段に心当たりがない御鈴姫は、身体が金縛りにあった様にその場を動けず。不毛な時が過ぎゆく最中、階上の石壁に設えられた開き戸が不意に開扉し、何者かが現れた。
©️2025 嵬動新九
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