表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
第三章 此方彼方 【黎明篇】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/136

三章 一丁  夕景に引き合ひて



 雲を過ぎゆく夕光は紫へ色を変え、茜空(あかねぞら)交錯(こうさく)した夕焼けの空は美しく何処までも広がっていた。


 しかし地を覆う森林は黄昏(たそがれ)の入り日を(さえぎ)り、(わず)かな夕刻の光のみが森の木々や蘚苔(せんたい)を赤く染め、樹林によって空と地の境界は分けられている。



 薄暗い夕陰(ゆうかげ)の森には、()しくも打ち崩れた木片が散在し、幾年の月日が経過したのか、その木片には(キノコ)(こけ)、カビが至る所に生え腐蝕を促しており。それらの瓦礫屑(がれきくず)苔生(こけむ)した石塊(いしくれ)を踏まぬよう、青年はしっかりとした足取りで逢魔(おうま)が時の刻を進む。




 行き先に散らばる砕片(さいへん)は数を増やし、おのずから青年の目前には、朽ち果てた巨大な神門(しんもん)が現れた。



 (かつ)て、魔除けを象徴とする朱色(しゅいろ)で色取られていたその神門は、傾いた左扉のみ(かす)かに色を残し、巻き付く(つた)と地から(はい)い上る苔が、今は全体を飾っている。降雨(こうう)(しの)ぐ屋根は崩れているが、威厳を失わず地に豎立(じゅりつ)する両扉は、この先にある社殿を護る役割を、未だ堅実に果たしているようだ。



 神門へ歩む青年の頬を風が(かす)め、羽音も立てず一羽の黒鳥が横切った事で青年は不意に足を止めた。



 拳大ほどの大きさしかない小鳥は、短い翼をはためかせ。傾いた低木が自由に、そして無造作に伸ばした枝を(ちょう)のように器用に(かわ)す。


(くちばし)や足、全身を黒に着飾り、(すずめ)にも(カラス)の様にも見えるその鳥は――屋根が半壊した神門に止まると、門の上で小刻みに跳ね、身体の向きを変えた。



 嘴を此方(こちら)へ向ける小鳥を見上げ、初めて目にする小禽(しょうきん)を物珍しく青年は一時眺めていたが。やがて歩み出し、朽ちて塗装の()せた右扉をそっと押した。


門は僅かに動き、扉の上部から(くさ)れた木片が剥がれ、ぱらぱらと 今紫(いまむらさき)の羽織へ落ちるが、青年は構わず。更に力を込め(きし)む門を押し開ける。



 神門の片扉が青年の頭ほど開いたと同時に鳥は飛び立ち。自在に空を飛べるにも関わらず、わざわざ青年が押し開いた門を潜り抜けた。



 青年は鳥を目で追っていたが、すぐに力を入れ直し、身体が擦り抜けられる幅まで広げた門を抜け周囲を見渡した。



 境内(けいだい)は、更に植物の浸食が進んでおり、好き勝手に伸ばした雑草や木々に覆われ、何処が参道であったのか最早(もはや)わからない。



 水が流れる音に導かれ、青年が其方へ目を向けると、手水鉢(ちょうずばち)の縁に黒鳥はいた。


山肌の岩の裂け目から流れ出る湧き水を溜める為に、石をくり抜いて造られた手水鉢は、経年を得て水に削られ器としての形を失い、苔生した場所を延々水が滴り落ちている。



 黒鳥は青年の姿を認めると、今度は轆轤木(エゴノキ)の枝へ飛び移った。



 青年は草を軽く脇に退けながら、不可思議なものを見る面持ちで黒鳥の止まる木へ歩むが、青年が近付く度に小鳥は奥へ奥へと遠のき。他の木々へ飛び移る。



 黒鳥の向かう先は本殿であろうか。

青年には鳥が自分を導いているという予感があり、小さな翼で懸命に羽ばたくこの鳥に、己の行く先を(ゆだ)ねる事にした。



 森と同化した参道には、崩れ落ちて形を失った石灯籠(いしどうろう)殿(でん)を思わせる残骸が至る所にあり、それらを脇目にも振らず境内の奥へ進めば、やがて草藪(くさやぶ)は落ち着き、風は草萊(そうらい)の青々とした匂いから塩の香りへと移り変わる。


 頬を撫でる潮風を感じ、ここは海の近くであった事を青年は思い出し、無意識に顔を上げた。



 少し高所となった青年の位置からは海が見渡せ、浅瀬には鳥居が地平線へ向かって立ち、水面に浮かぶ鳥居を通して海を覗けば別世界に(いざな)われるような 名状(めいじょう)し難い感覚を覚える。


既に夕日は海に沈み、光だけが幾重にも層を成し、名残を残すように空を照らしており、崩れ落ちた本殿が海を半分(おお)い隠し朽ち果ててさえいなければ、まさに完璧な一場の絶景であっただろう。




 夕日から視線を外し、青年は社殿へと向かった。


 本殿の敷地内は石を利用して参道を整えている為、(わずら)わしく感じる程には雑草が茂っていない。御社殿(ごしゃでん)の屋根は扉を打ち壊して崩れ、神様が祀られている本殿の内部を(さら)け出してしまっている。


 変わり果てた空虚なその本殿へ、青年が早々と歩を進めるのは。参拝の為でも、本殿の崩壊に心を痛めたからでもなかった。



 金色の長い髪を垂らし、崩れた本殿の瓦礫(がれき)に寄りかかる男の姿を見付けたのである。




©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ