仕事
連載始めました。よろしくおねがいします。
生きるのが上手なひとって、どんな人のことを言うのだろう。
仕事をそつなくこなす人、結婚して家庭を持ってる人、友達がたくさんいる人、趣味に没頭できる人、芸術的センスがある人。
他にも色々あると思うが、少なくとも私は一つもないから生きるのが下手くそだと思う。
私は今、会社の自分のデスクで黙々と書類を作っていた。上司のパワハラや残業に耐えながら一年半働いていたが、ある日から仕事に行こうとすると全く足が動かなくなり、会社に仮病の連絡をして休む日が少しづつ増えていた。そうすると上司の人が不定期に休み出した私のことを鬱陶しくなったらしく、「次休んだら診断書を必ず提出しろ」といってきた。私は病院なんて行ったら仮病がバレてしまうから行きたくなかった。でも、上司から言われてしまったから行かざるお得ないと思い込んでいた。そうして八方塞がりになてしまった私は側から見ても相当ひどい顔をしていたのだろう。先輩が気を遣いながら話しかけてきた。
「ゆりちゃん、体調は大丈夫?」
「あ、先輩、おはようございます。体調の方は今の所大丈夫です」
「そう、それは良かったわ。」
「ご心配をおかけしてしまい、申し訳ございません。」
「いいのよ、気にしないで。それよりも、ゆりちゃん。あなた、あの上司とうまくやれてる?」
「えっと、どう言う意味でしょうか?」
「だって、あの人、うちの会社では特に部下に強く当たることで有名じゃない?」
「えっ、、、」
「そのせいで若い子がどんどん辞めていくし、何なら鬱になっちゃう子だって少なくないのよ、だからゆりちゃんは大丈夫かなって心配になったんだけど」
初耳だった。確かに私の上司の人はいっつも不機嫌だし、仕事に関係ないことでもすぐ怒る人ではあった。
でもそれは私が社会人としてまだ未熟者だから怒られても仕方ないと思っていたし、何より頑張っていればいつかは認めてくれると信じていた。
しかし、そんなわたしの思いなんかしらない先輩は淡々と語る。
「あのひとは若い子が大嫌いなのよ。とくにゆりちゃんは仕事もできるし愛想もいいじゃない?あのひとにとって、そういういい子は特に気に入らないのだと思うわ。だからきっとゆりちゃんに対しての当たりも相当強かったと思うのよ。それで最近少し休みがちになったじゃない?だから今までの子同様にまた辞めていっちゃうんじゃないかって心配になっちゃったの。」
「そう、なんですか」
私はそう返すのがやっとだった。上司の人が私のことを嫌っているなんて思いもしなかった。ていうか、大の大人がそんな子供じみた理由で嫌がらせをしていることがショックだったし、その矛先が私に向いているのが怖くなった。
「それでね、お節介かもしれないけれど、一度心療内科にいってみたらどう?」
「心療内科、ですか?」
「そう、あなた自身は何ともないと思っていないかもしれないけれど、心の病気って本人が気づかないうちに深刻な状態になっていることもあるじゃない?それに最近体調崩しがちだったのと何か関係があるかもしれないし、それにどうせ上司に診断書提出しないといけないんでしょ?一度いってみたら?」
心療内科、それは私にとっては縁のないものだと思っていた。小さな頃から割と普通な家庭で育ったので心の病気とは無縁の生活を過ごしてきた。だから、すごくショックだった。今の私は側から見ても病んでいるように見えているのだ。だからこんな話になってしまったのだ。
「わ、私は大丈夫ですから、」
「そういって無理して出社してつぶれた人を何人も見てきたから今のうちに言ってるのよ。少しは考えてみて。」
「、、、はい、わかりました。ありがとうございます。」
そう返すので一杯一杯だった。
その後は仕事しながら心療内科のことで頭が一杯になっていた。
鬱病で悩む人が多いことはもちろん把握していたが、私がそれになるのはどうしても想像できなかった。
でも、体の調子がどこも悪くないのに数日に一度仕事に向かおうとすると足が全く動かなくなってしまう原因がそう言う類の病気かもしれないのなら、杞憂だとしても一度見てもらうのが賢明な判断なのだと理解していた。
だから、また休ませてもらうことになってしまうが、明日病院に行こうと、自分の中で決心がついた。
すると、
「おい、ちょっといいか」
上司が私のことを呼び出した。
「はい、何でしょうか。」
「今日中に完成させなければならない書類が大分溜まっていてな、これ、全部やっといてくれ。」
そう言って渡してきた仕事は、今日中にできるかどうか怪しいほどの量だった。
「すみません、今日中に終わるのかわからないので、別の人と分担してやってもよろしいでしょうか。」
「だめだ」
「え、」
「これは君が休んだせいで溜まってしまった仕事なんだ。自分の尻拭いもできないで、社会では生きてはいけないよ。これでも他の会社よりは大分マシなんだから、しっかりやってもらわないと、わかった?」
「、、、はい、わかりました。」
こうして、私は今日も家に帰れないのが確定した。