餓狼の企み①
ケータイから読んでいただいてることが多いようなので、今更ながらかなり短くきってみました。
読みにくいなどありましたら、ご一報ください。
第四章:餓狼の企み
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石造りの優美な城の頂上に、風にたなびく旗があった。夜明けとともに、旗は日の光に照らされ、その紋様を露わにする。大地に吠える狼が牙をむき、今にも獲物に飛び掛らんとする勇ましい紋様が。
城内の広間では、この国の王として君臨する男、ヨーゼフが退屈そうに杯を手の中で転がしていた。
絢爛豪華な椅子に、贅を尽くした衣装を気遣うことなく身体をくずして座り、両脇に肉体を薄手の布で覆っただけの妖艶な美女たちをはべらせている。
まだ二十代半ばといったところか、若々しく艶のある肌をした一国の王は、ひどく機嫌が悪いようだ。両脇の女たちがいつものように、王の身体に寄り添おうとすると、わずらわしいとばかりに振り払う。
「おい、ルーダ」
と、ヨーゼフは目の前にひざまずく黒髪の男を呼んだ。
「俺様に意見する気か?」
「いいえ、めっそうもございません。ただ私は忠告申し上げているのです、国王陛下」
そう静かに答えて、ルーダは顔を上げた。その表情に色はない。柔らかなウェーブを纏った黒髪のこの男は、怜悧な面影をもった優形の男であった。歳はヨーゼフよりも幾分か上だろうか、物腰も落ち着いている。
ルーダは淡々と続けた。怒るふうも焦るふうもない。ただ忠告の言葉を口にする。
「確かにリボルバーヘルトとローゼンシュトルツの統一は、わが国最大の課題です。ですが、ローゼンシュトルツへ女王暗殺の刺客を送るとは、いささか賢明さに欠いております。前国王が崩御された後、わが国は少なからず混乱をきたしておりますゆえ、万が一、戦ということにでもなれば……」
「どうせならねぇよ、戦になんかな。この国には人質がごまんといるんだ。そうだろ、ルーダ?」
と、ヨーゼフは不敵な笑みを浮かべた。そして、狼のごとく鋭く冷たい目を忠実な家臣ルーダに向ける。
ルーダはその目の冷徹さに悪寒を覚えた。
「それに……、アイツは俺様の意図を必ず見抜く。そして、必ずここへやって来る……」
「“アイツ”と申されますと……?」
「俺様が最も欲している女だ」
そう言うと、ヨーゼフは杯に入ったワインをいっきに飲み干した。そして、うま味をかみしめるように唇をなめる。
「いいか、俺様が欲しいのは、ルカ・クレアローズだ」