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緋の砂  作者: みーねこ
15/36

心の蕾①

あけましておめでとうございます。第五章です。前回、ちょっと切りすぎた感じがありますが、どうでしょうか…?

第五章:心の蕾


     1


 “市門”というものを間近でじっくりと眺めるのは、ショウにとってこれが初めてだった。以前リボルバーヘルトへ向かうとき、この市門を通ってローゼンシュトルツを出たはずだったが、あまり注視していなかったので記憶に薄かった。だからこそ改めて間近で眺めると、その仰々しさに呆然としてしまう。


 市門から左右に伸びた高く頑強な壁は“市壁”と呼ばれ、グラミスキャッスルを中心に大きく円を描くように建てられている。この壁に囲まれた王国が、かつてリボルバーヘルトと呼ばれていたのである。しかし、『薔薇の革命』によって、国の中央を横断する川から北をローゼンシュトルツ、南をリボルバーヘルトと二分される形となった。リボルバーヘルトとローゼンシュトルツに共通点が多く見られたのも、そうした歴史の経過があるからである。


 市門は、巨大な円形の塔と一体になっていた。物見やぐらの役割を果たすこの塔の下に、分厚く頑強な木造の門がある。この門は荷馬車が一台通れるくらいの幅で、高さもそれほどなかった。門の外側には、女兵士が左右に一人ずつ常駐しており、通過する全てのものを厳重に点検する。特に入ってくるものに対しての警戒は一塩である。ボディチェックはもちろん、荷物ひとつにしても隅々までチェックされて、ようやくローゼンシュトルツへと足を踏み入れられるのである。


 ショウは、市門が開くのを今か今かと首を長くして待っていた。ルカと一緒に馬に乗って待っていればいいものを、市門の前に到着するなり飛び降りたほどだ。

 程なくして、門が重々しい音を立てて開いた。


「ショウ!」


 門が開くなり、黒い布を全身に巻いた少女が、ピンク色の髪をなびかせて駆けてきた。そして、ショウに覆いかぶさるように抱きつく。


「ぶわっ!」


 いきなり抱きつかれたショウは、彼女の豊満な胸が顔に覆いかぶさってきて、呼吸困難に陥りそうになっていた。


「く、苦しいって、ちょ、ダリア!」

と、胸の中でもがきながらも、悪い気はしない。


 やっと放してもらえたと思った頃には、ショウの顔は柔らかい胸のおかげでホクホクと温まっていた。


「逢いたかったわ、ショウ」


 人懐こい笑顔と甘い猫なで声が、ショウの耳をくすぐる。


 ショウが市門の前で待ち焦がれていたのは、ダリアだった。リボルバーヘルトでの一件で、娼婦の館に捕らわれていた女たちをローゼンシュトルツへ入国できるよう、ルカが手配したのだった。


 ダリアを筆頭に、続々と女たちが市門を通り抜けて、ローゼンシュトルツへ足を踏み入れた。

 その瞬間、女たちは歓喜の声を上げて、夢にまで見た楽園の景色を希望に満ちた眼差しで眺めたのである。


「ようこそ、ローゼンシュトルツへ」


 ルカは、颯爽と馬から降りると、彼女たちへ優しい笑みを向けた。

 女たちは、ルカを見るなり一斉に頭を下げた。


「ルカ様、ありがとうございます!あなた様のおかげで、私たちは救われました」

「頭を上げてください、みなさん。私は、私にできることをしたにすぎません。あなたたちを救ったのは、ここにいるショウとリボルバーヘルトのルーダ殿です」

「ルカ様、そのルーダ様から手紙を預かっています」

と、ダリアがルカに書状を手渡した。黄みがかった紙がひと巻きにされた簡単なものだった。公式なものではない、いわゆる密書だ。


「ルーダ殿から?」

「ルーダ様は、私たちを気遣い、ここまで送ってくださいました」


 ルカは書状を読むと、門の外を見遣った。

 遠くに、馬に跨る男の姿が見えた。

 ルカは、その姿に向かって深々と頭を下げた。男もまた礼を返すと、馬をひと鳴きさせて走り去っていった。


「何て書いてあったんだ、その手紙に?」

と、ショウが横から聞いてきた。


 ルカはその書状を大事そうに懐にしまうと、閉まっていく門を見つめながら言った。


「彼もまた、この世界が変わることを望んでいます……」

「それって、少しずつルカの目指す理想の世界に近づいてきてるってことじゃん」

「そうですね」


 そう言うと、ルカは笑った。その笑みは、穏やかでいてとても嬉しそうだった。



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