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落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
第三章 此方彼方 【黎明篇】

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三章 十五丁 不捨の契り


 だが青年は半分以下に短く折れた刀身を強引に 斬瞑天月 (ざんめいてんげつ)の刃へ()ませ、致命(ちめい)の一撃を止めた。


そしてあろう事か引き(ぎわ)を捨て、相手の刃を折れた刀身と(つば)でなぞり、真っ向からネイへ立ち掛かる。その狙いはネイの腕であり、斬瞑天月を持つ腕を離させるのが目的なのだろう。



 (はがね)と鋼が(こす)れ、盛大に火花が飛び散り。刀の軌道(きどう)()らされ、(あまつさ)え刀身をなぞって向かって来る青年を殺めようとネイは刃を寝かせた。



 破砕(はさい)した刀では、次のネイの攻撃をいなす事は至難(しなん)であり、敗北が確実であるにも関わらず青年は尚もネイに立ち向かい、火花を散らし折れた刀をかませ追い撃つ。



その真っ直ぐな瞳は、相手を憎しむ闘志も、死への怖れすら一切ない――如何(いか)な結末になろうとも己の腕のみを信ずる、剣聖に宿る覚悟に満ちていた。




 ――その覚悟が、ネイの脳裏に満ちる憎しみの影を一瞬だが潜ませた。




 青年の瞳を覗き見て、目に生気を宿したネイは、相手の喉元目掛ける剣戟(けんげき)をとどまり、斬瞑天月を地面へ突き立てた。



 深々と刀身を地に埋めた刀は、けたたましい爆音を(とどろ)かせ、木々を越えるほどの猛烈な黒炎を放出させた。


炎は高々と立ち昇り、歪に裂けては衰え、また(ほとばし)るを繰り返し、森林に飛び火した火焔は、地獄の業火の如く(はげ)しく木々を焼いてゆく。



  神色自若 (しんしょくじじゃく)として青年は炎から後退(こうたい)し、地に屹立(きつりつ)する斬瞑天月を息を凝らし見詰める。




 純黒の刃から生ずる黒炎は激しく燃え立ち、揺らいで弾け、徐々に勢いを落とし――、やがて一体の鬼の姿を形作った。




  甲冑 (かっちゅう)を身に纏うその鬼は、炎が揺れる度に形を失うが、再び幾度も体を成し、一同に敵意を表わさず静かに刀の傍らに佇む。(かぶと)から二本の角を覗かせ、面頬(めんぼお)に秘されたその眼差しは、青年のみを一心に見据えている。




 鬼の顕現(けんげん)に、黒装束たちは寄り集まってまごついていたが、石段を上るネイの姿を炎から透かし見た事で我に返った。



 ネイは少女と犬神を抱え、悔やむよう一度青年を振り返ったが、すぐに大門へ続く石階段を上ってゆく。



 逃がすまいと男達はその背を追った。が、刀身から湧き上がる黒炎は地を這い、石段へ足を掛けた男達の身体を燃え上がらせた。


咄嗟(とっさ)に石階段から身を退(しりぞ)いた者は猛火(もうか)を逃れたが、全身を駆け巡る炎の痛みと熱に二人の男は苦しみ(もだ)える。



 黒炎は大門への行く手を阻むように石階段を囲い。荒波の如く燃え盛り、一同を呑み込まんと高く高く上がる炎は、男達を絶望の(ふち)へ落とした。



()づるなッ追え !!」


 炎から死に物狂いで逃れる配下達を、頭目は大喝(だいかつ)し追跡を命じたが、男達は(わめ)き叫び命令を拒絶した。


 燃え(かす)となった男達と、死への恐怖で(すく)み上がる己の配下に苛立ちを募らせ歯牙を剥く頭目の顔付きは、(にわか)に歓喜に歪んだ。 真直 (しんちょう)に突き立つ斬瞑天月を見詰めるその眼光は、手に入れたいと渇望するものが愈々(いよいよ)掌中に落ちる、興奮と高揚で満ちている。



 刀に宿り、その背後に浮かび上がる鬼は、変わらず青年のみをじっと見遣(みや)り、透徹(とうてつ)する炎の身体をたゆらせる。


 面相すら定かでない鬼の視線を青年は受け止め、見伏(みふ)すかの様に眼を細めた。




 黒炎が周囲を遮りながら火移(ひうつ)り、退路を 侵蝕 (しんしょく)してゆく中。互いの存在のみを正面に見据え―――二者は動かず視線を交え続けた。







©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止

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