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1.婚約したいのは君じゃない

【作者からのお知らせ】

書籍化に伴い改題しました!


発売日:1/10

レーベル:双葉社Mノベルスf

イラスト:NiKrome先生


発売です!

買ってくれよな!!

「私が婚約したいのはあなたではありません」

「……」


 わかっている……そんなこと。

 何度目かわからないセリフを耳にして、私の心はつめたくため息をこぼす。

 だけど実際、ため息をこぼしたのは私じゃなくて、縁談相手のほうだった。


「はぁ……せっかく縁談の場を設けたというのに、なぜあなたのほうが来てしまうのです?」

「……」

「私が婚約を申し出たかったのはあなたではなく、優秀なお姉さんのほうだったのですが……」


 そう言いながら呆れ、睨むように優秀じゃない私を見る。

 私にそんな愚痴をこぼしたって無駄だ。

 そんなこと言われても、私の意思でここにいるわけじゃないのだから。

 縁談相手は黙っている私を見て、何度もため息をこぼす。


「はぁ……つまりこういうことですか? ウィンドロール家は、我々と懇意にするつもりはないと?」

「……」


 私は黙る。

 その質問は、私が答えられるような内容じゃない。

 また、ため息をこぼされる。

 彼はおもむろに席を立ち、壁にかけられたコートを手に取って身にまとう。


「そちらがその気になら、我々もこれ以上無駄な時間を使いたくありません。失礼させていただきます」

「……はい。貴重なお時間を頂きありがとうございました」

「まったくですよ。こんなふざけた対応は初めてです」


 すみません、とは言えない。

 へりくだったり、謝ることはしないように教育されているから。

 ただ、意図は見え透いているとは言っても、こんな風にあしらわれる彼には少し同情する。

 彼は扉に手をかける。


「あなたも大変ですね。優秀すぎる姉がいると」

「……」


 そう言って立ち去っていく。

 最後に同情されてしまった私は、ようやく初めてため息をこぼす。

 天井を見上げて、呟く。


「……本当にそうですよ」


 無意味な縁談を終えて、しばらく部屋でじっとしていた私は重い腰をあげる。

 いつまでもじっとしていたら、また愚鈍だと馬鹿にされてしまう。

 私は部屋を出て廊下を歩き、縁談結果をお父様に報告するため執務室を目指していた。


「あら? もう終わったの?」


 道中、ふいに声をかけられた。

 振り向かずとも笑みを浮かべているのがわかる。

 私は立ち止まり、声のする方へと顔を向ける。

 そこには、私によく似た……ううん、そっくりな女性が立っている。

 自分でも驚くほど、顔の形や背丈も一緒で、違うのは髪と目の色くらいだ。


「お疲れ様。今回もちゃんと断られたかしら? アストレア」

「……ヘスティアお姉様」


 私たちは双子の姉妹。

 姉のヘスティアと、妹である私。

 よく似ているのは当然で、けれど決定的に違う。

 何もかもが。


「その様子ならいつも通りだったみたいね。相手の方はどんな反応をしていたかしら?」

「……呆れて、怒っていました」

「そう、滑稽ね。私が縁談を受けると思ったのかしら? たかだか中流階級の貴族相手に、私の貴重な時間を割くわけないじゃない。あなたもそう思うでしょ?」

「……」


 彼女は優雅に笑みをこぼしながら同意を求めてくる。

 私は頷きもせず、ただ黙っている。

 すると彼女は決まって、ため息交じりに呟く。


「相変わらず可愛げがないわね。根暗で能無し、こんなのが本当に私の妹なのかしら。いつも疑ってしまうわ」

「……」

「何黙っているのよ。無能でごめんなさいって謝りなさいよ」

「……ごめんなさい」


 私が謝ると、お姉様は満足げに笑みを見せる。

 お姉様は私のことを見下している。

 姉妹だとすら思っていない。

 けれど、私がお姉様より劣っているのは周知の事実だった。


「はぁ、スッキリしたわ。それじゃ私は教会でお祈りをする時間だから、もう行くわ」

「……お気をつけて、お姉様」

「あなたは家でのんびり、無駄な研究でもしているといいわ」

「……」


 そう言ってお姉様は背を向け、廊下を歩き去って行く。

 王都の教会へ向かう。

 聖女としての役割を果たすために。


 私たちは生まれた時から特別な双子だった。

 神に愛されし乙女……聖女。

 あらゆる奇跡を祈りで起こし、どんな病や傷も完治させる。

 魔を退ける光の結界を生み出し、人々の生活を守護する役割を担う。

 そんな奇跡の存在に、私たち双子は選ばれた。

 聖女は一世代に一人だけ。

 つまり世界中探しても、聖女は一人しか存在しない。

 けれどそんな常識を私たちは覆した。

 双子だったことが影響したのだろうと、研究者たちは語る。

 私たちは史上初となる二人の聖女として誕生した。

 両親は凄く喜んで、私たちの生まれたウィンドロール伯爵家は、王家から公爵の地位を頂けた。

 私たちは期待されていた。

 順調だった。

 生まれた直後は……。


 身体が成長し、物心ついたころだった。

 私たちに宿った聖女の力には、大きな差があることが発覚した。

 姉は天才だった。

 誰に教わるわけでもなく、幼くして聖女の力を使いこなし、祈りで奇跡を起こして見せた。

 対して私は、何もできなかった。

 どれだけ祈っても奇跡は起きない。

 聖女らしく手元が光るだけで、癒しの力もか弱かった。

 その頃はまだ、今だけだろうと思われていた。

 もっと成長すれば自然に聖女の力も使えるようになって、姉と並ぶ存在になるに違いないと。

 けれど一年、五年、十年経とうとその差は埋まることはなかった。

 それどころか私たち姉妹の差は大きく広がった。


 いつしか、私を見る周囲の目は冷ややかになった。

 姉の影に隠れた出来損ない。

 聖女の癖に奇跡も起こせない無能。

 肩書だけの役立たず。

 酷い時なんて、神に背いた裏切り者なんて呼ばれてしまった。

 そんな私のことを、両親は庇ってくれなかった。

 逆に罵り、遠ざけた。

【作者からのお願い】

新作投稿しました!

タイトルは――


『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』


ページ下部にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!

リンクから飛べない場合は、以下のアドレスをコピーしてください。


https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

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『没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしれきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!』

https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

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第一巻1/10発売!!
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