二章 四十三丁 開かずの大門
辺りに漂う異様な静けさの中で、配下を斬り殺した男は、血の付着した刃を拭いもせずに、地に屈む碧眼の男へ歩を進めた。
下卑た笑みを浮かべ、徐々に迫り来る頭目を睨み付け、碧眼の男は衝動的に自身の腰に帯びる刀を握った。
「鬼宿りを…ッ貴様……ッ!!」
男が刀に触れた途端、頭目は素早く後方へ飛び退いた。
朱鍔の刀を前にして、優越に浸る醜い笑みは見る影もなく消え失せ。取り乱し響めく黒装束達もまた、碧眼の男から遠ざかり、縋るような眼差しで頭目の男へ指示を仰いだ。
「やめておけ…ッわからんのか!次で貴様は果てる」
平静を装ってはいるが頭目の男は脂汗を流し、脅すよう放った言葉には動揺が滲み出ている。しかし威勢で負けまいと、続けざまに碧眼の男へ言い放った。
「もう遅いがな…!今更手放したとて」
どれだけ恫喝されようとも、碧眼の男は固い意志で刀を握り、構える。
揺るがぬ男に苛立った頭目は荒々しく刃の血を拭い。朱鍔の刀を抜く前に、男の息の根を止めようと、刀身を上へ高波のように構えた。
殺意を新たにした相手を見据え、迎え撃つとばかりに屈んだ姿勢のまま、碧眼の男は柄を握る指先に力を込めた。
両者、気焔昂ぶらせ。
生死を賭けた血戦が起こるかに思われた。――が、飛び掛かろうと動作した頭目の身体は立ち返り、背後の茂みを歩く足音を振り返った。
「貴様……何故ここに」
頭目は倦ねるよう呟き、林中から現われた男を睥睨した。
単身で現われた黒髪の青年は、目を細め頭目の男を一瞥すると、次に深手を負って膝を付く碧眼の男へ視線を向けた。
「白影…!」
碧眼の男は、予期せぬ再会を果たした驚きで、無意識に青年の名を呼んだ。
しかし、白影と呼ばれた青年は、碧眼の男を探るように見定め。言葉を一切発さずに、冷たい眼差しで男と黒装束たちを無言で見詰め続ける。
男が知る過去の青年は、優雅に 今紫 の羽織を着熟していたが、今は深緑の羽織に装いを変え、全身を暗色に着合わせており。装束を召し替えた為に、心証が食い違うのだと男は思い至ったが、記憶に残る青年の穏やかな面立ちは、幻であったかのように険しく陰りのあるものに変わり果てていた。
嘗て共に旅路を歩んだ友の姿は、別人と見紛うほどに殺伐としている。
友の変貌に碧眼の男は動じ、此方を鋭く見詰める青年から意識を逸らせず、刀を握る指先が思わず緩んだ。
第二章 完
次章へ継ぐ――
©️2025 嵬動新九
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二章はとても長いお話となりましたが、お付き合いくださり有難う御座いました。
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