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【WEB版】身代わりで縁談に参加した愚妹の私、隣国の王子様に見初められました【書籍化・コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第一部前編

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6.信じられない出来事

ここから新ストーリーです!

 夢のような出来事があった。

 姉の身代わりで参加した縁談の相手が、まさか隣国の王子様だった。

 そして王子様には秘密があって、私にその秘密を共有してくれた。

 私のほうが優秀だと、姉よりも優れていると言ってもらえた。

 姉ではなく、私と婚約したいと……。

 

「夢ならまだ、覚めないでほしいな」


 揺れる馬車の中でぼそりと呟く。

 振動の感覚がお尻から全身に伝わって、意識はハッキリとしている。

 頬をつねったり、手をグーパーしたり。

 夢みたいだけど、夢なんかじゃない。

 それを何度も、何度も確認しては、ふいに表情がほころぶ。


「夢じゃ……ないのね」


 つい二日前に経験したことは、今もハッキリと思い出せる。

 シルバート殿下の表情も、声も、仕草も。

 より鮮明に、色あせることなく頭に浮かぶ。

 私は本当に、隣国の王子様から婚約を申し込まれたんだ。

 嬉しさと期待で胸がいっぱいになる。

 これまでの人生で感じたことのない胸の高鳴りだ。


 ガタンと馬車が揺れた。


「アストレア様、お屋敷に到着いたしました」

「――! はい。ありがとうございます」


 いつの間にか屋敷に戻ってきていたらしい。

 シルバート殿下との話が嬉しくて、何度も思い返していたから気づかなかった。

 馬車を操縦してくれた使用人は、酷く疲れたようにため息をこぼす。


「はぁ……早く降りていただけませんか?」

「す、すみません」


 この屋敷では、使用人ですら私にきつく当たる。

 本来、屋敷の主人の家族にこのような態度をとれば、即刻バツが与えられるだろう。

 けれど私に対しては例外だった。

 以前に使用人の一人が私を怒鳴ったことがある。

 どうして怒られたのか、もう覚えていないけど。

 それをお父様やお姉様は見ていた。

 お父様は呆れてため息をこぼし、お姉様はクスクスと笑っていたことだけは、今もハッキリ覚えている。

 その瞬間、使用人たちは思ったのだろう。

 私に対しては何をしてもお咎めはない。

 彼らは日々の仕事のストレスを発散するように、私を見下し、厳しく当たるようになった。

 私は急いで馬車を降りる。

 操縦者の男性は、私が降りるのを睨むように見ていた。


「はぁ……」


 もう一度大きなため息が聞こえた。

 辺境の土地までは馬車でも二日間かかるほど遠い。

 その道のりを私を送るために走っていた。

 どうしてこんな面倒な仕事を、と思っているに違いない。


 ああ、戻ってきてしまった。

 ここに立つと嫌でも後ろ向きな気持ちで胸がいっぱいになる。

 目の前には自分が暮らす屋敷。

 わが家への帰還は、浮かれていた心を現実に引き戻す。


「……報告しなきゃ」


 私は重い足を動かし、屋敷の中へと戻った。

 するとタイミングがよかったのか、玄関の近くをお姉様が通りかかる。

 お姉様は扉が開く音で私に気付き、こちらを向く。

 その表情はニヤっと笑みを浮かべ、私のことを馬鹿にする気がうかがえた。


「あら、戻ってきたのね」

「はい。ただいま戻りました、お姉様」

「そう。それで? 今回はどうだったの?」

「……婚約、することになりました」


 私がそう言うと、お姉様は僅かに眉を動かす。

 けれど大きくは驚かない。

 婚約を断られるパターンと、婚約して戻ってくるパターンはすでに経験済みだ。

 その理由も理解しているから、お姉様は笑みを浮かべる。


「さすが辺境の貧乏貴族ね。あなたと婚約して私たちに取り入ろうとしているのでしょうけど、無駄な努力だわ」


 やれやれとお姉様は呆れる。

 お姉様がいうように、私と婚約する人は大抵、私を利用しようと考えている人たちだった。

 落ちこぼれとは呼ばれていても、一応はウィンドロール家の令嬢だ。

 上手く取り入れば、ウィンドロール家との良好な関係が築ける。

 地位や権力の低い貴族たちにとって、それは穴に垂らされた一本の蜘蛛の糸に見える。

 しかし所詮は淡い希望でしかない。

 私にどれだけ取り入ろうと、ウィンドロール家は動かない。

 いつしか私に利用価値がないと悟り、向こうから婚約破棄を申しだされる。

 そういう経験を何度もしてきた。

 だけど今回は……違う。

 

「お、お姉様、婚約のことでお伝えしたいことがあります」

「え、何かしら? 婚約したくないとか言わないでよね」

「そうではなくて、お相手のことで……お父様にもご報告しなくてはいけないことがあるんです」

「……そう、じゃあ報告に行きましょう」


 お姉様は一瞬訝しむように私を睨み、そそくさと歩き出す。

 私は一呼吸を置いて、お姉様の後に続く。

 殿下からは、数日後に正式な婚約の連絡をすると伝えられている。

 その前に私から婚約について当主に説明を入れてほしいとも。

 隣国の王子様との婚約だ。

 国同士の関係にも影響する大きな出来事でもある。

 先に伝えるべきなのは理解できるけど、あまり気乗りはしなかった。

 だって……。


 信じてもらえるわけがないから。


 執務室にたどり着く。

 ノックをして許可を貰い、中へと入る。


「いらっしゃい、ヘスティア」


 お姉様に挨拶をしたお父様は、私に気付いて不機嫌そうな顔をする。


「戻っていたのか、アストレア」

「は、はい。先ほど戻ってまいりました」

「そうか。で、何の用だ? 婚約はどうなった?」

「それについてアストレアからお話があるみたいですよ、お父様」


 お姉様はニコやかにお父様へ説明する。

 お父様も彼女の話ならちゃんと聞いてくれる。

 私を助けたわけじゃないだろうけど、おかげで話し出せる空気にはなった。


「……」

「何だ? 早く話せ。私も忙しいんだ」


 私は大きく深呼吸をする。

 意を決するように、私はお父様に伝える。


「お父様、私はベスティリア王国の第二王子、シルバート・ベスティリア様と婚約することになりました」


 言った。

 ハッキリと、二人に聞こえるように。

 気持ちが高ぶり、呼吸が少しだけ苦しくなる。

 呼吸の感覚が乱れて、少しだけ意識がくらっとしそうだ。

 まっすぐ前を見ているけど、お父様の表情が視界と一緒にぼやけてよく見えない。

 数秒、静寂が部屋を包む。


 そして――


「ぷっ」


 静寂を破ったのは、私の隣にいたお姉様の笑い声だった。

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