第4話 渡司家の役割
意識が覚醒し始めると、湿気を帯びた冷風が体に当たっていることに気付いた。心地よい。心地よいが、音がうるさい割に風量が弱く、正直物足りない。そんなことを思っていると、畳や蚊取り線香の匂いが香ってきた。嗅ぎ慣れてきた匂い、渡司家の香りだ。まだかすかにぼやけた意識のまま、ゆっくりと目を開ける。
視界一杯に映る木目の天井。網がぶら下がってないことから、自分の部屋ではないことを理解する。明かりは付いていないのに明るいということ、そして、お腹の空き具合からして朝なのだろう。頭がぼーとする中、目だけを動かして冷風を感じる左側を見る。すると、私のすぐ横に大きな木のたらいが置かれていて、その中に溶けて水が滴っている大きな氷が立っていた。たらいの奥には、緑色の小さな扇風機が唸りを上げて回っている。
「螢火ちゃん、目が覚めた?」
扇風機のさらに奥から、火麟さんの気遣う声が聞こえた。
「火麟さん……――ッ!」
返事を返そうとした瞬間、昨夜のことを思い出した。祭りの最中に見た、あの影のことを。私は血相を変え、跳ね起きる。そして、火麟さんに問い質す。
「火麟さん! 昨日の祭りで、私見たんです!」
そう口にした途端、体が小刻みに震え出す。境内の光景が蘇り、私は頭を抱える。あれは一体なんだったのか。ありえない。夢だと否定する。だが、足に触れた影の冷たい感触が鮮明に残っていた。あの、氷のように冷たい感触が。夢じゃないのだ。そして、今は分かった。お母さんは知ってたんだ。知ってたから、帰ることを拒絶してたんだ。直後、私は更なる疑問を抱く。なら、どうしてお母さんは私を渡司家に行かせたのか。もしかして……。
「……やっぱり、螢火ちゃんにも見えたんだね……」
疑心暗鬼になっていると、火麟さんが再び声をかけてきた。が、そんなことよりも、彼女の物言いが引っかかった。――そうか、そうだ。火麟さんも知ってたんだ。今になって思い返してみれば、思い当たる節はある。火麟さんがお母さんの娘だと知った途端に見つめてきたこと、花火さんと口論になったこと、お母さんの話をして何かを悟ったこと。火麟さんは全て知ってた。なのに、黙ってた。
全身の産毛が逆立つと共に、私は火麟さんを睨みながら声を張り上げた。
「火麟さん、何で言ってくれなかったのッ!」
しかし、火麟さんは毅然とした態度を崩さなかった。真っ直ぐに私の目を見て、一瞬たりとも視線を逸らさない。ただ、何も言い返してこないのだ。口を一文字に結んだまま、私の言葉の全てを受け止める。その大人な態度が、無性に腹立たしいと思った。
私は悪くない。代役として呼ばれ、その結果、得体の知れないものを見た。声を荒らげるのは当然で、怒りを露わにしてもおかしくないのだ。そのはずなのに、冷静に言葉を受け止められると、私が感情のままに喚き散らす子どものように思えてくる。
「螢火ちゃん、黙っててごめんなさい。螢火ちゃんが怒るのも当然だよ。あれを見たのなら、私が知ってることを全部話すよ」
私が睨んでいると、火麟さんが私に向かって深々と頭を下げながら謝ってきた。
本当にズルいと思う。誠心誠意謝ってくれ、私が知りたいことを教えてくれるというのだ。しかも、火麟さんの雰囲気から私が見たものは悪いものではないのだということが察せる。なら、もうこれ以上は怒っても無駄だ。私は気持ちを切り替えるため、目を閉じ、深く深呼吸をする。
「…………火麟さんって、もっと淑女だと思ってた……」
目を開くと火麟さんを見つめ、怒りの感情が下がり切る前に負け惜しみように呟く。
「ふふ、誉め言葉として受け取っておくね。あ、一つだけ、境内で見たものは悪いものじゃないから安心して」
「……なら、良かったです」
私の負け惜しみを聞いても、どこ吹く風というように火麟さんは微笑む。本当に、火麟さんを初め、渡司家の人たちには敵わないと思った。
「もうすぐ朝ごはんだから、教えるのは食べ終わった後ね」
本当なら今すぐ聞きたいが、仕方がない。朝ごはんは大事だし、何より、おばあちゃんが厳しいのだ。きっと――いや、絶対に遅れたら怒られる。私は頷き返した。
「そういえば、この扇風機って火麟さんのなんですか?」
「そうよ。ほら、渡司家って暑いのに扇風機すら置いてないでしょ? だから、わざわざ持ってきたのよ」
「へぇ~、あ、ポータブルなんですね。ふ~ん……でも、この扇風機、うるさい割にあんまり涼しくないですね」
私は興味深げに扇風機を眺めた後、満面の笑みを浮かべながら欠点を指摘した。
「螢火ちゃんも十分、大したタマよ」
「え~、そんなことないですよ、私はただ事実を言っただけですって」
「……なら、いらないってことね。じゃあ、私が使うわ」
そう言って、火麟さんが私と扇風機の間に座った。
「あ~、取らないでくださいよ~」
「いらないんでしょ、それにこれは私のよ。ああ、涼しい~」
「あ~、火麟さんが取った~。ああ、溶ける。あ、ヤバッ、ちょっと溶けてきた」
「はいはい、やばいやばい」
その後は、火麟さんにくっついたり、扇風機を奪い合ったりした。私は一人娘で、昔から兄妹に憧れがあった。だから、火麟さんの塩対応がまるでお姉ちゃんのように思え、途中から夢中になって甘えた。そうやって時間を忘れて火麟さんにじゃれ付いていると、朝食の準備を終えた花火さんがやって来た。
「……朝ごはんよ」
たった一言呟いた後、花火さんは踵を返して去ってしまった。僅かに見えた花火さんの顔は、普段の朗らかで柔和な雰囲気は影を潜めていて、ひどく暗かった。
私は声をかけることができず、ただ花火さんの背中を見つめる。そうしていると、火麟さんが声を潜めて教えてくれた。
「花火さんは、見えないの……」
火麟さんの言葉を聞き、あの影に対する各々の捉え方が分かった。まず、花火さんは影が見えず、その存在も信じていない。そして、火乃さんも見えていないだろう。ただ、影の存在自体は信じているように思える。おばあちゃんは今のところ不明だが、お母さんは確実に見える。しかも、ぼんやりとではなく、はっきりと視認できるのだ。だから――、
(ここから逃げた……)
火乃子さんは廃校で、「しっかりと自分を持たなければ、ここから逃げ出すことになる」と言った。それはつまり、あの影を見ることのできる者が全てを知った上で、受け入れられるかどうかということだ。
「後で全部教えるから、今はその辺にしておきなさい」
私が思考を巡らせていると、火麟さんが私の肩に手を置く。そして立ち上がると、板の間の方へ向かう。確かに、話をすべて聞いてからでなければ答えは出せない。それに、「お風呂に入って整理……あれ? 私、昨日お風呂入ってない?」と考えていたところだ。まずは、ご飯。私は素早く立ち上がり、火麟さんの横に並ぶ。
「火麟さんって、ウィッグだったんですね」
「決まりだからしょうがなく、ね」
「でも、火麟さんの髪、すっごく綺麗ですよ」
「ありがと。でも、染めたいのよね、服に似合わないし」
「えぇ、綺麗なのに勿体ないですよ~」
◇◇◇◇◇
私が祭りの最中に気絶したにもかかわらず、今日も祭りは行われるとのことだった。やはり、あの影は渡司家の中では暗黙の了解なのだ。
もう祭りの流れは把握しているため、十七時までは自由に過ごしていいと言われていた。朝食を終えた後、さっそく影の真相を火麟さんに聞こうとしたら、「ついて来て」と彼女から言われた。火麟さんは靴を履き、玄関の横を通って奥へと突き進む。すると、昨日、渡司家の中を探検していた時に見つけた瓦屋根――蔵が見えた。
「中は埃っぽいから、覚悟してね」
火麟さんはまっすぐ前を向いたまま、声をかけてくる。そして、蔵の入口に辿り着くと、堅牢そうな大きな錠を外し、扉を開いた。その瞬間、埃っぽさとカビ臭さが鼻についた。
「暗いから気を付けて」
私が匂いに顔を顰める中、火麟さんは気にした様子を見せずに中へと入っていく。一瞬だけ躊躇したが、私は意を決して中へ踏み込んだ。
蔵は二階建てで、一階は長らく使われていないであろう古い木製の農具が置かれていた。火麟さんはそれ等には目もくれず、階段を上っていく。私も後に続くが、埃をかぶった吹き抜けの木の階段は、足を置く度に軋む音が蔵の中に響き、抜け落ちるのではないかと恐怖を抱かせる。恐る恐る階段を上ると、古い本や変色した新聞、さらに蜘蛛の巣が張った巻物が所狭しと積まれていた。
私が上がってくるのを待っていた火麟さんは、「螢火ちゃんって、怖がりね」とからかうように笑った後、真剣な表情を浮かべた。火麟さんの纏う空気が変わったことに気付き、私は無意識に姿勢を正す。
「さて、と。じゃあ、話すよ。ただ、ショックなことも多いけど、大丈夫?」
火麟さんが念を押すように、私の目を見ながら確認を取ってくる。思わず、身震いがした。薄暗い蔵の中のせいか、火麟さんの瞳が闇を宿しているように見えたから。ただ――、
「お願いします」
私はあの影のことを知りたい。いや、胸に迫る様な思いが背中を押すのだ。私は知らなければならないのだ、と。
真っ直ぐ、火麟さんの目を見て答えた。すると、火麟さんは私の覚悟を受け取ってくれたのか、ほんの一瞬だけ微笑んだ。そして、静かに語り始める。
「……じゃあ、まず結論から言うね。螢火ちゃんが見たのは、寶嶽山に捨てられた子どもの魂とか念みたいなものなの」
「…………」
「詳しいことは分かってない。分かってるのは、あの祭り――“炎結び”をする時にだけ、影が現れるってことだけなの」
私は拳を強く握りしめる。薄々だが、そうではないかと思っていた。勉強は嫌いでも、私だって学生だ。歴史の勉強は受けているし、昔そういったことがあったことも知っている。ただ、今回は違った。薄情かも知れないが、教科書に載っているどこか他人事のような出来事ではなく、実際に捨てられた現地にいて、しかも目にしたのだ。心に掛かる重みが違う。私が苦しくなりながらも、どうにか言葉を絞り出す。
「何で、子どもを捨てたんですか……?」
「天明の大飢饉のせいよ」
「それって、確か……三大飢饉って言われてる……?」
「そう。多稔町はね、名前の通りに昔は稲作が盛んな村だったの。けど……ううん、稲作が盛んだったからこそ、甚大な被害が出た。残ってる記録によれば、村の三分の一の人が亡くなったみたい」
耳を塞ぎたく陰惨な話に、私の心は大きく揺らいだ。しかし、体に力を込めてどうにか堪える。
「残った食料は僅か。飢えに苦しんだ人たちは、道端の雑草を抜いて食べ、木の皮を剥いで食べた。けど、そこまでしても満たされなかった。道端に転がる人は、日を追うごとに増えていく。このままじゃ、村が滅んでしまうと考えた当時の村長は、村を存続させるためにある決断を下したの……」
火麟さんの口調が、さらに重く、厳しいものへと変わった。話を聞いている最中、私は喉の渇きを覚え、一度、唾を呑み込む。
「それって……?」
一瞬、間が空いた。火麟さんが躊躇ったのか、私の感覚がおかしくなったのかが分からない。時間の流れが遅くなってしまったような感覚に襲われる中、意識が火麟さんの口元が動くのを捉えた。
「…………各家の末っ子を殺して、食料として村に分配する……」
重々しい口調で語られた言葉。私の頭に鈍器で殴られたかのような衝撃が走り、立っていられなくなってしまう。膝に手を突きいて堪える。その拍子に、視線が床に向く。次第に込み上がってくる吐き気。咄嗟に、手で口を塞ぐ。「ひどい」という言葉が頭の中で渦巻き、私は自然と涙ぐんでしまった。
「ひどい……」
ついには、我慢できず私は言葉を吐き出した。心が耐えられなかった。言葉を吐き出すことで、楽になろうとしたのだ。しかし――、
「感情で話すのは止めなさい」
私を叱責する声が、尾を引いている心に突き刺さる。動揺しながら火麟さんと目を合わせると、彼女は厳しい表情で私の事を見つめていた。
「これは、私たちの……飽食の時代の話じゃない。生きるか死ぬかの話。それを経験したこともない私たちが、軽々しく感情で言葉を口にするのは間違ってるよ、螢火ちゃん」
私は言葉を失うと共に、己の浅はかさに悶えそうになった。火麟さんの言う通りだ。少し考えればわかること。浅い、浅過ぎる。心がひどく揺れ、安易な同情をしてしまった。いや、憐れんだのだ、傲慢にも。そんな自分が赦せず、怒りに体を震わす。
「……それは今後、螢火ちゃんのいい所になる大事なところだよ」
優しく包み込むような言葉。音のせいで無防備になった心に、火麟さんの言葉が沁み込んでいく。すると、怒りが薄れていくのを実感する。火麟さんは、私の感情を頭ごなしに否定するのではなく、その先があると諭してくれたのだ。
(…………ホント、敵わないな……)
「それにね、実際は行われなかったの」
「…………」
まだ完全に感情が落ち着いていなかったからか、話を理解することに遅れてしまった。すると、そんな私に火麟さんはゆっくりとした口調で話してくれた。
「螢火ちゃんみたいに、反対した人がいたの。その人は、必死に村の人たちを説得し続けたの。『それは、人の道から外れる行為』だって。その甲斐もあって、取り止めになった」
「その人って……」
「そう、渡司家の御先祖様」
言葉に出来ない思いが、心の中を駆け巡る。初めて知った家系の歴史。脈打つ鼓動が、御先祖様の存在を感じさせてくれているようだった。
「ん? あれ? でも……」
ふと思った疑問。ご先祖様が行ったことは、誰が何と言おうと立派なことだと思う。しかし、では、どうやって飢餓を乗り越えたのか。
「うん、根本的な問題は解決してない。何もしなければ、村が滅びる。だから、末っ子を山に捨てて、食べ物の消費を抑えたの」
口減らし。苦渋の選択を迫られ、出した結論だろう。一体、どれ程の苦痛が伴ったのか、私には想像することもできない。ただ、私の中で散らばっていたものが繋がった。何故、渡司家が神社で祭りを行っているのか。何故、私が影を見れるのか。あの山に子どもを捨てた人物は……。間違いない。きっとそうだ。私の知るあの人と同じ性格なら、半端なことはせず、最後まで責任を果たす筈だ。
「子どもを山に捨てたのは、御先祖様なんですね?」
私が辿り着いた答えを口にすると、火麟さんはゆっくりと頷いた。
「きっと、御先祖様は自ら名乗り出たんだと思う。だって、私たちの御先祖様だもん。螢火ちゃんもそう思うでしょ?」
火麟さんが遠い目をしながら、微笑むような、誇らしいような顔で問いかけてくる。それに対し、私は力強く頷き返した。
「飢饉を乗り越えた後、村長が寶嶽山に神社を立てた。その際に、御先祖様は抱貴神社の神主になったの。それから、捨てた子どもを供養するための舞を舞い続けた。そしてそれは、今日に至るまで連綿と受け継がれてきた」
あの夜、大火を前にして舞っていた火麟さんの姿を思い返す。あの、息する事すら忘れて魅入った舞を。
「この蔵の中に置かれてる農具はね、その時代に使われてた物なの。ここにある本も新聞も巻物も全部、抱貴神社の建造についてだったり、天明の大飢饉のことが書かれた物が置かれてるの」
そう言われ、私は周囲を見回す。意識したからか、先ほどよりも古本の匂いを強く感じる。日に焼けた新聞や本に積もった埃が、これまで積み重ねてきた歴史のように思えた。巻物は、きっともっと古い物なのだろう。一体、何を思い、何を考えて書いたのだろうか。私はおもむろに目を閉じて、思いを馳せる。
村を存続させるために犯した暗い過去。誰のせいでもない。だが、皆が背負わなければならない罪でもある。境内を取り囲む無数の篝火。あれは、暗い過去を闇に葬るのではなく、火で照らし、直視するためにご先祖様が置いたんだと思う。
「私がここへ螢火ちゃんを連れてきたのは、ほんの少しでも当時の時代に触れて欲しいと思ったからなの」
「……そうですね、すごい苦しくて、すごい重いです」
「うん、そうだね。私も同じことを思った。祭りの由来は、これで全部だよ。後は……ねぇ、螢火ちゃん? 祭りの最中に境内で《《何》》を見たのか教えてくれない?」
「ん?」
火麟さんの唐突な問いかけに、私はその意図が読めずに首を傾げた。
「えっと、子どもの形をした影ですけど?」
「やっぱり、そうなのね……」
腑に落ちたような顔をする火麟さんを見て、私は益々混乱してしまう。そんな私と目が合った火麟さんが、再び口を開いた。
「私には、ぼんやりとした靄が見える程度なの」
「えッ?」
当然、火麟さんも見えているのだと思っていた。だが、実際は違うと知り、思わず声を出してしまう。
「見える範囲だけで言えば、螢火ちゃんより広いかな? けど、はっきりとは見えない。螢火ちゃんみたいにはっきり見える人は、私の知る限りであと一人だけ」
「……あッ」
驚いた後、私の中にある人物が浮かぶ。
「もしかして……」
「火夜さんだよ」
「お母さんが……」
これ原因だったんだ。影がはっきり見えるから、お母さんは渡司家に帰らなかった。でも、どうして、私とお母さんだけが影をはっきり見えるのか。考えても、答えなど出るわけがない。私は代役として呼ばれただけで、事情も今知ったばかりなのだから。
「…………」
ふと顔を伏せた。方法はある。簡単だ、今日の祭りの最中に影を観察すればいい。そうすれば、きっと何かが分かる筈である。
(お母さんは、それを知って逃げた? それとも、知らずに?)
どうしてだろう。分からないことなのに、不思議と恐怖を抱かない。それどころか、心が求めているのだ。境内の光景が頭に浮かぶ。特に、私の足に触れたあの子。重さの無い、冷たい霧のような感触は今もはっきりと覚えている。他の影は、山積みにされた食べ物の傍にいたり、境内を走り回っていた。にもかかわらず、その影だけが私に興味を示していた。それだけではない。気を失う直前、あの影から何かが心に流れ込んできた気がしたのだ。
私は顔を上げ、火麟さんと顔を合わせる。
確証はない。ただ、漠然と思うだけ。だけど、あの影を知れば見える理由に辿り着けるのではないか。お母さんがあの影に抱いた思いを確かめるため、そして、ご先祖様が向き合ったように私も渡司家の一員として向かう事を決意した。
「火麟さん。私、向き合います」
私の決意を聞いた火麟さんは一瞬驚いた後、「螢火ちゃんらしい」と呟き、優しく微笑んだ。