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24.これから知る喜び

『無自覚な天才魔導具師はのんびり暮らしたい』

Mノベルスfより5/10発売です!


ページ下部の画像からリンクにとべますのでぜひ買ってね!

 この屋敷の書斎は、ウィンドロール家よりも充実している。

 王族の屋敷だから当然かもしれないけど、揃えてある書籍の数が圧倒的に多く、あらゆる分野を網羅している。

 昨日殿下に案内してもらった時、さらっと紹介されただけで平然としていたけど、私は少しワクワクしていた。

 きっと私がまだ知らない知識が眠っている。

 新しい知識は、新しい何かを生み出すための素材になる。

 

「こちらです」

「案内してくれありがとう」

「この後はどうされますか? お一人のほうがよろしければ、私は部屋の外に待機しております。もしご迷惑でなければ、私にもお手伝いさせていただければ幸いです」

「えっと、じゃあお願いしようかな」


 せっかく近くにいるのに、わざわざ外で待機してもらうほうが失礼かと思った。

 それに、これから長い付き合いになる彼女と、もっと親交を深めたい。

 私にしては珍しい。

 なるべく他人との関わりを避けて、自分が傷つかないように逃げていた以前までの自分なら、こんな風に思うことに驚くだろう。

 私は書斎のテーブルに、カバンの中身を広げる。

 ウィンドロール家で使っていた資料と、作成途中だった新薬のサンプルだ。

 大半はお姉様の妨害で廃棄してしまったけど、少しだけ残っている。

 そのおかげでなんとか、研究を一からやり直す事態は避けられた。

 ニーナが広げられた資料を見ながら尋ねてくる。


「アストレア様はどんな薬を開発されているのですか?」

「今作っているのは、南のほうで流行っている中毒症状に効く薬だよ。一年前から水の汚染が起こって、その水を飲んだ人たちが中毒症状で苦しんでいるみたいなの」

「南……確かアラベスの街がある地域ですね」

「うん。ニーナはアラベスのこと知っていたの?」

「少しだけ存じております。あそこは殿下が管轄する地域の一つですので」

「そうだったんだ」


 それなら尚更頑張らないといけない。

 水の汚染は一時的なものではなく、周囲の地形や環境の変化によって緩やかにもたらされたものだとわかったらしい。

 故にすぐ問題を解決することはできない。

 幸いにも死に至るような重篤な症状ではないものの、日々の飲食が消極的になれば、必然的に人間は死へと向かってしまう。

 このままでは多くの人々が苦しみ、アラベスは人が住めなくなる。

 そうなる前に、症状を抑える薬を開発したかった。


「普通の病気とは違うから、完治させることはできない。でも症状を抑えて、時間をかけて環境に身体を慣れさせることはできるから」

「慣れさせる、のですか?」

「そう。汚染とは言われているけど、特に人間以外に被害は出ていないみたいだから、おそらく環境の変化に人間の身体が驚いている状態だと思うんだ」


 人間は環境に慣れて育つ生き物だ。

 そしてどの生き物よりも繊細で、様々なものに影響を受ける。

 初めて訪れる場所の水を飲むと、成分が合わなくてお腹を壊してしまうように。

 汚染といっても毒素が混じったわけじゃない。

 もしそうなら、周囲の植物や動物にも悪影響を及ぼす。

 人間の繊細さが、環境の変化に過剰反応を起こしているだけだ。


「失礼ですが、どうしてそうだとわかったのですか? アストレア様は現地に行って調べられたのでしょうか」

「ううん、私は外にほとんど出なかったから、聞いた情報とアラベス周辺の地形とか、資料からわかることの予測なんだ」


 過去に同様な事例がないか。

 アラベスの周辺地形、環境、生態系については、屋敷の書斎で調べることができた。

 それに聖女であるお姉様の下には、世界中から様々な問題や悩みが舞い込んでくる。

 遠くて面倒だからと無視した問題の中に、アラベスの情報もあった。

 それらを元に考察し、地形の変化によって地層が変わり、水が流れる道が変化したことで、水に含まれる成分も変わったのではないかと予測した。

 水害などが原因となり広がる病は多く存在する。

 今回もその事例に近く、運よく重篤な病とはならなかった。

 

「凄いですね。そんなわずかな情報で予測を立てて、新しく薬を作ってしまうなんて」

「そんなことないよ。宮廷にも薬師さんはいたから、私がやらなくてもきっと誰かが作ると思う。私のしていることは、ただの自己満足みたいなものだから」

「そのような悲しいことを言わないでください。アストレア様は素晴らしいことをしています。殿下も、それを知っているからこそ、あなた様を選んだに違いありません」

「ニーナ……そうだと嬉しいね」


 殿下が私との婚約に、私である強い理由を一つでも抱いてくれたのなら。

 私はとても幸せで、頑張ろうと思える。

 それに殿下だけじゃない。

 ニーナのように、まっすぐ賞賛の声をくれる人は少なかった。

 だから自然と、口角が上がり、気分が高まる。


「褒められるって……こんなにも幸せなんだね」


 ぼそりと口に出す。

 褒められる喜びも、私はこれから知っていく。

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[一言] 姉は自国の王家から縁談はないのかな? 妹だから両国の話し合いも上手くまとまっただけで、現時点では姉が隣国に嫁ぐのは無理だと思うけど。 まぁそんな事はきっと姉も分かってるけど、それでも自分で…
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