表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/46

41.日ごろの感謝を

【作者からのお知らせ】

書籍化に伴い改題しました!


発売日:1/10

レーベル:双葉社Mノベルスf

イラスト:NiKrome先生


発売です!

買ってくれよな!!

 ベスティア王国。

 今の私が暮らす国。

 これから私が、生涯を捧げるつもりの場所。

 この国の最も高く、豪華な場所で私は暮らしていた。


「ごめんね、ニーナ。いつも付き合わせてしまって」

「お気になさらないでください。アストレア様のお手伝いをすることが、私に与えられた役割です」


 ニーナはそう言いながら、私の新薬開発を補助してくれている。

 この国に来て随分と経過した。

 もう十分に慣れて、お客さんという気分でもない。

 私はここで暮らしている。

 この国の一員になったのだと、少しずつ自覚してきた。


「アストレア様、そろそろ切り上げたほうがよいお時間です」

「あ、本当だ。教えてくれてありがとう。片づけを始めよう」

「かしこまりました」


 今日は午後に予定が入っている。

 シルバート殿下とのお茶会だ。

 端から見れば何気ない時間で、重要とは思われないだろう。

 けれど私にとっては一番大事な時間だ。

 新薬開発の時間よりもずっと、この時間を待ち遠しく思っている。

 予定では午後の三時から。

 まだ予定まで二時間ほどあるけど、私たちにはお茶会の準備がある。

 本来は使用人であるニーナに任せる仕事を、私が自分がやりたいから率先して準備までしていた。

 すべては殿下の喜ぶ顔が見たいから。


「よし。じゃあキッチンに行きましょう」

「はい」


 私はニーナと一緒にキッチンへと向かう。

 この屋敷は殿下が暮らすために建てられたもので、使用人の数も少ない。

 殿下には特別な眼がある。

 見え過ぎる眼のせいで、殿下は他人をあまり信用できなくなった。

 この屋敷で働いている人たちは、殿下を心から信頼し、殿下からも信頼されている人たちだけだ。

 殿下に選ばれた人たちだから、私も安心して一緒に暮らすことができる。


 キッチンへたどり着き、道具と食材を用意する。

 ニーナが尋ねてくる。


「今回はどんなお茶を淹れる予定ですか?」

「せっかくだから二種類用意するつもりだよ。飲み比べができるように」

「とてもよいお考えです」

「ありがとう。あとはお茶と一緒にお菓子も用意しないと」

「でしたらお菓子のほうは私にお任せください。紅茶の味わいに合わせて用意いたします」


 という感じに、紅茶を用意するのは私。

 お菓子を用意するのはニーナが担当して、二人でお茶会の準備を進める。

 手を動かしながら、私はニーナに言う。


「今日のお茶会は、ニーナも一緒だからね」

「……本当によろしいのですか?」

「もちろん。殿下ともお話して、ぜひ一緒にっておっしゃっていたから」

「そうですか。お二人が望まれるのであれば、私もご一緒させていただきます」


 ニーナは少し申し訳なさそうに、けれど嬉しそうに頷く。

 これまでお茶会は私と殿下の二人だけだった。

 二人だけの時間も悪くない。

 でも、この国に来て私のことを支えてくれているニーナにも、日ごろの感謝を伝える時間がほしい。

 殿下も同じ気持ちだった。

 おそらく最近来たばかりの私以上に、殿下はニーナに支えられている。


 時間が過ぎ、準備も終わる。

 庭のテラスにお茶とお菓子が運ばれ、二人で殿下を待つ。

 私は席に座り、ニーナは立っている。


「今日はニーナも参加するのだから、座って待っていてもいいと思うよ」

「いえ、お気になさらず。殿下ももうすぐ来られます」


 ニーナの視線が動く。

 私もつられて、屋敷のほうへ視線を向けた。

 彼が歩いてくる。

 目と目が合い、心にさわやかな風が吹く。


「待たせたな」

「いらっしゃいませ、殿下」

「お待ちしておりました。殿下」


 殿下が席に座る。

 着席と同時に、小さくため息をこぼす。

 お仕事が忙しいのだろう。

 

「お疲れでしょうか」

「ん? ああ、書類仕事ばかりで目が疲れてきたんだ。すまないな」

「いえ、それでしたら本日のハーブティーはよく効くかもしれません」

「今日も淹れてくれたのか」


 殿下が嬉しそうな表情でテーブルを見る。

 まだ飲んでいないのに、こんなに喜んでくれると気分が晴れやかだ。

 殿下が気づく。


「ポットが二つ?」

「はい。二種類用意いたしました。一つは血行を良くして、体温を上げる効果のハーブを。もう一つは以前にも飲んで頂いた疲労回復の効果を」

「わざわざ二種類も、それにお菓子まで。大変じゃなかったか?」

「大変なんて思いません。それに、ニーナが手伝ってくれましたので」


 私がニーナに視線を向ける。

 彼女は小さく頷く。

 殿下はまだ立っている彼女に微笑みかける。


「ニーナも座ったらどうだ? 今日は君も参加者の一人だ」

「かしこまりました。それでは失礼いたします」


 ようやく三人が席に着く。

 私と殿下は顔を合わせて小さく頷き合う。


「それでは」

「ああ、午後のお茶会を始めようか」

 

 こうしてお茶会が始まる。

 ニーナが三人分のハーブティーを淹れて、一口飲む。

 今回もちゃんといい味が出ている。


「美味しい」


 殿下の一言が聞こえた。

 自信はあるけど、こうやって実際の声が聞こえるとホッとする。

 ハーブの効果なのか、それとも殿下の声が聞けたからなのか心も温かい。


「ニーナ、今日は参加してくれてありがとう」

「いえ、このような場にお招きいただき感激の至りでございます」

「そう畏まらなくていい。今、この場では対等だ」

「……無理をおっしゃらないでください」


 ニーナは珍しく困った表情を見せる。

 主人とメイド。

 本来なら同じ席に座り、並ぶことはありえない関係性だ。

 さすがの彼女も少し緊張しているように見える。


「二人の時間を邪魔している、とか思ってるなら違うぞ」

「――! 殿下……」

「この距離ならよく見える」

「……」


 殿下の特別な瞳が、ニーナの心を捉えた。


「ニーナにはずっと感謝していた。俺の我がままで屋敷に連れ出し、窮屈な思いをさせてしまったこと、謝りたいとも思っていた」

「そんなことおっしゃらないでください。私は窮屈など感じておりません。私だけじゃありません。この屋敷に呼ばれたことを、皆が光栄に思っております」

「……ああ、だからこそ感謝している。こういう機会でもないと、口に出せないからな」


 そう言って殿下は笑う。

 私が知らない数年の時を二人は過ごしている。

 少し妬けてしまうけど、今の殿下があるのは、彼の心が人を完全に嫌わなかったのは……。

 きっと、ニーナたちの心が殿下を裏切らなかったからだろう。

 だから私からも。


「ありがとう、ニーナ」


 感謝を伝えたいと思った。

 これから先、長い付き合いになるだろう人たちに。

【作者からのお願い】

実は私がいろいろ頑張った新作ラブコメが本日12/1に発売となりました!

ページ下部の画像をクリックすると購入ページにいけますので、興味ある方はぜひ見てください!

ラブコメだけど私が書くので、女性でもきっと楽しめるはずです!!


よろしくね~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
[一言] 早く続きが読みたい!
[一言] 早く続きが読みたい!
[気になる点] 番外編 45.日ごろの感謝を 41〜44はどこへ……?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ