怖い夢
「……君、ター君?」
「うわあぁッ! 」
「ター君、大丈夫? だいぶうなされてたわよ」
「はあ、はあ、はあ、ああ母さんゴメン。ボクなんだかとても怖い夢を見ていたみたいで」
「ター君たら、すごい汗よ」
「うん母さん、とても怖い夢だったんだ。とてもとても怖い夢だったんだ。なのにどんな夢だったのか、ああ、もうボンヤリ忘れかけてる。あのね、ええとたしか……」
「もう。そんなに怖い夢なら無理に思い出すことないじゃない」
「でも母さん、ボクこういうのは思い出さないと気になる性分なんだよ」
「嫌よ。怖い話なんて母さんは聞きたくないからね」
「ええと、たしか夢の中でボクは」
「ター君やめて、聞きたくないってば」
「夢の中でボクは……ひとりだったんだ」
「……」
「ボクには恋人も友だちもいなくて、心の許せる親しい人なんて唯のひとりもいなくて……」
「……」
「定職もなくて、学校も出ていなくて……、いやそもそもずっと引きこもりのまま無為に年を重ねていて、優しかった母さんもどんどん老いていって、それで、それで、ああ、とうとう母さんが亡くなってしまって……、それからの俺は……、俺はすっかり精神を病んでしまって……、もうずっと長いこと入院していて……」
「……」
「はあ、はあ、はあ、ねえ母さん、母さん、あれはただの夢だよね? 本当に本当に夢の……、はあ、はあ、はあ、ねえ母さん、母さん、ボクの母さん……」