表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/46

38.勘違いしないで

 覚悟はしていた。

 この国に戻ってきた時点で、こんなに大きなパーティーで出会わないはずがない。

 必ず顔を合わせる。

 お姉様のことだから、私を見つけて悪態をつくだろうと予想もできていた。

 それでも、顔を合わせた瞬間はビクッとして、背筋が伸びる。

 嫌な光景が、思い出がよみがえる。

 無意識に引き戻されるようだ。

 シルバート殿下の婚約者から、無能な聖女の片割れに。


「意外だわ。アストレアもこのパーティーに参加していたのね」

「……はい」

「一人で来るなんて寂しい子ね」

「……一人では、ありません。シルバート殿下もいらっしゃっております」


 恐る恐る答える。

 お姉様は明らかに不機嫌な顔をして私のことを睨む。

 険悪な雰囲気だ。

 周囲の貴族たちも察して、徐々に距離を置き始める。

 人だかりができていた私の周りが、いつの間にか静かになっていた。

 代わりに皆、殿下のほうへと向かったのだろう。

 視線の端っこで人の波が出来ている。


「そのシルバート殿下はどこにいらっしゃるのかしら? 見たところ一緒ではなさそうだけど?」

「殿下は、皆様とのお話で忙しく」

「あら可哀想。あなたは放置されちゃったのね」

「……」


 お姉様はクスクスと笑う。

 屋敷で何度も見せられてきた私をからかうときの表情だ。

 気持ちが落ち込み、逃げ出したくなる。

 それでもぐっと堪える。


「お父様はいらっしゃらないのですか?」

「あの人は今回は不参加よ。家のお仕事で忙しいの」


 あの人……?

 お父様のことをあの人と呼んだことは、今まで一度もなかった。

 二人の関係に何らかの変化があったのだろうか。

 あまりいい変化には思えない。


「違う国で暮らすのはどう? 大変でしょう?」

「そんなことは……」

「大変なら戻ってきてもいいのよ?」

「……え?」


 思わぬ一言に困惑する。

 お姉様の口から、戻ってきてもいいなんて言葉が聞こえてくるなんて思わなかった。

 戸惑う私に、お姉様は笑みを浮かべながら言う。


「私も悪魔じゃないわ。妹が辛い思いをしているのに放っておけないのよ」

「辛い……?」


 どうしてそう思うの?


「不相応な期待をされるのは大変でしょう? どうせ向こうでも期待に応えられず、落ちこぼれ扱いされていたんじゃないのかしら?」


 ああ、そうか。

 私は察する。


「仕方ないわよね。あなたは聖女としては何もできないもの。取り柄なのは薬作りだけかしら? それだって薬師に任せれば済む話だものね」

「……」


 双子だからかな?

 お姉様が考えていること、思っていることが透けて見える。

 少しの間距離を置いていたから余計にハッキリと。

 お姉様は私のことを心配しているわけじゃない。

 認めたくないんだ。

 私がシルバート殿下に選ばれたことを。

 すべては嘘偽りで、シルバート殿下の見込み違いだったと思いたい。

 だからこんな誘導するような話し方で、私が頷くのを待っている。

 

「……こんなにもわかりやすかったんだ」

「――? 何か言ったかしら?」


 気づかなかっただけなのだろう。

 変に萎縮して、眼を逸らしていたから。

 でも今は、引け目を感じたり、自分が劣っていると思うのは止めよう。

 私が落ち込み下を向いていたら、私を選んでくれたシルバート殿下が間違っていたと思われてしまう。

 そんなのは嫌だ。


「心配してくれてありがとうございます、お姉様。でも大丈夫です」


 だから私は全力で、お姉様の勘違いを否定する。

 なるべく明るく笑顔を見せて。


「シルバート殿下はとても優しいお方です。一緒に暮らしている方々も含めて、とてもよくして頂いております。不便や不満なんて感じることはありません」

「……そう思わされているだけじゃないかしら? 無理しなくていいのよ?」

「無理はしておりません。今日までとても幸せです」

「っ……そう。よかったじゃない。あなたみたいな落ちこぼれを拾ってくれる優しい国があって」


 お姉様は苛立ちを見せ、いつものように私を見下す。


「本来ならこんなパーティーにも参加できなかったものね。シルバート殿下に運よく拾われたおかげで、随分といい生活ができているみたいじゃない」

「――はい」


 なぜだろう。

 お姉様の悪態も、今は空しく見えてしまうのは。


「殿下との出会いは、私にとって一生の誉れです。お姉様にも、素敵な相手と巡り合える日が来ることを祈っております」

「――!」


 少し前までの私なら絶対に口に出来なかった。

 お姉様を心配する……ううん、嘲笑うかのような煽りを。

 シルバート殿下の存在が、私の心に余裕を齎した。

 その結果なのだろう。

 お姉様の焦りが、私がいなくなってから日々に不満があることが透けて見える。

 戻ってきていいと言ったのも、私をからかうためじゃなくて……本当は大変だから戻ってきてほしいとか、思っているのかもしれない。

【作者からのお願い】

『無自覚な天才魔導具師はのんびり暮らしたい』ノベル第一巻が5/10に発売されました!

改稿を重ね、新エピソードも書下ろし、より一層面白くなっておりますので、ぜひぜひお手にとってくれると嬉しいです!

ページ下部の画像から見られますのでぜひ!


よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
[一言] お姉様こそ誰と来たの? まさか寂しくおひとり様で来たんじゃないでしょうね?(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ