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32/46

32.殿下のためなら

 空気が違う。

 玉座の間に入り、すぐにそう感じた。

 警備する騎士、たたずむ使用人たちからもピリピリした空気を感じ取る。

 私は一瞬、入るのを躊躇った。


「大丈夫だ」


 そんな私に小声で、シルバート殿下が呼びかけてくれる。

 最後に一番の勇気を貰い、私は殿下に続いて前へと進むことができた。

 赤い絨毯の上を歩き、殿下が立ち止まる。

 それに合わせて私も立ち止まり、令嬢らしく振舞う。


「お時間をいただきありがとうございます。父上」


 殿下も頭を下げている。

 私もまだ顔を下げ、陛下の顔は見ない。

 

「顔を上げよ」


 陛下の声を聞いてようやく、私たちは顔を上げ、陛下のお顔を見る。

 逞しく立派な髭と、白髪が混ざった灰色の髪。

 鋭い目つきに一瞬ビクッとしてしまったけど、どことなく雰囲気がシルバート殿下に似ていた。

 当たり前なことだ。

 なぜならお二人は親子なのだから。

 シルバート殿下に似ていると思ったおかげか、少しだけ緊張が和らぐ。

 殿下が私を陛下に紹介する。


「父上、彼女がアストレア、私が婚約者に選んだ女性です」


 陛下の視線が私に向けられる。

 次は私の番だ。 


「初めまして、ベスティア国王陛下。お会いできて光栄でございます」

「私も会えて嬉しく思う。アストレア・ウィンドロール、史上始めて誕生した双子の聖女の片割れ、で間違いないな?」

「――はい」


 当然、私がどういう人間かも陛下は知っていいる。

 陛下は私を見る目は、まるで商品を品定めしているように思えて、少し怖かった。

 聖女という商品が二つ並んでいたら。

 私は不良品として捨てられてしまうだろうと思ったから。


「アストレア」

「は、はい!」

「シルバートの婚約を受け入れてくれたこと、王として、父として感謝する。シルバートは私に似て頑固だった故、これまで用意した縁談は悉く断っていた。成人を越え、王族として将来を見据えなくてはならぬ時に、私も苦労していたのだ」

「い、いえ! 私のほうこそ、殿下と婚約できたことは至上の喜びにございます」


 あれ?

 なんだか思っていたより人間味があるというか。

 雑談に近い会話が続いたことに驚く。

 父として、という言葉が聞こえた時、私の緊張は更に和らいだ。

 純粋に父親として、息子の婚約を喜んでいるのだと思った。

 けれどすぐに、陛下の雰囲気が変わる。


「だが、私は少々疑問を抱いている」

「――!」

「シルバートが選んだ相手だ。その眼に見定められたのなら、間違いはないだろう」

「……」


 隣で殿下は無言。

 当然、殿下の特別な眼のことを陛下は知っている。

 あらゆるものの真実を見抜く眼の前では、嘘偽りは通用せず、誰もが心の奥底まで丸裸にされてしまう。

 その殿下が選んだ相手なら、相応の価値があるのだろうと。

 たとえ、双子の聖女の、落ちこぼれの妹と呼ばれている相手であれ。

 陛下の視線が、態度が、そう問いかけているように見えた。


「生憎、私の目に君はあまりに普通に見える。王族の一員として、いずれ王子の妻となる女性として、君が相応しいかどうかを問いたい」

「父上、私が見て決めた相手です。父上がおっしゃったように間違いはありません。彼女には、私の隣に立ち、この国を支えるだけの力があります」


 助け船を出すように、殿下が国王陛下に説明してくれている。

 少し焦っているようにも見えた。

 余裕のない殿下は初めて見る。

 殿下の瞳は、国王陛下が何を思っているのかを見据えているのだろう。

 眼帯で瞳を隠しても、相手の感情は読み取れると言っていた。

 そんな力がなくとも、私にも陛下が何を思っているのか予想がつく。

 疑問、疑念だ。

 出来損ないの聖女でしかない私に、王族の一員になる価値があるのかどうか。


「それを理解した上での問いだ。私はお前の眼を信用している。だが、それを口にするのはお前自身だろう?」

「……」


 それはまるで、殿下の眼だけを信じ、殿下の言葉を信じていないような言い回し。

 殿下も沈黙する。

 基準は王国にとっての利益になるかどうか。

 身内贔屓もせず、差別もない。

 ただ純粋に、その眼で価値を見定める。

 これがベスティア王国の国王……この国を背負う人物。


「アストレア、君は薬学にも精通しているようだな」

「はい」

「その知識、力には期待している。必要な時は頼らせてもらう」

「父上、彼女は私の婚約者として招いたのです。薬師として招いたわけでは――」

「わかりました」


 殿下の言葉を遮るように、私はハッキリと声に出す。


「アストレア?」


 少し驚き、心配そうに視線を向ける殿下に、私は精一杯の笑顔を見せる。

 安心してほしくて。

 無理なんてしていないと伝えたい。


「私にできることであれば、いつでもおっしゃってください。この国の、殿下のお役に立てるのであれば、それこそ私にとっての誉れでございます」


 嘘偽りはない。

 私は心からそう思っている。

 たとえ国のために利用されているだけでも、私は構わないと思った。

 これまで無自覚に搾取され、努力は報われず、注目もされず、独りぼっちで生きて来た私にとって、この国での暮らしは天国のようだ。

 私のことを気遣ってくれる人がいる。

 成果を認め、努力を褒めてくれる人たちがいてくれる。

 それだけで私は頑張れる。

 期待してもらえる喜びを私は知ったから。


「アストレア……」

「そうか。ならば、()()()()()期待しよう」


 それは陛下から初めて、私個人に対する期待を示す言葉だった。

 私の返答は、陛下が求めるものに近かったのだろう。

 この時、私は陛下にこの国の人間として、殿下の婚約者として認知してもらえた。


「はい! 少しでも殿下の力になれるよう努力いたします」


 誰かのために頑張れることを、私は幸せに思う。


【作者からのお願い】

『無自覚な天才魔導具師はのんびり暮らしたい』ノベル第一巻が5/10に発売されます!

改稿を重ね、新エピソードも書下ろし、より一層面白くなっておりますので、ぜひぜひお手にとってくれると嬉しいです!

ページ下部の画像から見られますのでぜひ!


よろしくお願いします!!

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『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

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[一言] > 誰かのために頑張れることを、私は幸せに思う。 とても素晴らしいです。よかった。
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