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落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
第四章 五輪王御劔 【黎明篇】

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四章 四丁  うるわしき顕世


  状景 (じょうけい)がそこで途切れてしまったのは、(ひたい)を壁から離してしまったのが理由である。が、それは御鈴姫(みすず)が望んだ事ではなかった。



 格子(こうし)扉が(きし)む音を立てながら独りでに開放し、その気配に驚いたあまりに御鈴姫の意識は暗鬱(あんうつ)な室内へと戻された。



『え………?』


 格子の組まれた扉は半分ほど開け放たれ、しんとその場で静止している。



 下女が鍵をかけ忘れた所為(せい)かと考えたが、格子扉や表戸(おもてど)のどちらも(まき)がしっかり施錠(せじょう)する様子を目の前で捉えた記憶が確かにあった。


ならば槙が戻って来たのだと、御鈴姫は壁に手を付けたまま扉を見詰めていたが、一向に人の気配や現れる者はなく。――少し迷った後、おそるおそる忍び足で戸口に近付いてみた。



 すると予想だに尽きず、格子扉ばかりか表戸も半分開いている。



 表戸は、御鈴姫が通り抜けるに丁度良い幅で引かれ、その隙間から覗く景色は暗々裏(あんあんり)とした坑道が続いていた。



 透かし見えた眺めと同一の現状に御鈴姫は硬直し、生唾(なまつば)を呑み込んだ。



 何故扉が全て開いているのか――。

待ち望んでいたまたとない好機の筈だが、御鈴姫は怯えた様子でそろそろと戸に近付き、外を覗き込む。



『誰も…いない…?』


 外に見張りがいる事を見知っていた為、出来るだけ音を立てず慎重に探りを入れたのだが、外には誰一人待ち受けていなかった。


自分が見た壁の向こう側の情景は幻だったのかと、更に戸口から身を乗り出し、きょろきょろ辺りを見回してみる。しかし、槙にかねてより言い聞かされていた事柄を思い出し、さっと青ざめた御鈴姫は慌てて座敷の中に飛び退いた。



 下界には瘴気(しょうき)(あふ)れ、それを浴びれば 一溜 (ひとたまり)も無いのだと、今も信じ続ける無垢(むく)な少女は外へ出る事を躊躇(ためら)い、二の足を踏んでしまう。だが、どうしても外への夢が捨てきれず、御鈴姫は意を決して小屋から(うさぎ)のように飛び出した。



 (しばら)く身体を丸め、息を止めて構えていたが、自身に何の変化も起こらない事を知り、次第に緊張を解いた。



『……私…っ、だいじょうぶーっ!!』


 諸手(もろて)を挙げて大喜びで跳び跳ね、御鈴姫は小屋の様相や周囲すら(ろく)に確認せず、浮き立つまま坑道を駆け上がった。



 坑道の路は、記憶にあった通りの路程(ろてい)と幅で、壁に取り付けられた 燭台 (しょくだい)蝋燭(ろうそく)は白い炎を灯し、明々と坑道を照らしている。


既視(きし)を得て、それが自信となる御鈴姫はひと思いに坑道を行き、その勢いのまま――現れた前方の戸に激突した。



 扉を擦り抜けられると思い込んでいた御鈴姫はころんと後ろへ転び、目をぱちくりとさせる。


角が衝撃を緩和した為、大した痛みは生じなかったが、頭蓋(ずがい)にじんとした鈍い感覚が伝い、それが高ぶる気を鎮める主因となった。

戸はやはり自力で開くものなのだと学び、木製の開き戸を丁寧に押し引きすると、施錠されていない扉は抵抗なく、(いびつ)な音を立てて内側に開いた。



 開き戸を抜けた先は渡り廊下(ろうか)に繋がっており、中庭を複雑に入り組む廊下からは、宵闇(よいやみ)に浮かぶ月が庭を通して観賞でき、夕刻とはまた異なる奥ゆかしさを感じられる。


初めて味わう開放感と屋外の景色に御鈴姫はすっかり魅せられ、自分が座敷を抜け出した事も失念した様子で、渡廊(わたろう)の格子手摺(てす)りの間から風景を楽しんだ。



 見事に整えられた手入れを(ろう)する松を、手摺りの隙間に顔をはめ込んで観覧していると、――ふと視線を感じ、遠方の渡り廊下へ目線が動いた。





©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止

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