三章 五丁 鬼違い
今紫の羽織を着た青年、白影と。金色の髪をもつ青年、ネイは。海辺の古跡を離れ三里ほど歩いたある村里を訪れていた。
森を往来して物資を運び生活するのは不便であり、ネイが自身の足で歩けるまで回復したこの機会に、白影は人里に連れ出す事を決めた。
いずれは自分の力で国々を渡り生きねばならぬ苦労を思うと、なるべく早く日ノ本の文化に慣れ、言葉や教養を学ばねばならないと考えたからである。
白影の後ろを素直について歩くネイは、意外にも好奇心が旺盛な性格のようで、きょろきょろと辺りを見回し興味を惹かれるものがあれば、積極的に足を止める事もあった。
気が長い白影は、その度に立ち止まり手取り足取り教えてやるのだが、普段何気なく目にするものでさえ、ネイは感動を表わす事が多く。次第に白影も影響を受け、自国の文化を学び直す感覚を楽しめていた。
これほど向学心があれば、すぐにこの国に馴染む事が出来そうだと考えながら、ネイが後ろをちゃんと付いて来ているか白影は確認のため一度振り返った。
ネイは歩みを止めていないが、爛々とした瞳で周囲を瞠り、脇道にある神社に釘付けとなる。そんなネイの衣装を見て、白影はつい眉を下げた。
異国の血濡れの服で連れ歩く訳にはゆかず、予め買い与えた古着に着替えさせたのは良いが、手足の首が覗いてしまっている。
店で一番大きいものを選んだ筈だが、体格の合わぬ何とも不格好な形で歩かせてしまうのは少々気が咎めた。しかし、当の本人は服装よりも訪れた村を観察するのに夢中である。
長躯である白影も、着物は呉服屋で特別に仕立てており、ネイの体格に合う着物を手に入れるにも、時は些か掛かるが呉服屋に立ち寄るほかないだろう。
他にも諸々、旅に必要なものを揃える為にこれから忙しくなると、白影は今後の計画をあれこれ練った。
そんな二人の前を、不意に棒手振と呼ばれる行商人が横切った。
棒の両先にぶら下がる桶を揺らし、振売りは機嫌良く品物を売り歩いていたが突然立ち止まり、口遊んでいた歌をひゅっと喉の奥に引っ込めた。
そして、白影の後ろを歩く人物を凝視し、次第に目玉を口よりも大きく見開くと、野菜が入った桶をかなぐり捨て、叫び声を上げて村の奥へ逃げ出した。
『 お…鬼だーーッ!! 鬼が来たぞーーーッ!!! 』
振売りの叫び声で、何事かと暖簾を除けて通りへ顔を出した商人達はネイの姿を見るや悲鳴を上げ、店の奥へと隠れてしまう。
『 ひぃいいっ!!! 』
通りを歩いていた村人達も、周囲の動揺に看過され騒ぎ立ち。子を連れた親は血相を変え、即座に我が子を連れて走り去り、屋台の準備をしていた商人達も転びに転び、全員なりふり構わず逃げ狂った。
人が姿を消した通りには静寂が訪れ、白影とネイは呆気に取られ立ち尽くした。
『 しまった…。わしは鬼など見慣るる故、間違わぬが……ふむ… 』
逃げ惑う村人を見詰め唖然と突っ立つネイの顔を、白影は今一度眺めながら、この男の何処が人を喰らう恐ろしい鬼に見えるのかと黙考した。が、それどころではないとすぐ立ち返り、今紫の羽織を脱ぎネイの頭へ被せた。
©️2025 嵬動新九
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