表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
第三章 此方彼方   ―黎明篇―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/122

三章 十六丁 尽る命火




 石段の上に血が一滴、また一滴と(したた)る。


 ネイが一歩足掛(あしが)け、段を上る度に混じりあった二人の血は、石肌へ赤い染みを付けた。



 少女の傷は合羽(みの)で止血されたが、たっぷりと血液を吸い込んだ布は動く度に血の(しずく)を落とし、一刻を争う事態だが、これ以上の治療が許される猶予はなく。

己の腹部から(にじ)み流れる出血を後回しにしてまで、ネイは逃亡を急いでいた。




 ――己の処置をしなかったのは、もう意味を成さないからともいえる。



 ネイの身体は(ひび)割れが加速し、炭が()ぜる音が体中から()れ出していた。

頬を割る亀裂(きれつ)は、風が吹き地を踏み締める度に灰が零れ、また裂ける。


己の命が朽ちゆく感覚を抱きながら朦朧(もうろう)とする意識の中で、少女の命だけは何としても救いたい――その渦巻く感情が四肢に力を与え、少女を腕に抱きしめ、犬神を肩に負い、今にも地に(たお)れ込みそうな身体を気力で突き動かした。





 尽き果てる今際(いまわ)の身体で、千を超える石階段を上り詰め、ネイは大門への到達を果たした。


 聞き及んだ通り大門は厳重に閉じられ、四脚門(しきゃくもん)という六本の柱で支えられた山門は、神輿(みこし)を担いでも優に通り抜けられるほど鴻大(こうだい)である。大門に繋がる外壁すら簡単に這い上れる高さではなく、反りがあまりない緩やかな瓦屋根は上空を遮るほど広壮(こうそう)であった。


人が立ち入らないと云われていた(はず)だが大門は未だ綺麗で、 龍神寺 (りゅうじんてら)への礼拝を拒み、行く手を阻むよう 聳立 (しょうりつ)する様は衰えを感じず。まるで時の流れを置き去りにしたかのような、希代(きたい)な雰囲気が漂っていた。




 ネイは大門を(かん)せず、迷わずその扉を押した。

しかし、固く閉ざされた大門は、いくら力を注ごうとも(きし)めく気配すらない。



「開けて…くれ…!頼む…!」


 大声を張り上げたつもりであったが声は(かす)れ。自身の脚で立つ事はもう叶わず、門に身体を預けネイは戸を叩いた。逃げおおせる場所はここ以外なく、例え頼りがあろうとも歩く力は(わず)かも残っていなかった。



「頼む……っ誰か…!この子を…助けて……っ!」


 中に居る者があるのか定かではないが、ここに(すが)る他なくネイは叫び続けた。



扉を叩く度に掌からは灰が散り、ネイの決死の叫びにも大門は応えず。ただ無情に、命消えゆく二人を見下ろしているかのようだ。



 不意にネイの頬に冷えた指先が接した。


 頬の亀裂に触れる小さな手を咄嗟(とっさ)に握り、ネイは少女を見下ろした。

意識を取り戻した少女は、微かに瞼を開きネイを静かに見詰めている。



「……私を…おいて……逃げて…」


 弱々しく発した少女の言葉が受け入れられず、ネイは大きく首を振った。その拍子に涙が二滴零れ、再び感情をぶつけるよう大門を叩いた。



「あなたを…巻き込んで……ごめん…なさい……」


 ネイは首を振り、尚も大門を叩き続ける。



「…生…きて…………いき………」


 この言葉が少女の精一杯であった。

全身の力は抜け、涙を流して瞳を閉じた少女の呼吸は浅くなってゆく。



 ネイは少女を抱きしめ、冷え切った体温を感じ絶望した。

涙は頬を幾度も流れ落ち、溢れる感情を抑えきれず、弾かれたように狂乱して扉を叩いた。



「頼む…!! 開けてくれッ!! お願いだ…ッ!! ……ッ救いを…!! 一度でいい…!! …っ一度ぐらい…!! 救いを…ッ!!」


 無意識に心の(たけ)を叫び、嗚咽(おえつ)を漏らす。

血を吐き出し、全身の亀裂が深まり身を裂こうとも、(ひたい)を大門に押し付け、打ち叩いた。




 不意に額への圧が軽くなり、ネイは動きを止めた。



 鈍い音を立てながら大門はゆっくりと、両扉を内側へ開き。空を覆っていた門の切れ間からは、朝の木漏れ日のような淡い光が差し込んだ。



独りでに開いた大門の先には寺院があり、社殿に向かって連立する鮮やかな紅葉が風雅に参道を飾っている――その中心に、木箱を持つ美しい女が立っていた。





©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ