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落貌ノ鬼『劔刀、いく世へ消えにし命さえ』  作者: 嵬動新九
第二章 燠   ―黎明篇―

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二章 二十八丁 触れ


 一歩も引かぬと、姿勢良く胸を張る足軽(あしがる)へ、碧眼(へきがん)の男は唐突に(こぶし)を突き出した。


 暴行を受けると錯覚した足軽は、左足を一歩後ろへ引いたが、男が差し出した拳は足軽の目前で停止しており、何かを握っているように思える。

何の真似(まね)だと睨む足軽へ、碧眼の男は深く頷き。どれだけ邪険に()め付けられようが、粘り強く拳を突き出し相手の胸へ押し当てた。


 (はた)から見れば理解が及ばぬ光景だが、男の掌からは白い紙の端が覗いており、恐らく何かを包む和紙である。その中身は金か何かかと、農民たちは興味をそそられた様子で頭を(ひね)らせた。


 だが金であれば、足軽はすでに男の腕から包みを奪っている筈である。加えて、包みを差し出されてから、足軽の顔は次第に困惑と不安を宿す面持ちへ変化していった。



 (らち)が明かないと考えたのか、道を塞いでいた足軽の連れが、不意に仲間の槍をやんわりと取り上げた。


「まぁこの場は俺達が引き受けるからー…、休んだらどうだ?」


 槍を取り上げた足軽の一言で、他の足軽も持ち場を離れ、碧眼の男の掌から小さな包み紙を受け取った。そして、もめ事の中心である足軽の腕を強引に引っ張り、二人掛りで抵抗する男を村へ引き()って行く。


遠ざかる碧眼の男へまだ何か言いたげに口を魚のように動かす足軽は、やがて諦めた様子で村へと消えて行った。




 まさかこれ程簡単に、足軽が 撤収 (てっしゅう)するとは思わず呆然と佇む群集たちへ、残された足軽の一人が小声で(ささや)いた。


「もう十分だ、通れ」


 人に迷惑を掛けたにしては軽快な口調で足軽は言い、道を空けた。


 農民達は呆れた表情でそれぞれ顔を見合わせたが、すぐに地面に置いてあった農具や荷物を拾い上げ、口々に足軽へ文句を言いながら、各々の住処(すみか)へ帰って行った。


悪態を吐かれようと、足軽は口の端に笑みを浮かべており、その充実した様は、十分に金を巻き上げる事が出来た充足からくるものなのだろう。




 村への道が開通した事で、賊の一味も不快な音を立てる荷車を押して、村へと進み始めた。


 親玉へ声を掛けようとする漁太の肩を、碧眼の男はそっと引き留めると、地面に座らせていた利吉を背負い直し、先に村へ入って行った。


その背に置いて行かれまいと漁太は慌てて追随(ついずい)するが、仲間と別れる事に踏ん切りが付かない様子で、賊の一団を最後に一目見ようと首を後ろへ動かした。――しかし思い直し、漁太は碧眼の男へ向き直り、小走りで後を追い掛けた。



 その表情は悩まし気ではあったが、もう盗みや暴力などの悪行を重ねずに済む、()き物が落ちたような晴々とした胸中も(にじ)み出していた。






©️2025 嵬動新九

※盗作・転載・無断使用厳禁

※コピーペースト・スクリーンショット禁止

※ご観覧以外でのPDF、TXTの利用禁止

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