餓狼の企み④
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ショウを見送った後、ルカは国王ヨーゼフと謁見するため扉の前に立った。
過去に一度、ルカはヨーゼフと顔を合わせたことがある。それは、まだヨーゼフが国王の地位に就く前のことだった。
当時、国王に謁見するため同じように城に訪れていたルカの前に、侍女を奴隷のように扱うヨーゼフが現れたのだ。三白眼の鋭い目つきと、人を見下したように笑う口元は忘れもしない。
彼の侍女に対する見るに耐えない粗暴な振る舞いに、ルカは自分の立場も忘れて憤激した。あれ以来、再び顔を合わせる日が来ようとは……。
(国王ヨーゼフ……)
ルカの顔からは、一切の笑みが消えていた。普段の優しく穏やかな雰囲気は微塵にも感じさせないほどに。再び蘇えるあの日の憤りが、ルカの周りの空気を張り詰めさせる。
ルーダは、自分の背中にそれを感じていた。彼もまた、あの日の当事者の一人だった。静寂の中に放たれるルカからの殺気は、扉に手をかけるルーダの手を震えさせるほどだった。ルーダは手に力をこめた。気圧されてはならないと。
扉は開かれた。細く赤い絨毯の先に、国王ヨーゼフが両脇に美女を従え鎮座している。背後にはリボルバーヘルトの紋章を象ったタペストリーが飾られていた。
ルーダは一歩進み、国王に恭しく頭を下げた。
「ローゼンシュトルツ四天王が一人、ルカ・クレアローズ様にございます」
「来たか」
ヨーゼフは一段高い玉座から、ルーダの後ろに控える美しい女の姿を確認した。
「ルーダ、おまえはもういい。下がれ」
「御意」
ルーダは一礼すると、ルカに進むよう促した。そして、自らが扉を閉める。
バタンと重々しい音を轟かせて、扉は閉じられた。ルーダは脱力したようにその扉にもたれかかる。そして虚空に目をやると、呼吸を整えるように深く息を吐いた。
扉が閉じられ、ルカは国王の前にゆっくりと歩み出た。形式的に礼をして、玉座に構える国王を見据える。たとえ彼が一国の王だとしても、ルカは彼に跪く気はなかった。それが礼に反していたとしても、非道な暴君に下げる頭などない。
ヨーゼフにとって、ルカの凛とした態度は彼の気に入るところであった。屈服することのないルカの強い意志に、笑みすら浮かべる。
(ルカ・クレアローズ、おまえはそうじゃねぇとおもしろくねぇよな)
「ルカ・クレアローズ、よく来たな。三年ぶりか。相変わらず美しいな、おまえは」
傲慢な態度は相変わらずだった。この男に礼儀を求めるほうが難しい。
「ミルテはどうしてる?」
「気にかかりますか?」
「まぁな。俺様だって、反省してるんだぜ?」
「反省している」という言葉が国王の口から出たとき、ルカはわずかに表情を緩めた。
(彼に罪を悔いる心があるなら、ミルテも救われるでしょう……)
しかし、ルカの目の前にいる男は狡猾な狼。彼は、ルカのわずかな変化を観察して楽しんでいるようだ。
「本当に反省してるんだぜ。惜しいことをしたってな。あいつはいいオモチャだった。あの時おまえさえ現れなければ、今頃ここにいたかもなぁ」
と、ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながら、ヨーゼフは脇にはべらせた妖艶な美女の腰に手を回した。
ルカはあからさまにヨーゼフを睨みつけた。やはり彼は何も変わっていなかったと。
「そう睨むなよ、ルカ。せっかく再会できたんだ、もっと楽しくやろうぜ」
「あなたと興ずるつもりはありません」
「じゃあ、何しに来たんだ?」
「それはあなたが一番よくお解かりでしょう」
ルカはヨーゼフを見据えた。力強く曇りのない瞳が、ヨーゼフの三白眼を捉える。
「美しい……」
と、ヨーゼフは悦に入るように言った。
「その力強い瞳、麗しい唇、しなやかな物腰……」
「話を逸らされるおつもりですか」
「逸らすつもりなんてねぇよ。なんせ、俺様はおまえ欲しさに、女王暗殺を計画したんだからな」
ヨーゼフの言葉に、ルカは目を見開いた。
「聞きたかったんだろ?女王暗殺計画の真意を。簡単なことだ。おまえをここに引きずり出すためだよ」
「私を……?」
「ぶっちゃけ、女王が死のうが死ぬまいがどっちでも良かった。どっちにしろ、おまえは俺様のところにすっ飛んでくると思っていたからな。ま、死んでくれていたほうが、お前の慌てふためく姿がもっと見られておもしろかったんだろうがな」
「あなたという人は……」
ルカは怒りに声を震わせた。
「俺様は欲しいと思ったものは必ず手に入れる。どんな手を使ってもな」
「あなたのその軽率な行為が、戦争という最悪の事態を招こうとしていたのですよ!」
ルカは激高して叫んだ。
だが、ヨーゼフは薄笑いを浮かべているだけだった。
「そんなこと、俺様の知ったことじゃねぇんだよ」
「なんということを……。あなたは、それでも一国の王ですか!」
「それでも一国の王なんだよ、ルカ。誰もが恐れおののき平伏す、リボルバーヘルトの国王なんだよ。おまえも跪け、ルカ・クレアローズ」
そう言うと、ヨーゼフは玉座から腰を上げ、ビロードの長いマントを引きずりながらゆっくりとルカに近づく。そして、ルカの白く滑らかな頬にその手を触れた。
「俺様のものになれ」
ヨーゼフの手は頬を滑り、ルカの銀色に輝く髪をなぞっていく。そして、一束掬い上げて自分の唇に押し当てた。かぐわしい香りが、ヨーゼフをエクスタシーへと誘う。
ルカは動じなかった。顔色一つ変えずに自分の髪を奪い返すと、物怖じせぬ態度で抗う。
「あなたに平伏するつもりはありません」
「そうこなくっちゃおもしろくねぇよな」
ヨーゼフはひるむ様子もなく言った。むしろ楽しんでいる。容易に手に入らないものこそ、ますます手に入れたくなるというわけだ。
「どうだ、取引をしねぇか?」
ヨーゼフの指先が、今度はルカの唇に触れた。艶やかな薄紅色の唇を、ヨーゼフは恍惚として眺める。
「おまえが俺様のものになれば、ローゼンシュトルツから手を引いてやってもいい。ついでにこの国に住む女たちも解放してやる」
「断れば……?」
「断れば……そうだな……。あの女の首でも刎ねるか」
と、ヨーゼフは後方に控える美女の一人を指差した。指された女は、青ざめて身を縮める。
「俺様は本気だぜ?なんなら、見せしめに一人殺してもいい」
そう言ってヨーゼフは冷ややかに笑うと、腰に下げていた剣に手をかけた。鞘から研ぎ澄まされた刃が、銀色の光沢を放ってゆっくりと顔を見せる。彼は本気だった。女たちの命など、これっぽっちも気にかけていない。欲しいものを手に入れるためなら、平気で人を殺めるだろう。
ルカはとっさに両手を広げて立ち塞がった。
「やめなさい!彼女たちに手を出すことはこの私が許しません!」
ルカの甲高い声が、この大広間に響いた。息を荒げて、ルカはヨーゼフを睨み据えた。ルカの脳裏に“あの日”が蘇える。あの日も同じように、激高してヨーゼフの前に立ち塞がったのだった。そして、ミルテという一人の少女を救った。
ヨーゼフの目にもまた、“あの日”の光景が映写されていた。ヨーゼフは、クククと不気味に笑いを噛み殺すと、右手をルカの口元へやった。
「それは……交渉成立ってことだよなぁ?」
その一言にカッとなったルカは、渾身の力をこめて、平手をヨーゼフの頬めがけて放った。しかし、ヨーゼフの左手によってあっさりと制されてしまう。それでもルカは力を抜かなかった。か細い腕を小刻みに震わせながら、必死の抵抗を試みる。力ではヨーゼフのほうに分があった。わずかながらルカの手が押したかと思うと、すぐに押し返される。それでも、ヨーゼフにかなりの力を消費させていた。気を抜くと、ルカの平手が頬をかすめるだろう。
ヨーゼフはルカを制した手に、さらなる力を加えた。
ルカの手首が悲鳴を上げる。それでもルカは一瞬の気も許さなかった。痛みを怒りに換え、無言の抵抗を続ける。
ヨーゼフは不意に笑みを漏らした。この状況下で、まだ笑うだけの余裕が彼にはあった。右手で力任せにルカの顔を自分の顔に引き寄せる。
「そうだ、ミルテをかばったあの日も、おまえはそうやって燃えるような熱い瞳で俺様を睨み据えていた。忘れもしない。体中に電撃が走るようなあの感覚を。俺様はあの日からおまえのことが欲しくて欲しくてたまらなくなった。おまえの瞳が焼きついて頭から離れなかった」
ヨーゼフは、興奮気味に言い放った。そして、ますますルカを引き寄せる。
「どうすれば、もう一度おまえは俺様の前に現れる?どうすれば、お前が手に入る?俺様はずっと考えていた。そして思いついたのが、女王暗殺だ。おまえはすぐに気づいたはずだ、俺様の仕業だと。そしてこうも思ったはずだ。リボルバーヘルトが宣戦布告をしてきているとな。戦にさせたくないおまえは、必ず俺様のもとへ交渉にやってくると思っていた。外交を司るおまえが、俺様のもとへ来ないわけがない」
「くだらない……。そんなことのために……あなたは……」
ルカは唇をかんだ。こんなくだらない理由で女王の命が狙われ、刺客である男たちは囚われて明日をも知れない状況に見舞われているのだ。
「言っただろ?俺様は欲しいと思ったものは必ず手に入れるってな。ルカ・クレアローズ……おまえはもう、俺様のものだ」
そう言うと、ヨーゼフはルカの唇に自分の唇を押し当てた。
ルカは目を見開いた。驚愕のあまり全身の力が引き潮のように失せていく。その瞬間、ルカの身体は、ヨーゼフの成すがままに地面へと押し倒されたのである。
強く身体を押され、ルカは背中を強打して倒れた。それと同時に、声にならないほどの激痛がルカの全神経を麻痺させた。倒れた拍子に、まだ治りきっていない傷を刺激してしまったのだ。ルカは苦痛に顔をゆがめた。
ヨーゼフはルカの上に馬乗りになった体勢で、苦痛に顔をゆがめるルカの姿を恍惚として眺める。
「ルカ、おまえの美しさにかなう者はいない。どんなに美しいと称される花でも、真っ赤に燃える気高き大輪の薔薇の前では、ただの花だ」
ヨーゼフは再びルカの唇を奪った。今度のそれは喰らいつくように激しく。
ブチッ
不意に刺すような痛みが走り、ヨーゼフは面食らって唇を離した。彼の唇から、一筋の鮮血が垂れる。ルカのささやかな抵抗が、彼の唇に傷を負わせたのだ。
ヨーゼフは口元を緩ませて血をぬぐった。それから容赦なくルカを殴る。彼の目に、もう笑みはなかった。冷酷な眼差しが、無言でルカに語る。もう遊びは終わりだ、と。
それでもルカの瞳は力を失わなかった。傷の痛みでしびれた身体に鞭を打ち、好色な男の手を払いのける。これ以上触れるな、と。
「悪あがきを……」
と、ヨーゼフは吐き捨てた。
「おい、おまえらこいつを押さえろ」
ヨーゼフの言葉は、後方で怯えながら一連の様子を伺う女たちに向けられていた。顔面蒼白の女たちは、震える身体を互いに寄り添わせる。
「聞こえねぇのか?押さえろって言ってんだよ」
ヨーゼフの凄んだ声は、彼女たちの自由を奪うのに十分だった。逆らうことなど許されない。絶対服従が彼女たちの命を繋いでいるのだから。
女たちは恐る恐るルカの頭上に集まってきた。過度に露出した肌は総毛立ち、全身が恐怖のあまり小刻みに震えている。彼女たちは躊躇しながらも、二手に分かれてルカの腕を押さえた。枷にしては弱々しいものだったが、思うように力を出せないルカにとっては、鉄枷のように重いものだった。
これで、抵抗する術はなくなった。
「皮肉なもんだな、ルカ。おまえが庇おうとした女たちに自由を奪われるとはな」
ヨーゼフは意気揚々とルカの制服のホックに手をかけた。
「さぁ、楽しもうぜ、ルカ。ローゼンシュトルツの平和を願って……」
上着を脱がせて、ヨーゼフはルカに口付けた。唇の柔らかさを確かめた後、彼の手はブラウスへと伸びた。ボタンを半分まではずせば、ルカの透き通るような肌を十分に堪能できる。ヨーゼフはルカの細い首筋に唇を押し当てると、そのまま下へと這わせていく。胸の辺りまで来て、彼は息を呑んだ。目を見開き愕然として、横たわるルカを見つめる。
「お……おまえ……」
言葉にならないほど、ヨーゼフは狼狽していた。
彼は知ってしまったのだ、ルカ・クレアローズの正体を。
ルカはこの好機を見逃さなかった。ヨーゼフが半ば放心状態に陥っている隙に、渾身の力を振り絞り女たちの枷を振り切って、ヨーゼフの身体を突き飛ばしたのである。
痛む身体を起こすと、ルカは真っ先にブラウスのボタンを閉めた。それから上着をはおり、ヨーゼフに背を向ける。彼がルカに手を出すことは、もうないだろう。
驚愕に満ちたヨーゼフの視線を背に、ルカは沈痛な面持ちで部屋を去った。
残されたヨーゼフが気の抜けたように笑う。
「はは。ははは……。おもしれぇ……。おもしれぇよ、ルカ・クレアローズ!」
ヨーゼフは咆哮した。その瞳に、新たな企みを持って。
重たい扉を押し開けて、ルカは悪夢から抜け出した。荒い呼吸はやまず、脈拍がますます上がっていくのがわかる。それから背筋が寒くなり、全身が震え始めた。ルカは身を縮めるように自分の肩を抱いた。震えが止まらない。
「ルカ殿」
そう呼ばれて、ルカの鼓動は激しく高鳴った。そして血の気が失せ、身体が硬直する。誰かに見られているなど、思いもしなかったからだ。それ以前に、周囲を気にする余裕など、このときのルカには毛頭なかったのである。
ルカは恐る恐る顔を上げた。声の主と視線が合う。
「ルーダ殿……」
ルーダの瞳はすでに何もかも察していたようだった。なぜ、ルカのか細い身体が震えているのか。この扉の奥で何が起こっていたのか。彼がルカに向けた瞳は、全てを承知していた瞳だったのである。それもそのはず、彼は何もかも承知の上で、ルカを王のもとへと通したのだから。
ルーダの瞳が、哀れみの色に染まった。彼の乏しい表情に、確かにそれが表れた。
ルカはいても立ってもいられなくなった。一刻も早くこの場から立ち去りたかった。屈辱と羞恥にゆがんだ顔を誰にも見られたくなどなかったのだ。
それなのに。ルーダは、通り過ぎ去ろうとするルカの手を掴んだのである。
ルカはとっさに振り返った。そして、ルカが目にしたものは、自分の前に平伏す秀麗な男の姿だった。常に冷静沈着な男が、取り乱したようにルカの前に跪いたのである。
「どうか国王の非礼をお許しください、ルカ・クレアローズ殿!このルーダ、どんな罰をも受ける覚悟にございます。どうか、どうかお許しを……」
「やめてください」
「いいえ。私は非道な男です。なにもかも承知しながら、あなたを国王の元へお通ししました。私もいわば同罪なのです」
「なぜ……?あなたほど聡明な人が……?」
「国王のために尽力することが、私の使命にございますので」
「……そうして、何度逃げれば気が済むのですか?」
ルカは小さくつぶやいた。ルーダに向けてつぶやいたのか、それとも自分への問いかけか。そして、ルーダに背を向けた。
「お待ちください、ルカ殿!」
「これ以上、あなたとお話しすることは何もありません」
「ルカ殿!」
ルーダは、再びルカの手をとった。ルカはそれを振り切る。
「あなたは何もわかっていない!」
「……」
ルーダは言葉を失った。戸惑いながらルカを見つめる。
ルカは呼吸を整えると、静かに口を開いた。悲しみと無念に満ちた瞳を向けて。
「あなたに罪の意識があるのなら、私にではなく、虐げられている多くの民にその言葉を向けてください」
おもむろに歩き出すルカを留めることに、ルーダは躊躇した。彼の中に、ルカの言葉が深く染み込んでいく。
国王のために、ルーダは身を粉にして働いてきた。心の底に疑問を抱えながら。国王に忠誠を誓い、国王のための国づくりを目指してきた。そうすることでしか、自分を見出せなかったのだ。事実、ルーダは国王から厚い信頼を得ていた。国王の傍には必ず彼が従い、唯一意見することを許されていた。恐れ多くも進言し、切り捨てられる者たちを嫌というほど見てきたルーダにとって、自分に許された特権がどれほど価値のあるものか骨身に沁みていた。それと同時に、心に深い疑念が募っていった。
自分はこの国をどうしたいのだろう。国王の望みを叶えるたびに、自問自答を繰り返した。次第にルーダは感情を押し殺すようになっていた。もともと寡黙なほうだった彼にとって、それは容易いことだった。そして皮肉にも、そうしたポーカーフェイスが国王の信頼を厚くさせたのだった。虐げられる女たちを見ても、眉ひとつ動かさず、関心を示さず……。
ルーダの心の葛藤は、日に日に激しさを増していった。苦痛にゆがむ女たちの顔を思い浮かべると吐き気がする。自分が望む国は、こんな国ではない。だが、自分にはどうすることもできなかった。手を差し伸べることは、死を意味するのだ。命を懸けてまで、守る勇気などなかった。
そんな時だった。彼の前に、ルカ・クレアローズという女が現れたのは。彼女は、恐れることなく自分の信念と向き合っていた。たった一人の娘を守るために、彼女は自身を盾にしたのだ。
(私は……)
ルーダは去っていくルカの背を見つめた。凛々しくもはかない。ルーダにはそう映っていた。
「ルーダ様、ルカ様!」
不意に呼ばれて、ルーダは我に返った。ルカも歩みを止める。前方から、ピオニーが血相を変えて走ってきたのだった。
「どうしたのです?」
真っ先にそう声をかけたのは、ルカだった。後からルーダも駆け寄る。
ピオニーは肩で息をしながら、苦しそうに途切れ途切れに話した。よほど急いで走ってきたのだろう。
「シ、ショウが……ショウが……」
「ショウ?ショウがどうかしたのですか?」
ルカはそう口にして、あることに気がついた。ピオニーと一緒に街へ出かけたはずのショウの姿が見えない。嫌な予感がする。
「ショウに何かあったのですか?」
「ショウが……攫われ……て……」
ピオニーは大粒の涙をこぼしながら、ようやくそう告げた。
外は雲行きが怪しくなってきた。一雨くるかもしれない。